15.13.リザとサキ2

329: 名無しさん :2017/05/05(金) 21:28:30 ID:lCNEjBfA
信じられないことに、サラさんまでもが凄まじい悲鳴をあげて動かなくなってしまった。

「やれやれ、まさかここまであっさり死ぬとは……やはりDTT以外の異世界人はやや運が良いという程度でしかないか」
「そ、そんな……!」
「蘇生技術があるのでしょう……なら、なら早くスバルと桜子さんとサラさんを蘇生しなさい!」

亜里沙が泣きそうな声で、でも毅然と言い放つ。そうだ、アルガスの蘇生技術。それがあればみんなを生き返らせることも……

「研究対象として有用なら喜んで蘇生しよう。だがはっきり言って、あの三人にそこまでの有用性はない。蘇生だってタダじゃないのでね」
「ふ、ふざけるな!話が違うじゃないか!」
「はて、そうだったかな?最近物忘れが激しくてね、忘れてしまったよ。おい!」
「はっ!」

マルシェザールが声をかけると、近くにいた兵士が乱雑に『何か』を投げた。それは……培養液で保存されていたはずの、スバルの亡骸であった。

「な……!スバル……!?」
「培養液に入れてたんじゃ……!」
「言っただろう、最近物忘れが激しいんだ。一被験者の死体処理程度、多少のミスがあっても不思議じゃないだろう?」

つまり……つまり最初から、この男はスバルを蘇生するつもりなどなかった。ボクたちを騙して、都合よく実験に協力させようと……!

「許せない……!人の命を、一体何だと思っているんだ!?」
「これほどまでに……!これほどまでに怒りが湧いてきたのは、アルフレッドを除けば貴方が初めてですわ、この外道!」
「なんとでも言えばいい。君たちは既に拘束され、我々に抵抗する術はない」

悔しいが、確かに今のボクたちに抵抗する手段はない。せめて、この部屋に連れて来られる前に、ボクだけでも抵抗していれば……!そもそも、アルガスなんかに来なければ……!

「この世界は弱肉強食。弱い者は大人しく搾取され、強い者の礎になるしかないのだ」

コイツ……コイツコイツコイツ!!


その時、部屋にノックの音が響く。

「所長、少々よろしいでしょうか?」
「なんだ、実験中だぞ」
「申し訳ありません。こちらで捕らえているスパイの抵抗が思いのほか激しく、所長の手をお借りしたい状況にありまして……」
「まったく、さっきから騒がしかったのはそれか……手を借すのは構わないが、多少の減給は覚悟しておけよ?」
「は、申し訳ありません」

ノックの後に、アルガスの兵士と思しき者の声が響く。どうやら他の拷問室にも捕まっている人がいるらしい。
願わくばその人だけでもこのクそったれ研究所から抜け出せることを祈るが……現実問題として難しいだろう。

そしてマルシェザールの護衛の兵士が扉を開いた時………信じられないことが起こったんだ。

332: 名無しさん :2017/05/06(土) 16:21:19 ID:???
それは一瞬の出来事だった。
「ぐおおっ!な、なんだ貴様らは!?」
マルシェザールが扉を開けると同時に、アリサの2Pカラーみたいな女の子がマルシェザールを組み伏せた!
「悪いけど……死んでもらう。」
「なっ!や、やめろ!やめ……ぐぎゃああああああああああああああーーーーーー!!!」
金髪ショートの女の子は、命乞いも聞かずに首を切り落としてしまった。

「うぷっ……!く、首、首が……おえええっ!!!」
グロ耐性のない亜理紗が胃の中のものを吐き出した。結構1人で旅をしてきたみたいだけど、今まで人間と戦ったことはあまりなかったようだ……
いつもやっていたゲームのおかげでアリサよりはグロ耐性が付いている僕も、思い切り吐きそうになったのをぐっとこらえて現れた奴らを見据える。
「リザちゃん!もう一回フランケンシュタイナーをやってってお願いしたではありませんの!どうしてやらなかったんですの!?」
「……こいつは確実に殺さないとダメだから、気絶させるだけじゃダメだと思って。」
「んもう……もう一回リザちゃんの幸せ投げをじっくり見て動画に残したかったのに……」
「……それより、捕獲対象の異世界人ってこいつらでしょ。……ププ、なんかもうすでに捕まってるわよ。」
マルシェザールを暗殺した金髪ショートの子に加え、おしゃべりなアリサ口調のピンクと、僕たちを笑った黒髪の女の子は……!

