17.19.サキ2

491: 名無しさん :2017/07/17(月) 22:39:16 ID:???
「さて、そろそろシーヴァリアに着くわね……お間抜けリザの奴はどこにいるのかしら……と」
黄昏時。サキはシーヴァリアのすぐ近くまで到着していた。

「アイベルトの話だと、『俺に変身すれば門番は通してくれる!』らしいけど……ていうか便利よねあのかくかくしかじかって」

アイベルトと再び通話して自分もシーヴァリアに行くことを伝えたのだが、細かい状況などはかくかくしかじかで簡単に伝わったのだ。

「さて、と……バレないように、人の少ないところで邪術使いますか」

王都ルネやその周辺のラケシスの森に直行せず、サキは周囲に人影がないことを確認してから、懐から小瓶を取り出す。
その瓶の中には、本性がバレる前に変身に必要と騙してリザから(わざと痛くなるように)抜き取った一本の髪の毛があった。

「対象の身体の一部を媒介にして、現在地を割り出す邪術……ストーカーがよく使うやつね」

以前サキが「消えた」アイナに対して『邪術を使えばあんたの場所なんて大体分かる』と言ったが、その時に使おうとしていた邪術である。
その時は媒介無しだったので近距離の相手にしか使えなかったが、媒介があれば遠くの相手の居場所も筒抜けな、非人道的とまではいかないが危険な術である。

サキが地面に置いたリザの髪の毛に手をかざして呪文を唱えると、リザの髪の毛が燃えて……サキの頭の中に、詳細な地図が浮かび上がった。

「これは、王都ルネの……牢獄?リザの奴、面倒なところに捕まってるわね……」

ルネ自体にはアイベルトに変身すれば入れるらしいが……牢獄に潜入するとなると一筋縄ではいかない。

「ま、ここは私の腕の見せ所かしらね」

サキの頭の中では、既にいくつか潜伏ルートの計算が行われていた。だがとりあえずは、本当にアイベルトに変身して門番をやり過ごせるのか確かめることにした。

516: 名無しさん :2017/07/26(水) 01:27:47 ID:???
リザが幻覚を見せられている頃、アイベルト(仮面着用)に変身したサキは、ルネの入口まで来ていた。

「お?また来たのか?出たり入ったり忙しいな」
「流石の俺様も空腹には勝てないし、野宿も嫌いではないがどうせなら綺麗なベッドで眠りたいからな……ルネでホテルでも探そうと戻ってきた次第だ」
「まぁ、あの美少女の写真の借りもあるしな……いいぜ、入れよ」
(美少女の写真?ていうか、ほんとに衛兵スルーできたし……なに、シーヴァリアって意外とザルなの?)

衛兵をやり過ごし、難なくシーヴァリアの首都ルネに潜入を果たしたサキ。
敵国ながら、厳戒態勢のはずのシーヴァリアのザルさを思わず心配しながらも、裏路地に入ってから変身を解く。

「……ま、せっかく遠い所をわざわざ訪ねてきた(ほとんどヘリ移動だけど)ことだし、カフェにでも入ろうかしらね」

単独行動の時はヘリに乗らない派のリザと違い、サキは1人でもヘリに乗りまくる。運用費と乗員人数のコストが見合わないとかは気にしない。
もっと言えば任務での外出先で任務しかやろうとしないリザと違い、サキは外遊を楽しむ質だ。

ということで近くのカフェに入り、コーヒーとケーキで腹ごしらえしながら、メモ帳に情報を整理する。

・お間抜けリザは牢獄に捕まってる(これ重要!!!)
・アイベルトのアホは外で円卓の騎士と戦闘中
・円卓の騎士の詳細な目的は不明だが、リザとミライ・セイクリッドとやらが目的なのは確実
・敵は基本的に円卓の騎士のみで、それ以外の騎士は味方ではないが敵でもない
・ただし騎士見習いのジンと白騎士のエールに限っては実質味方

(……これってひょっとして、今が潜入のチャンスじゃない?)

