27.07.月花庭園4

482: 名無しさん :2019/04/09(火) 22:24:08 ID:???
「ちょ、ちょっとリンネ!」

サキの呼びかけにも応じず……リンネは人生そのものに投げやりになっているかのような、暗く儚い表情のまま、背を向けて庭園の奥へ歩いていった。

「あーもう何なのよリンネの奴!初めて会った時はクソみたいなオカマだったくせに、ナルビアで助けたり急に好きとか言ってきたり!」

「え、お姉ちゃんそれって色々どういうこと!?あの人男の人だったの!?それにお姉ちゃんが好きって!?気になる気になる!」

「ユキ、私もそれは気になるけど、今はそれどころかじゃないわ!」

「……それに、ヨハン様が操られてたユキを傷つけたなんて……そんなわけないじゃない!ねぇユキ?」


色々信じられないことを聞いたサキは、一端リザのことを脇に置いた。そして気持ちの整理をつけるために、ユキにあの日……大怪我を負った日のことを訪ねる。

だが、その結果は……


「え……ヨハンさんが、私を……?う、ぐ、うぁ……!?」

「ゆ、ユキ!?どうしたの!?大丈夫!?」

「あ、頭、割れちゃ……!あ、あああぁああぁあああ!!」


★ ★ ★

「フハハハハハ!邪術師でもない限り、この結界には入れない!助けなんて来ねぇのさ!ゲハハハハ!!」

「はいはい、フラグ立てご苦労様……シャドウボルト!」

「なに……?ぐわぁあぁああ!!!」

突然、結界内の空間が歪み……ミイラ男の後ろから、黒髪の少女……サキが現れる。
完全に不意討ちで現れた少女にミイラ男が対応できていないうちに、サキは攻撃魔法でミイラ男を攻撃した。

「げ、げはっ……!バカな、なぜこんなところに、邪術師が……!?あのクソ王、話が違うじゃ……ない……か……」

サキの攻撃を受けたミイラ男は倒れ……周囲に展開していた結界が崩壊し、元の美しい庭園が辺りに広がった。

「……やっぱり露出狂が噛んでんのね。ほんと、あの変態の下で働くのが嫌になるわ」

「はぁ、は、ぁ……!リゲ、ル……!?」

ミイラ男の攻撃から解放されたアリスは地面に倒れ、息も絶え絶えにかつて取り逃がした相手を見上げる。

「なぜ、私を助けたのです……?この私が、恩に着るとでも、思い……ぅぐっ!!」

地面にうつ伏せに倒れながら気丈に振る舞うアリスの背中を、サキは踏みつけて黙らせた。

「別に、ああいう手合いはそのうちこっちにまで手を伸ばしそうだったから倒しただけよ。それに、あんたには聞かなきゃなんないことがあるからね。本当はクソリザがやられてるうちに、あんたを後ろから襲うつもりだったけど……まぁ結果オーライだわ」