「沙紀!?沙紀なのか!?」
「沙紀、どうしてあなたがここに!?」
私を見て声を荒げる2人……確か、彩芽と亜理紗だったかしら。友情を壊してあげたはずなのに、どうやら仲直りしているみたい。
「サキの知り合いなの……?」
「まあ、私が昔こいつらを絶望させて精神的に参らせた後にこの世界に連れ込んだのよ。……フフ、今となってはどうでもいい話だけどね。」
「彩芽……あの事件の黒幕が今はっきりわかりましたわね……!」
「そうだな……!沙紀!僕たちの関係を壊したのはお前が全部仕組んでたことなんだろっ!」
ふん。何を言ってるんだが。私がきっかけをつくったとはいえ、結局お互いを信じられずに勝手に仲違いしただけのくせに。

「悪いけど、あんたらはトーメント城の地下に拘束させてもらうわ。元の世界に帰るために、わざわざこんなところまで来てご苦労様でした~!そしてあんたらはめでたくここでゲームオーバーで~す!」
「そ、そんな……!私たちをまたあの城の地下に閉じ込めるつもりですの……?」
「当たり前ですわ!あなたたちは特に運の強い異世界人!野放しにしておいたら、そのうち諸外国を巻き込んで厄介ごとを引き起こすかもしれませんもの!」
「……くそっ……!捕まる場所が変わるだけで、結局僕たちはここで終わりかよ……!」
「そういうことですわ!さぁ、このヒューマンボールを使ってあなた達をアイナがゲットして差し上げますわっ!」

333: 名無しさん :2017/05/06(土) 17:27:22 ID:???
「よく見たら五人の戦士の二人以外は既に死んでるみたいね……ま、王様なら簡単に生き返らせれるでしょ」
「……!」
そうだ、トーメント王国はアルガス以上にクソッタレな場所だが、あの国の王はスバルも桜子さんもサラさんも生き返らせるだろう。恐らくはまた闘奴にされるだろうが……生きてさえいれば、また脱獄するチャンスが訪れることだってあるはずだ。
ならば――――

(やってやる……やってやるぞ!今は大人しく捕まってやる!でもボクは諦めない!いつかみんなで一緒に現実世界に帰れる日まで、何度でも脱獄してやる!何度でも……何度でも……何度でもだ!)

捕まる直前だというのに、彩芽の瞳には炎が浮かんでいた。信念という炎が。

「亜理紗、ボクは諦めないぞ……もうこの世界に囚われたばかりの頃とは違う。ボクらには仲間がいるんだ」
「彩芽……」
「だから、次は最初から協力して脱出しよう。できるさ、ボクと亜理紗なら」
「そうですわね……できたら、置いてきてしまったあの二人とも一緒に……」


「いっけぇ!ヒューマンボール!」
亜理紗口調のおしゃべりな女の子がボールを投げる。
これから自分たちには筆舌に尽くしがたい苦境が待たされているだろう。でも乗り越えられる。月並みな台詞だけど……ボクらはもう、一人じゃないから。
そして、ボールから飛び出してきた謎の光が、ボクたちを包み込んだ。


「パチモン、ゲットですわ!これでやっとジムリーダーに挑戦できるんですのね……!」
「マルシェザールがわざわざ目的のブツを一ヶ所に集めてくれたおかげで、楽な仕事だったわね」
「サキ……話が」

『緊急事態発生!緊急事態発生!戦闘員は速やかに、地下の拷問室の危険分子の排除を!繰り返します。戦闘員は速やかに、地下の危険分子の排除を!』

「ち……話があるのは私もだけど、まずは退避が先かしらね」
「この話の腰を折られる感じ、グラブってますわね」
「2人とも、掴まって。テレポートで一気に脱出する」

335: 名無しさん :2017/05/07(日) 11:54:10 ID:???
「つ、捕まれってどういうことよ?」
「リザちゃんに捕まっていれば、捕まっている人も一緒にテレポートできるんですのよ。もーサキったらそんなことも知らなかったんですの?」
そう言いながら慣れた様子でリザの手をぎゅっと握るアイナ。リザはサキにも手を差し出して捕まるよう目で訴えた。