敵は円卓の騎士のみ。平の騎士は相手にしなくていい。その円卓の騎士も何人かは外で悪巧み中。ルネの中にも何人かは残っているだろうが……その数は多くはないはずだ。

日が完全に落ちてから闇夜に紛れての潜入も考えてはいたが……円卓の騎士の一部がルネの外に出ている今が最大のチャンスかもしれない。

(さっき使った邪術で牢獄の場所は大体分かってるし……ここは拙速を尊んじゃいましょうかね)

迅速な行動を決意したサキ。
なお、それはそれとしてケーキとコーヒーはバッチリ楽しんでいた。

517: 名無しさん :2017/07/28(金) 23:29:45 ID:dauGKRa6
「さて、リザさん……じゃなくてリザには、ここから逃げ仰せてもらわないとね。」
「それはいいけど……あなたたちの管理責任とか、問われないの?」
「大丈夫。シーヴァリアにはナルビアと違って監視カメラのような技術力の高いものはないから、いくらでもでっち上げられるよ。」
「リンネ……誰か来るよ。」
「……え?ウソ?」

ヒルダが呟いた瞬間、3人のいる部屋のドアがコンコンと鳴らされた。

「リンネ様ー?もうかなり遅い時間ですが、何をしていらっしゃるので?」
「あ、あぁ。捕まえたアウィナイトの尋問中だよ。なかなか吐かなくてね。」
「そうですか。では今日はわたくしがこのまま牢屋に繋ぎますので、入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。」
あっさりと返事をするリンネに、リザは目で訴えた。

「ち、ちょっと……!」
「そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。ちょっと面倒だけど、牢屋から出すことだってできるんだから。」
「……開けるね。」
リザがため息をついたのを横目にヒルダが扉を開いた瞬間、黒い霧のようなものが部屋の中へと入り込んだ!

「えっ……?きゃあぁっ!」
「なっ!これは……邪術!?」
黒い霧はしばらく部屋を舞った後、まるで意思を持つかのようにヒルダの元へと集まっていく。
驚いて固まるヒルダの首に細い腕が回され……黒い霧は黒髪の少女の姿へと実体化した。

「あううっ!!」
「はい真っ白美少女捕まえた~!そこの黒いの!この女のためにも動かない方がいいわよ!」
「え……サキ!?」
「クソリザ、元気~?こんな湿っぽい場所はあんたにぴったりだけど、そろそろ退店のお時間よ。延長もなしね~!」
「……仲間なんですか?」
「え、ええ……仲間よ。」
「それならご安心を。僕たちはリザさんと手を組みました。あなたたちに危害を加えるつもりはありません。」
「……はぁ?何言ってんのこの女?どういうこと?」
「……もちろん説明します。説明しますから……ヒルダを離してください。」
「サキ……私からもお願い。この人たちはとりあえず敵じゃないから。……あと、この人は男だよ。」
「はあぁ!?こ、コイツ男!?詐欺でしょ!何がどうなってんのよ!クソリザ、ちゃんと全部説明しなさいよッ!」
「やあぁっ!」
乱暴に言い放ち、サキはヒルダを乱暴にリンネへと突き飛ばした。

「り、リンネ……ぐすっ……リンネぇ……」
見知らぬ人間に拘束された恐怖で、半泣きのヒルダはリンネの胸へと飛び込んでいった。
「こわいよぉ……あの人こわいよぉ……!」
「ヒルダ、もう大丈夫だよ。……まったく乱暴な人だな。金輪際ヒルダには触らないでください。」
「ハッ、そんなションベン臭いガキなんてこっちからお断りよ。臭いが移ったら困るしね。」
「……リザ。こんなところで言うのもなんだけど、友達は選んだ方がいいよ。」
「さ、サキ……あんまり乱暴な言葉は……」
「いいから早く状況説明して。こんなところに長居したくないから。」
「あ……う、うん。わかった……」