そう言ってサキはアリスの背中を踏む力を強くしながら、詰問する。

「……舞は無事なんでしょうね」

「ぐ、ぅ……教えて、さしあげると……お思いですか?」

「あっそう、まぁぶっちゃけ正直に答えるとは最初から思ってないし。口車に乗ったみたいで癪だけど、リンネの奴にでも聞くとするわ」

「っ!リンネさんには手を出させまん!今度こそ私が……!ぐぅあぁあ!!」

歯を食いしばって立ち上がろうとしたアリスだが、サキに腹部を蹴り上げられて、今度は仰向けを転がってしまう。

「ったく……大人しく寝てなさい!」

「ごぶっ!」

仰向けに転がったアリスの腹部を思いっきり踏みしめるサキ。ミイラ男との戦いで消耗していたのもあり……アリスは気を失った。

「サキ……ありがとう、助かったよ」

ミイラ男のセクハラ攻撃で倒れていたリザも何とか立ち上がり、サキに歩み寄る。

「クソリザ、あんたはほんとピー◯姫かってくらい毎度毎度やられて……あんたは私の小間使いくらいがちょうどいいわ。母さんとユキをトーメントまで送ってってちょうだい」

「でも、私はサキがナルビアで危ない目にあわないように、護衛を……」

「そのザマでよく護衛とか言えるわね。別にわざわざナルビアまで行かなくても、リンネの奴と話をする算段はついてるわ」

それを聞いて得心したような表情をするリザ。アリスを人質にでもとって情報を脅し取るつもりとリザは判断したのだ。

「……私は庭園の奥でリンネと話をして来る。母さんとユキは向こうにいるから、ちゃんと送りなさいよ」

483: 名無しさん :2019/04/13(土) 13:55:24 ID:V11pQM7U
「……また会いましたね、サキさん」

「……一応、こいつは殺してないわ。あんたの仲間でしょ?」

美しい花々が並ぶ、月下庭園の奥。家族のことをリザに任せたサキは、リンネと再び邂逅していた。
気絶しているアリスを除けば、今度は2人きりだ。

「仲間、ですか……ただ同じ国に属しているだけですよ」

サキが適当にその辺りにアリスを放り捨てても、リンネは特に気にした様子はない。

「……そうね。同じ国にいるからって、仲間とは限らない……あんたの言ってることは本当だったわ。ヨハン様が、ユキをあんな、自分じゃ立てないような体にした……」

サキがヨハンのことを言った瞬間、突然頭を押さえて苦しみ出したユキは、あの日のことを思い出していた。
そして、涙ながらに、彼が自分を徹底的に痛めつけることで、サキがトーメントから抜け出せなくなるように楔を打ったことを伝えたのだ。ユキは、もうサキに危険な任務を続けて欲しくないと頼んだが……

「……もう、ムカつく連中ばっかのあの国で働く義理はない……けど、ユキや母さん……それに、舞を守るには……トーメントの、力がいるの」

「……僕も同じですよ。僕が生きていくには、ナルビアにいるしかない……けれどもう、あんな連中のために働くのは御免です」


そう言ってリンネは、自分のことを語った。
自分が過去の英雄の細胞から作られたクローン人間であること、ナルビアの薬がないと生きていけないこと、戦闘兵器として生まれてきたヒルダを本当の妹のように思い、守りたかったこと。
……けれど守りきれず、ヒルダはもうメサイアという殺戮兵器になってしまったこと。

「僕たちは協力し合えると思います。互いに情報をリークしあい、貴女は家族と、僕はヒルダと……穏やかに暮らす方法を探すために、情報を共有しましょう。そうすれば、わざわざ命を賭して敵国へ潜入することもない」

「……利用し合う、共犯者ってわけね……悪くない話だけど、その前に舞を返してもらうのが先よ」

「彼女はもうナルビアにはいません。協力者として招かれていた司教アイリスに操られ……今はアイリスも彼女も、居場所すら掴めていません」

「っ……!あのオバサン……!」

それを聞いて、サキは唇を噛む。以前のサキであればリンネの言ったことを信じなかっただろうが……何故か今は、彼が嘘をついていないと思えた。

「その辺りも情報を掴み次第、お伝えしますよ。まずはナルビアの主な主力兵器やシックス・デイたちのことをお教えします……サキさんはトーメントの新兵器や十輝星について教えてください」

「そうね……そうやって楽に仕事しながら、真っ白幼女を元に戻したり、ユキの治療をしたり、舞を探したりする方法を探すってのは、悪くないわ。じゃあ早速、ナルビアのことを聞かせてもらおうかしら」

「そうですね……けれど、その前に一つだけ……」


そう言ってサキに近づくリンネ。

「何の用……ん、む……!?」


リンネは突然サキの顎を掴むと、顎クイしながら……その唇に、キスをした。振り払おうと思えば、簡単に振り払えそうな、唇を触れ合わせるだけのフレンチキス。

だが、サキは……振り払わなかった。

484: 名無しさん :2019/04/13(土) 13:57:06 ID:V11pQM7U
「……いつも、やられっぱなしでは……悔しいですからね」

「り、リンネ……言っとくけど、ヨハン様に失恋して傷心してるから許したとかじゃないわよ。あんた女っぽいけど顔立ちはいいから5年後くらいまで考えたら有望だし、それに、ナルビアで助けてもらってからは結構嫌いじゃなかったっていうか……」

あわあわとしながら、言い訳のようなことを早口で言うサキ。リンネは、サキの底意地悪く強かに生きる姿に、自分と似た境遇なのに、自分にはないものを見出して惹かれたが……いざ可愛らしい反応をされると、ギャップにクラクラした。


「……もう一回……もうちょっと激しく、キスしても……いいですか」


「……好きにしなさい。初心なあんたと違って、私はキスくらいなんでもないんだから」

大きな力に利用されるだけの人生など御免な二人。家族を大切にしている二人。出会った当初は険悪であったが、いつの間にか認めあい……惹かれあっていた二人。

(ああ、そういえば……)

サキはふと思う。邪術師として生きていると、必然的に誰かにキスをして魔力や体力を吸うことが多くなる。
けれど世界の意思とでも言うべきか、相手は基本的に全て美女美少女だった。

(……同性ノーカンにしたら、私の初めてのキスも、リンネってことになるわね……)

そんなことを考えながら……サキは目を閉じて、リンネを受け入れた。






(う、そ…………リン、ネ……さん?)