「……どうしたの、サキ。早く捕まって。」
「……手じゃなきゃダメなわけ?」
「……別に手じゃなくても、私の服とか体に捕まっていれば大丈夫。」
「…じゃあ、アンタの服の端っこにするわ。」
手を握るのは抵抗があるのか、サキはリザの黒い服を乱暴に鷲掴んだ。
「んっ!」
「……これでいいでしょ。」
「も~!女の子同士なんだから手を握るくらい恥ずかしがらなくてもいいのに~!」
「……多分そういうことじゃないよ。アイナ。」
サキがしっかり服を掴んでいるのを確認し、リザはテレポートを始めた。



「さすがリザちゃん。鮮やかな脱出劇でしたわ!任務成功ですわね!」
「……ここまでくれば、大丈夫かな。」
研究所を脱出し、アルガスへ続く街道に出た3人。リザのセリフを聞いたサキは、リザの服から手を離しつつ乱暴に突き飛ばした。
「きゃああぁっ!」
突き飛ばされたリザはバランスを崩し、盛大に転んでしまう。
バシャアァッ!
「あぐ……っ!」
ここで彼女の運の悪さがまたも発動し、泥のついた水たまりに飛び込んで体を汚してしまった。

「うっ……冷たい……!」
「サキ!動きが雑ですわよ!リザちゃんが水浸しになってしまったではありませんの!」
「はいはい。悪うござんした。」
「もう……小学生みたいな言動はやめなさいっ!みっともないですわよ!せっかく助けてあげたのに!」
「うるさいわよ。そもそも誰も助けてなんて言ってない。余計なことを……ちゃんとあの状況からでも脱出するプランがあったんだから。」
「嘘ですわね!それがホントならあんなに涙と鼻水で顔がぐじゃぐじゃになってるわけないですわ!」
「あれも演技に決まってるじゃない。あんたらと違って私は工作員なの。演技力だって重要なんだから。」
「え……あれが演技ですって……!?」
「ま、あんたらみたいな賑やか士とむっつり女にはわかんないでしょうけどね。」
「な……!せっかく助けてあげたのにその態度はなんなんですの!?」
「だからその助けっていうのがいらなかったって言ったでしょ?同じこと2回言わせないでくれる?バカなの?」
「サキ……ふざけるのもいい加減にしないと本気で殺しますわよ!!!」
「やれるもんならやってみなさいよ。リザの金魚の糞。あんたは弱いくせにいつもバカ丸出しでキャンキャンうるさいのよ。クソガキが。」
サキがそう言った瞬間、アイナの姿が消えた。

「アイナッ!やめてっ!!」
「お、やる気なの?まあいいけど……邪術を使えばあんたの場所なんて大体わかるんだから。」
邪術の術式を懐から取り出し、詠唱を始めるサキ。それをさせまいとアイナは背後から素早く攻撃を仕掛ける!
「これでもくらえっ!ネバネバキャンディーですわっ!」
「そんなもの……シャドウボルト!」
背後からの攻撃に素早く対応して闇魔法を放つサキ。どちらも狙いは正確だったが、標的に当たることはなかった。

「2人とも……いい加減にして。」
間に入ったリザのナイフが、キャンディーも闇魔法も明後日の方向へと吹き飛ばしたのだ。
「リ、リザちゃん……」
「アイナ。落ち着いて。サキはイライラしてるだけだよ。本気でそう思ってるわけじゃない……くしゅんっ!」
もしかしたら本気かもしれない。が、ここは場を収めるためにリザは落ち着いた口調でアイナに語りかけた。
「サキも……アイナより年上なんだから落ち着いて……は、は、はくしゅっ!」
水たまりに飛び込んだため、体が冷えたリザはくしゃみが止まらない。
「なにくしゃみ連発してんのよ……私は喧嘩を売られたから買っただけだし、別にどうでもいいわ。」
姿を見せたアイナの顔はまだ怒りを堪えているが、再度襲いかかる様子はなかった。

「サキ……私、サキとここでじっくり話しておきたい。今から時間もらってもいい?」
「……はぁ。別にいいけど。」
サキはバツの悪そうな返事をしたが、対話をする意思は感じられた。
「ありがとう。アイナ……悪いけど、しばらく2人にさせて……ふぁ、ふぁ、はっくしゅんっ!」
「……わかりましたわ。帰りのヘリでも呼んで待ってますわね。」
(はぁ……クールに喧嘩を止めるリザちゃんも、くしゃみ連発するリザちゃんも……どちゃクソ可愛いですわ……)



その頃、上空ではアルガスを目指す少女たちが箒にまたがって空を飛んでいた。
「唯。もうすぐアルガスよ。準備はいい?」
「うん……でも、アルガスってどんな場所なのかな?行く前に調べておきたいかも。」
「あー、それもそうね……あ!あのピンク色のツインテールの子に聞いてみましょ!」

