24.61.帰還1

448: 名無しさん :2019/03/07(木) 00:50:40 ID:DpGRIy9I
「……うぅん……あれ?ここどこだ……?確か俺は……リザと熱い夜を過ごして、それから……」

「うぅ……おいアトラ、ごく自然に記憶を改竄するな……僕たちは戻ってきたみたいだぞ……」

朦朧とする意識の中でも突っ込みを忘れないシアナに感心しつつアトラが起き上がると、そこはトーメント城のエントランスだった。
入り口入ってすぐ正面にある、トーメント王の巨大金ピカ像が目に眩しい。
その下に倒れている金髪の少女の体がゆっくりと動いた。

「……ん、ぅ……」

「チッ、リザが起きちまった……せっかく寝てる間に人工呼吸してやろうと思ったのに……」

「馬鹿、そんなことしたらすぐにアイナのやつが……」

つい口から出した名前に言葉を切るシアナ。
アイナの死をリザには、どう伝えるべきなのか……
それを考えて頭がずしりと重くなったのと同時に、まだ彼女の死を受け入れられていない自分に戸惑う。

「……あれ……アトラ、シアナ……ここは、トーメント城……?」

「……ああ。お前も色々大変だったろ。ここに戻されたってことは、うまくいったみたいだ。」

「…………………………」

「……?アトラ……どうしたの?」

「え……ぉ、あ、ええエミリアちゃんどこかなぁ……お、お、俺らと一緒にいいいいたんだけどぉおぉ……」

「……エミリア……じゃあ、私みたいに倒れてるかもしれないから、探そうか……」

「お、おう……!」

(……こいつ、本当にリザのことが好きなんだな……)

アトラの緊張感がビリビリと分かりやすく強烈に伝わってくる。
好きな女の子がもうすぐ絶望に打ちひしがれてしまうかもしれない……
そう思うと気が気でないのであろう。
そんなアトラの様子を気の毒に感じたと同時に、少しだけ恨めしいと感じた。



「あ、エミリア……起きて。」

「うぉ!?アイベルト!?なんか血まみれだぞ!!!メディーック!!!衛生兵ーーー!!!」

「おいロゼッタ、起きろ……うわ!?な、なんだよ!なんで抱きついて……ちょ、やめ……!」

ムニャムニャと起き出してから元気がないエミリア、なぜか血まみれのアイベルト、いきなり「シアナ~!」とロリボイスで抱きついてくるロゼッタ。
とりあえずアイベルトは衛生兵に押し付けたところで、奥の扉が開かれた。



「やぁみんな、ミツルギまで遠征お疲れ様……色々と大変だったみたいだね。」

「みなさん、お疲れ様でした!あ、すぐお茶でも用意しますね……」

「ふん……見たくない顔もいるけどね……」

現れたのはヨハン、フースーヤ、サキ。
これでアイナとスネグアを除くメンバーが揃ったことになる。
フースーヤが飲み物を持ってきて全員が人心地ついたタイミングを計ったかのように、扉の奥から声が響いた。



「やぁやぁ十輝星諸君!実によくやった!なりゆきで行った旅先で君たちが運命の戦士たちを集めてくれたおかげで、ついに神器も手に入った!これがあれば……全てを掌握することも夢ではなぁい!」

「おお、なんか王様テンション高いな……」

「クックック……当たり前だろう?神器は全てを掌握する力。正しい使い方がわかるのは俺様だけ……強力すぎるが故に今まで興味がなかったが、普通に遊ぶのも飽きたからな。」

「……遊ぶ……?」

「俺様にとって全ては遊びだ……だがちまちま侵略していくチャチな遊びは終わりだ。神器を使ってすべての国を侵略し尽くし、トーメント王国を最強国家にしてやる……それでこの世界は終わりだ……ククククククク!!!」

何か含んだような言い方で戦争の始まりを告げるトーメント王。
その様子を見た王下十輝星たちは、様々な感情を抱いていた……

453: 名無しさん :2019/03/10(日) 23:42:42 ID:2V.rVDc.
トーメント王は戦争の準備を皆に告げ、自室へと帰っていった。
残された王下十輝星たちは、来たる世界征服の戦いに想いを馳せ心を躍らせる──
わけもなく、沈黙していた。

「……あれ?皆さん、どうして元気がないんですか?王様がすごい力を手に入れて、世界征服にも手が届くっていうのに……」

「え、あ、あぁ……そうだな。諸外国全員が攻めてくるんだ。これからは特に忙しくなる。……全員の力をあわせて、やっていかないと……」

疑問に思ったフースーヤが声をかけるが、答えたシアナの歯切れは悪い。
いつも的確な指示出しで信頼を集めている彼の様子に、フースーヤは首を傾げた。

「まあまあフースーヤ。いきなり諸外国のすべてと戦争なんてスケールの大きい話、王様以外はびっくりして当然だよ。僕たちもさっき聞かされたときは、呆気にとられてしまったじゃないか。」