辛うじて意識を取り戻したアリスは、目の前の光景を愕然と見ていた。

度重なるダメージで頭は靄がかかったようになっているし、意識はあっても体が動かない。

そんな、ただ意識があるだけの状態で、意中の相手が怨敵と熱い口付けを交わしている姿は……俄には信じられなかった。


(邪術師は、口付けで相手の体力を吸収すると聞きます。操られたエリスやレイナさんもそうでした。きっとリンネさんだって、無理矢理キスされてるだけ……)

頭では目の前の現実を否定しようとするも、リンネの方からキスしたという事実。そして何より、相手のことを本当に思いやっている、あの優しい仕草。

以前強姦未遂されかけた時の自分に対する乱暴な行動とは、あまりにも違う行為。

恋する乙女の本能とでも言うべきか……二人が想い合うようになっているのを、アリスは理屈ではなく心で理解してしまった。


(な、ぜ……なぜなんですか、リンネさん……!なぜよりによって、そんな、女…………に……)

元々負っていたダメージと、今受けた精神的ショックにより……アリスは再び、気を失った。

485: 名無しさん :2019/04/13(土) 23:13:22 ID:???
「んっ……!ん、んんうっ……」

「ふっ……!……ん、はっ……!」

優しく啄ばむようなキスをした後、宣言通り、唇を吸い上げ口内をかき回すような激しいキスをするリンネ。
慣れていないながらも異性であることを強く感じるような激しいキスに、サキも追いつけるよう必死にテンポを合わせる。

(い……意外と積極的っていうか……!は、激しっ……!キスだけでテンション上がりすぎなんじゃないのっ……!)

強気に受け入れてはみたが、思った以上に強引なリンネのリードについていくのがやっとだった。

「はぁっ、はぁっ……サキさん……!」

「んんぅっ……っ……!あんっ!」

リンネはサキの腰に手を回し、体を密着させるように無言で促す。
一瞬それに身を任せて体を寄せたサキだが、ふっと我に帰りリンネの顔を手で制した。



「ちょ……ま、待って……!」

「……あ、すみません……」

サキが手を出した瞬間、すぐに体を離し身を引くリンネ。
口元に着いたどちらのものかもわからない唾液をハンカチで拭き取りながら、サキは軽く息をついた。

「もう……激しすぎっ!初心のくせにあんまりがっつくんじゃないわよっ……」

「そ、そうですよね……つい調子に乗っちゃって……すみません。」

「……ほんと、やけに素直ね。やっぱりあの真っ白がいなくなって傷心気味なんじゃないの?」

「……それはさすがに否定できません。ヒルダは僕の全てでしたから。」

先ほどまでの激しい動きが嘘のように憂いを帯びた目で遠い目をするリンネは、サキの目から見ても少し異常だった。

(やたらとキスを求めてきたのは、恐らく自制心が効いてない証拠。……精神的に追い詰められていることは間違いなさそうね。)



「……ま、まぁ……わたしも向こうに母さんと妹がいるし、とりあえず連絡先でも交換しましょ。何か掴んだらすぐに伝えるわ。」

「そうですね……アリスは僕が適当に処理します。今のを見られていたらまずいかもしれませんが……ファントムレイピアがあれば記憶を壊すことも不可能ではありません。」

「あんたのそれ、ほんと酷い武器ね……もう2度と食らうのはごめんだわ。」

「サキさんにはもうやりませんよ……では、また連絡します。」

リンネは気絶したアリスを抱えた後、ぎこちないながらもサキに笑みを返す。
その笑顔を見たサキもまた、慣れてない笑顔を作った。

487: 名無しさん :2019/04/18(木) 23:51:45 ID:q2ji6Urg
「あ、お姉ちゃん!」

ナルビアの人間と話をしてくると行って庭園の奥に行ったサキを待っていたユキとサユミ。ユキはサキが戻って来たのを見て、明るい声をあげる。

「2人とも、ただいま……リザの奴は?」

「……魔物化した男性に、トドメを刺してくる、と言っていたわ」

「そう……まぁあいつのことなんてどうでもいいんだけ」

相変わらずリザに対しては素っ気ないサキ。だが、サユミは母の勘とでも言うべきか……娘の様子がおかしいことに気づいた。

「あら、サキ、何か顔が赤いようだけど、大丈夫?何かあった?」

「うぇっ!?」

意中の人とまではいかずとも、そこそこ気になってた相手と結果的に結ばれたサキ。図星を突かれたサキは明らかに狼狽する。

それを見て、ユキはピンと来たようだ。

「分かった!さっきの男の人と何かあったんだ!だってあの人、お姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「ええ!?サキ、それは本当!?ヨハンさんのことはもういいの?」