337: 名無しさん :2017/05/07(日) 18:19:06 ID:???
「あ、あそこにベンチがある……ちょうどいいから、座って話そうサキ……へぁ、ふぁ……くしゅんっ!」
「……こんなところでのんびり話してないで、早く帰ってシャワーでも浴びたほうがいいんじゃない?風邪ひくわよ?」
「だ、大丈夫……今話しておきたいから……」
鼻水と顔についた泥をティッシュで拭き取りながら、リザはベンチに座った。

「あんたの隣に座りたくないから、私は立ったまんまで話すわ。」
「……わかった。」
今まで自分の知っていたサキ……いつも丁寧な言葉遣いで、誰に対しても明るかった姿は、今のふてぶてしい様子からは微塵も感じられない。
今の性格が、サキの本来の姿なのだとリザは改めて認識した。

「単刀直入に聞くけど…どうして私のことを恨んでいるの?」
責め口調にならないよう、普通に疑問を口にするようにリザは質問した。
「どうして、ね……話したくないって言ったら?」
「……困る。私はサキとこれから仲良くしたいから、もし私がサキの嫌がることをしたなら、ここでちゃんと謝りたい。」
「……フフフフ……!」
「……どうして笑うの?」
「いや……あんたもかなりのお人好しだなと思ってさ……」
そう言って笑ったサキの表情は、少し柔らかくなったように見えた。

「ま、簡単に言えば意味のない私怨よ。アンタみたいな美少女がのうのうと生きてるのがムカつくってだけ……しかもアンタはあの弱小民族アウィナイト。どう考えたっておかしいじゃない。」
「……何がおかしいの?」
「アンタはよく知ってるだろうけど、アウィナイトっていうのは本来奴隷にされるべき人種なのよ。男は目を宝石に、んでアンタみたいなのは高い値のつく性奴隷ってね。それなのに……アンタはその常識を変えようとしてる。」
「……何が言いたいの。サキ。」
「……フフ。顔が怖いわよ。どうしたの?」
「……!」
言われて気づいたが、どうやらアウィナイトの話を出された時点でかなり怖い顔をしていたらしい。
それでもやはり、サキの言った「アウィナイトは奴隷にされる人種」というセリフをリザは看過できなかった。

「サキ……訂正して。私たちアウィナイトは好きで虐げられているわけじゃないの。私たちは争いを好まないから戦う術を持たないだけ。……奴隷になんかなりたくない、れっきとした人間よ。」
「ふん。れっきとした人間ねぇ……バカみたい。弱い立場のくせにそうやって今さら人権主張してイキがってんのもむかつくのよ。」
サキはとにかくリザが嫌いだ。自身の妹であるユキと同じように美しい容姿を持ちながら、戦闘技術も高く頭も良く、虐げられている現実に精一杯抗っている。
その姿はまるで、残酷な現実からユキを守れなかった自分とは真逆の姿。
そんな自分と比較されているようで、サキはリザを見ているだけで吐き気がした。

「……ねえ。この前私が依頼した間者の件……あれって、サキだったの?」
「フフ……さあ、どうかしらね……」
「……真面目に答えて。あの時エミリアに取り付いて、私を痛めつけたのはサキだったの!?」
「何よ、そんなに気になるの?じゃあ……もし私だったって言ったらどうする?ここで殺す?」
強い口調になったリザを挑発するサキ。
あの時はエミリアの体話を使ってとにかくリザをボコボコにしてやった。サキにとってはいい思い出だが、リザにとってあの時の犯人には腹わたが煮えくり返る思いだろう。
さぞ内に秘めていた怒りをあらわにしてその端正な顔を醜く歪ませているのかと、サキはリザの顔を見た。
が、その表情はサキが思い浮かべていたものとは大きく違うものだった。

「ねぇ……ぐすん……答えて……あの時のあれは……全部サキがやったの……?」
「え……アンタ……泣いてるの……?」
強い口調で言葉を放ったリザの表情に現れていたのは、怒りでも憎しみでも憎悪でもなく……
信じていた仲間から向けられた途方もなく大きな憎しみを受け止めきれず、ポロポロと大粒の涙を流しながらリザはサキを見つめていた。