「え、そうですか?ヨハン様はいつも通り、落ち着いていたように見えてましたけどぉ……?」

「あはは……いきなり全面戦争なんて聞かされたんだ。あれでもかなり驚いてたよ、サキ。」

「そ、そうですか……?まぁ、ヨハン様はいつも冷静沈着ですもんね!」

ヨハンLOVEのサキがいつもより1オクターブ高い声で媚びた。
その様子を無視して辺りを見回していたリザが口を開く。



「ねぇ……アイナはどこ?ここにはいないみたいだけど……」

「……あれ?そういえばアンタのうるさい相方がいないわね。アホベルトはさっき医務室に行ったけど……」

「ほんとだー!アイナちゃんがいないよー?……ねぇ、どこにいったのシアナー?」

「あ、あれ?ロゼッタさんってそんなキャラでしたっけ……?」

「彼女の心はいつも不安定だ。ミツルギでなにかあったのかもしれないね……」

ロゼッタの様子がおかしくなったのを知っているのは、この場にいない。
アイベルトも気絶していた以上、仕方のないことではある。

「………えっと、リザ。アイナは……」

「………リザちゃんっ……アイナちゃんは……アイナちゃんはぁっ……!」

「……え、なに……?アイナがどうしたの?2人とも……おかしいよ……?」

苦虫を噛み潰したような顔のアトラと、すでに涙声のエミリアの様子に……リザの瞳がゆらゆらと揺れた。
心が落ち着かない様子が、彼女の目にはっきりと現れている。

2人からは言い出せないだろう。
だからシアナは、息を吸い込んだ。



「……アイナは死んだ。任務中の不慮の事故による殉職だ。……僕の立てた作戦ミスだ。すまない。」

感情を含まない機械的な声で、シアナが言葉を放った。
さすがにリザの方を見て言えなかったが、その必要もないだろう。
自分の言葉を聞いたリザの顔も、見たくない。
見れるはずもなかった。



「……アイナが……アイナが……」

消え入るような切ない声で、リザがそう言った。
エミリアはすでに泣き出していて、アトラは顔を伏せたまま。
フースーヤも神妙な顔で俯いている。

「アイナちゃん、死んじゃったの……?ねぇシアナ、どうしてアイナちゃんは死んじゃったの?ねぇねぇー?なんでぇ?」

「……ロゼッタ、ちょっとこっちに来ようか。僕が説明してあげるよ。」

事態を飲み込めない様子のロゼッタを、ヨハンが別室に連れて行った。

454: 名無しさん :2019/03/11(月) 01:10:52 ID:???
(……クソリザのやつ……全然取り乱さないのね。ウルウル涙目になってるだけ……さすがにちょっと拍子抜けだわ。)

皆が沈黙する中、遠巻きに様子を見ていたサキは唯一顔を上げて様子を見ていた。
他人の感情の観察は、諜報員である彼女にとって興味深いものである。
自分に関係ない他人の不幸ならば、それを観察するいい機会だ。

「……シアナ……私に言い辛かったこと、ちゃんと言ってくれてありがとう。……わたし、部屋に戻るね……」

そう言って踵を返したリザ。
皆がその小さな背中を見たが、誰も、なにも言えなかった。



「……そうなんですか……アイナさんは、エミリアさんを庇って……」

「う、うぅう……私が……私がぼんやりしてたせいだよぉ……!リザちゃん、すごく辛いはずなのに、あんなに冷静で……うぅ……」

「……アイナが死んだのは誰のせいでもない。アイナが自分で選んだ結果だ。……エミリアは自分を責めないでくれ。アイツもそんなこと望んでない。」

「うぅ……シアナくんっ……」

エミリアはあの時、アトラやシアナたちと離れて暮らそうとアイナに言った。
それは十輝星というポジションからアイナとリザを遠ざけるつもりだったが、やはり彼らもアイナにとって、かけがえのない存在だったのだろう。

そんな存在を置いていくような提案をした自分を、エミリアは後悔した。
断れても、当然の提案だった。

「……リザのやつ……かなり無理してたっぽいけど……だ、大丈夫だよな?ドロシーの時もすげえ思いつめてたし……親友2人を失くして、早まるとかないよな……?」

「お前、縁起でもないことを……そんなことアイナが望むわけないのは、あいつが一番よくわかってるだろ。今は……1人にしてやったほうがいい。」

ドロシーが死んだ時は、リザは一週間も部屋から出てこなかった。
その間はアイナがご飯を持って行って会話をしたが、それでも部屋から出て完全に立ち直ったのは、かなり最近のように思える。

(……リザは最近ようやく感情を表に出すようになったのに……また能面みたいな風になるのは勘弁だな。これから大きな戦争になるんだし……)

そこまで考えて、シアナは違和感に気付いた。

(……おかしいな。なんで僕がこんなに他人に気を使う必要があるんだ。ドロシーが死んだ時だって、無鉄砲が祟ったんだとそんなに気にもしなかったのに……なんでこんなに今、いろんなことを考えて……)

今の自分は、アトラやエミリアに冷静さを説き、リザの心を案じている。
自分は彼らの親でもないのに、なぜか他人の心配ばかりしてしまう理由は、すぐに見つかった。



(そっか……今本当に考えなきゃいかないことは、大好きな女の子が死んだこと。……でもそんな悲しいこと考えたくないから、他のことに気移りしてるだけ……だな……)

ドロシーの話によれば、神器を使えば死者を蘇らせることもできるという。
だがそれは、十輝星を蘇生しないという王の意向に背く行為。
勝手に神器の力をそのようなことに使うことも、王は許さないだろう。

(僕……いや、僕たちも、闘いとは別のことを、色々と考えるべきなのかもしれないな……)

エミリアを守るために命を落としたアイナと、自分たちを守るために魔法を展開した鏡花が重なる。
起こった事実たちが自分をどう動かそうとしているのか……
シアナは、ゆっくりと考えることにした。

  • 最終更新:2019-08-18 18:05:19

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