「えっと、なんていうか、ヨハン様がユキに酷いことしてショックだったっていうか、でも危ない雰囲気はそれはそれでアリっつーか、そもそもトーメント人の時点で多少の外道さは織り込み済っつーか、そもそも脈なしっぽかったっつーか……
まぁその辺諸々考えると、危なっかしくて放っておけない年下も悪くないっていうか……」

ヒルダを失ったリンネは、かなり危うい雰囲気を身に纏っていた。
放っておけないというか、そのうち世を儚んで自殺でもしそうな、自分がそばにいてあげなくちゃいけないとつい思ってしまいそうな……

そういった想いを要領を得ないながらも語る娘を見て、サユミは穏やかな表情を浮かべる。

「あら、そうなの?サキはしっかり者だから、そういう子が好きなのも不可思議じゃないわね」

「ナルビアの人みたいだけど、それでも恋人なんて素敵!ロミオとジュリエットみたい!
それにこんなに綺麗な花畑の中で告白されるなんて、やっぱりお姉ちゃんもロマンチックなの好きなんだ!」

興奮した様子で早口で語るユキ。少し前までヨハンに受けた暴虐を思い出して震えていたとは思えないが、それだけ姉の恋路が気になるのだ。

「いやまぁ、クソ生意気なオカマが滅茶苦茶落ち込んでて、つい……っていうか、私もヨハン様のことでショックだったっていうか、雰囲気に流されたっていうか……」

髪の毛をクルクル弄りながら、照れくさそうに、罰が悪そうに言い訳めいたことを言うサキ。
だが、ふと真剣な表情に戻る。

「……ねぇ、大事な話があるの」

真剣な口調になったサキに、2人も恋バナモードから表情を引き締める。

「私は、こんな国に尽くす義理はないと思ってる。でも、この世界で生きていくには、長いものに巻かれるのも必要よ。
だから私は、リンネと協力して情報を共有しあって、上手く生きていこうと思うの。
ただ国に利用されるだけじゃない、私たちも国を利用してやるの」

大いなる力に翻弄されながら生きてきた家族にとって、サキの言葉は重いものだった。


「サキ……どこか、静かな所に逃げるわけにはいかないの?」

「ここから逃げても、どこかで違う誰かに虐げられるだけ……それならいっそ、トーメントで好き勝手に生きる……私の目的は、変わらないわ」

思わず逃げ腰なことを言ってしまうサユミ。サキはそんな母に対し、諭すように語る。それを聞いて、今まで自分たちがサキの負担になり続けていることに暗い顔をするサユミとユキ。

「ほら、とりあえずはナルビアに潜入しなくても情報は手に入ったんだから!そんなに暗い顔しないで!こうやって賢く生きれば、今までよりも危険な目にも合わないわ!」

そんな2人を元気付けようと、努めて明るく振る舞うサキ。それを見て、ユキは益々得も言われぬ不安を覚えてしまう。何か、姉がとても危険な道に進もうとしている気がして……

「お姉ちゃん……これから、どうするの?」


そんな妹の質問に、サキは庭園の向こう……ナルビアの方を向く。

「そうね、まずは……女の子の強化状態を解除する方法でも探すとするわ」

496: 名無しさん :2019/05/01(水) 15:32:12 ID:???
「……ぐ……クソが……あの時見逃しておいて今、俺を殺すのか……?どこまでいっても人殺しのスピカさんよぉ……」

「………あなたは、牢屋にいたんじゃなかったの……?どうしてこんなところに……」

ミツルギで会った時、王に処罰の如何を問われたリザは、保留にしたつもりだった。
この男の狡猾な目が、自分と同じ目に見えたのだ。保身のために他人を陥れる、嘘をついている目に。
結局、この男をどうするかの答えは出ないままになっていたのだが……

「ククク……冥土の土産に教えてやる。俺は王に進言され、教授に改造されたのさ。あの時俺を見捨てたお前に、こうして復讐するためにな……!」

「……復讐……」

「その機会をくれたのは他でもないトーメント王……ククク、わかるか?俺たちアウィナイトを本気で守ろうとする奴なんかいない。お前が死に物狂いで作ってるあの保護区域も、お前が死にさえすれば、すべて吹き飛ぶのさ。ククク……」

「……………………………」

男はリザを絶望させようとしたが、リザの目の色はまったく変わらなかった。

「……王様がわたしを殺そうとしてるのは知ってる。アウィナイトを守る気がないことも知ってる……でも、あの人には絶対的な力がある。わたしはそれを利用しているだけなの。」