518: 名無しさん :2017/07/29(土) 01:10:43 ID:???
「なるほど……まとめると、あんたらはナルビア側のスパイで、今回リザを見逃す代わりにブルートを倒して欲しいわけね。」
「はい。ブルートは円卓の騎士の中でも随一の実力者です。奴を倒すことができれば、僕たちも本国にいい報告ができます。」
「ふーん……で、あんたはそれを受けたの?一回コテンパンに負けてるのに?」
「……うん。助けてもらったのは事実だから。それに……アレはきっとトーメントにとっても遠からず脅威になる。」
「はぁ……あんたはどこまでお人好しなのよ……どう考えたってこいつらにいいように利用されてるだけじゃない。」
「……それはわかってるけど……」
「ったく……ま、あんたがやりたいようにやれば?あたしは手を貸すつもりないから。……せっかく助けに来たのに損したわ。あの時の胸クソ悪い借りも返せると思ったのに……」
「……え?なんて言ったの?」
「なんでもないわよ。……それより、ミライ・セイクリッドはどこにいるの?」

サキの大目標は、アイベルトから聞いた情報——妹のユキの顔を治せる可能性を持っているミライを手に入れること。
正直リザを助けにきたのも、ほぼほぼこの情報のためであった。

「え、ミライ?……ミライの家で円卓の騎士と戦闘になったとき、私はそのまま気を失ってここに連れてこられたから……今どこにいるかはわからない。」
「ちっ、つっかえないわね。まぁこっちで調べればわかることだからぼちぼち探すわ。あんたはせいぜいブルートの奴にあっさり殺されないよう頑張りなさい。」
「ま、待ってサキ。どうしてミライの名前が出てくるの?ミライに何かするつもりなの?」
「……アンタには関係ないわ。あたしはもう行くから、このオカマみたいなのと真っ白幼女と3人で仲良くしてなさい。」
吐き捨てるようにそう言って部屋を出ようとするサキ。その背中に向かってリザは走り出し、サキの手を掴んだ。

「ま、待ってサキ!」
「ちょ、汚い手で気安く触るんじゃないわよクソリザ……なんなの?」
「ミ、ミライには……変なことしないでほしい。あの子は……!」
「……アンタさぁ、人殺しのくせにすぐに情にほだされんのはやめたほうがいいわよ。……ま、別にあんたが心配するようなことはしないから安心なさい。」
「……わかった。サキを信じる。あと……私のこと助けに来てくれて、ありがとう。」
「……フン。ミライ・セイクリッドの情報が知りたくて来ただけよ。」
そう言うと、サキは再び黒い霧のようになって消えた。

534: 名無しさん :2017/07/30(日) 23:08:25 ID:???
「あ。そう言えば…例の荷物、忘れてたわ」
リザの閉じ込められた牢を出た所で、サキはヨハンから渡されたアタッシュケースの存在を思い出した。
中身はリザ用の通信端末、替えのナイフ、そして新型の戦闘用スーツ。
そもそもこの荷物を届ける事こそが、ここに来た目的…もとい、来る羽目になった原因であった。

「…つーか、あれだけカッコつけて立ち去ったのに、普通に戻るのも気まずいわね」
いっそケースごと捨ててしまおうか、とも考えたが……

「すみません…そこのきしさんと、ひーらーさん」
「はい…なんでしょう?」
「…あら、可愛らしいお嬢ちゃん…なにかしら」
……ヒルダの姿に変身し、通りすがりのヒラ騎士&ヒラヒーラーに届けさせる事にした。

「……地下牢にいる、捕虜に渡せばいいんですね?」
「はい。りんねさまのごめいれいで…」
「…リザ……って、どっかで聞いたような名前ねえ」
それにしても、牢屋につながれてる奴に得体の知れない荷物を届けろ、と言われて
ホイホイ引き受けるのはどうなのか…
バカップルなのかバカ夫婦なのか知らないが、随分頭のユルそうな二人組だ。

…ま、これで私の役目は終わり。
後は適当に観光地を回って、名物料理を食べて帰ろうか。
などと考えつつ、騎士団本部の玄関を出た所で…
(ズキッ……!!)
「……う、ぐっ………!?」
サキの全身の猛烈な激痛が走った。

心臓を石に変えられたような、四肢の中に針金でも入れられたような、異常な感触。
たまらず路地裏に駆け込み変身を解くと、痛みはゆっくりと収まっていったが…
「はぁっ……はぁっ……な……によ、これ……あの、ヒルダとかいうガキ…
…どういう身体してるわけ…!?」

  • 最終更新:2018-02-24 18:48:35

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