「……けっ、聖人ぶりやがって……集会を密告しただけで俺は巨万の富を手に入れた。まあ関係ねえが……お前の家族のことはよーく知ってるぜ。母ちゃんも姉ちゃんも綺麗だったよなあ?ククククク!」

「……!わたしたち家族のことを、知ってたの……?」

「へっ、ステラは俺らのマドンナだった。……ミゲルにはもったいねえ女だったんだよ。子どもを3人もホイホイ作りやがって……中出しが捗る理由はよくわかるがな。ケケケ!」

「…………………………」

男の話に強烈な嫌悪感を示し、リザは眉を潜めた。
要するに、男は嫉妬していたのだ。愛する女を奪われたという嫉妬……
金を手に入れるついでに、その嫉妬という憎しみを晴らしたかったのだ。

「ステラとミゲルの子どもなんてこの世にいらねえ……ステラは俺のもんだったんだ。生き残ったお前を殺すためにこの力を手に入れた……だが、上手くいかねえもんだな。」

「……お金と嫉妬……そんな下らない自己中心的な理由で、私たちのことを売ったんだね。」

ナイフを取り出し、刃先を男の顔に向ける。姿が魔物とはいえ、同じアウィナイトに刃を向けるのは初めてだった。

「お前も自己中で人殺してるくせに、人のこと言えんのか?……だが、お前が苦しみ喘ぐ姿はクッソエロ可愛くて最高だったぜ。殺せないのが本当に残念だがな!ケケケケケ!」

(……この人は許せない……絶対に許せるわけがない……!みんなのためにも絶対に殺すべき……それなのに……)

今まで何人も殺してきたリザの手が、プルプルと震える。

「アンタがやってるのは……矛先を向ける先すら間違えている、感情任せの哀れな復讐よっ!」

姉に言われた言葉が頭を巡る。
それを吹っ切るように、リザはナイフを持つ手を振り上げた。

498: >>496から :2019/05/01(水) 20:21:59 ID:???
「く……ぅううあああああ!!!」

「ぐげ……!」

リザは、迷いを振り切る為に叫びながら……男の首に、ナイフを滑り込ませた。

「……私には、貴方を裁く権利なんてない……けど貴方を生かしておくと……ヤコやお母さんも、危ない目に遭うかもしれない……だから……!これは、間違ってない……!」

「ぐ、ぶ……ククク、極悪非道の王下十輝星が……俺みたいな裏切り者一人殺すのに、言い訳が必要か……お前、相当歪んでやがるな?」

今まで罪もない人を大勢殺しておきながら、同族であるというだけで、目の前の最低人間を殺すことに戸惑ってしまう。
リザの歪み……同族意識や仲間意識は人一倍強く、他人にも優しい心の持ち主であるのに……最後に行き着くのはいつも、戦いと殺戮だった。それしか、選べなかった。

「そんなんじゃ、これから起こる戦争を生き残れねぇぞ……ククク、お前が惨めに死んで、地獄に墜ちるのを……楽しみに、待ってる……ぜ……」

最期までニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら……ミイラ男の首は、胴体から完全に切り離された。

「っ……!っはぁ、はぁ……っ!」

同族とは言え、あの男は危険だった。アウィナイトの為にも殺しておくべきだった。
けれど……たとえアウィナイトでも危険人物なら殺すということは……危険人物の極みとも言える十輝星の自分そのものを、否定していることと同じ……


「違う……!私は、私は……!みんなを、守る為に……」

『……自分が哀れだと思わないの?偶然にも助かった命で、罪もない人を殺しまくるなんて……あなたはもう、あたしたち家族が知ってるリザじゃない。』
『リザ、アンタがやっていることは……アウィナイトを虐げていた者と同じこと』

「違う……違う違う違う……!」

ブツブツと呟き、頭を抱え込むリザ。辛い時にいつも支えてくれた親友2人は、もういない。
サキはサキなりに励ましてくれたが……リザはサキのように、割り切って生きられない。


「……早く、戦争に、なって……!」

戦いだけがリザの癒し。戦っている時だけは、嫌なことを全て忘れられる。自分を悩ませる他国の友人や家族のことを、考えずにすむ。
戦争になれば、自分は……何も考えず、何にも悩まずに殺戮を繰り返す……王下十輝星『スピカ』になれる。



自分の歪みが……心のヒビが大きくなっているのを感じながら……リザは、幽鬼のようにフラフラと立ち上がり……サキとその家族のところに、フラフラと歩いて行った。

  • 最終更新:2019-05-26 23:15:29

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