338: 名無しさん :2017/05/07(日) 19:13:28 ID:???
「なに泣いてんのよ……!そうよ、全部私がやったのよ!」
「どうして……!意味のない私怨で、どうしてそんなに恨むの?本当に意味のない私怨なの?」
「そうよ、私怨よ。そんだけ恵まれた容姿してたら、別に嫉妬されることなんて不思議じゃないでしょ?」
「ぐす……!ねぇ、サキ……私……サキのことを何も知らない。でも……王下十輝星になったのだって、何か切実な理由があったんでしょ?」
「な!?……何を根拠に言ってんのよ……」
「王様がやたらサキの過去を話したがってたから、そうじゃないかと思ったの……勝手に聞くのは悪いから聞かなかったけど」
「あのクソ露出狂い……!」
「ねぇ、サキの言う私怨っていうのは、ひょっとしてただの嫉妬とかじゃなくて、サキの過去と何か関係が」
「うるさい……うるさいうるさい、うるっさい!」

自分の妹はかなり容姿がよかった。そのせいでリョナ要員としてどこぞの貴族に連れて行かれそうになった。母は娘を守るために娘の顔を醜く焼いた。妹がそんな目にあったのだから、アウィナイトのような容姿の良い者は虐げられなければならないという歪んだ想いを持つことになった。だからアウィナイトを守ろうとするリザが気に食わない。
口で言うのは簡単だ。だが……

「私はアンタとは違う……アンタみたいな不幸自慢女とは違う……!ええそうよ、まぁ私にだって多少は暗い過去くらいあるわよ。それがアンタを憎む一因でもあるわね。でも、だからなに?」
「だからなに……って、私はただ、サキのことを」
「『そんな悲しい過去があったんだ、辛かったね。これまでのことは水に流すから仲良くしましょ』とでも言うつもり?は!不幸な人間同士傷を舐め合って生きていくなんてごめんだわ!」
「……無理に過去を聞きたいとは思わない。でも私は、仲間とは憎しみあいたくない……!」
「アンタはライライを……私の親友を殺したじゃない……私だって裏の任務で保護条例の穴をついてアウィナイトを殺したことがある……憎しみあう理由なんて、それで十分よ」

邪術のライラと戦っている時の別の邪術師はサキだ。ということは、エミリアに刻印を付けたのも……アウィナイトを殺した事があるのもサキだ。

「ライラは……ただ利用されてただけ。黒幕はヴェロスという邪悪な邪術師……本当はサキも気づいてたんじゃない?」
頑なに魂縛領域の森から出ようとしないこと。『父親』に関することの不自然さ。野良の邪術師の少女としてはあまりにも高すぎる邪術の実力……サキが真実にたどり着くヒントはいくらでもあった。
サキは思わず、ベンチに座っているリザの胸倉を掴んで引き寄せる。

「アンタに……アンタに何が分かる!例え偽りの姿だったとしても……例え別の邪術師に操られていたんだとしても……あの時、私たちが感じていた友情は……!」
「私は……サキとだって、友達に……!」
「はぁ?私はアウィナイトを裏の任務で殺したことがあるって言ったのが聞こえなかったの?私たちは恨みあうしかないのよ!」
「恨んでないよ」
「なに?」
「正確には恨めない、かな……私だって任務で罪もない人を大勢殺してる……悲しいけど、任務でアウィナイトを殺したサキのことを憎む資格は私にはない」
「は……ハハハハハ!アーッハッハッハ!!笑えるわねぇ!馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、そこまでお人好しだとは……ならいっそ、任務以外でも殺しとけばよかったわ!」
「サキ……!」

ひとしきり笑い転げたあと、サキは胸倉を掴んでいた手を離してリザを見据える。

「アンタと仲良しこよしなんてごめんよ……私はライライを殺したアンタを憎み続けるし、アンタだって口ではどうこう言っても同族を殺した私を完全に赦すことはできない……だから、取引をしましょう」
「取引?」
「私は邪術や裏の任務といった、回りには知られたくない秘密がたくさんある……リザがそのことを黙ってるなら、私もエミリアが『禁呪』を使ったことを黙っててあげるわ」
「……!」
サキはリザとエミリアがライラと戦っているところを見ていた。ということは必然的に、エミリアがドロシーロボ戦で禁呪級の魔法を使ったことも知っている。

339: 名無しさん :2017/05/07(日) 19:14:57 ID:???
「アンタは大事なお友達を守りたいから、私の秘密を黙っている……私も秘密をバラされたくないから、エミリアのことは口外しない……そういう取引よ」
「それは……」
「どうするの、リザ?」
その凄まじい威力もさることながら、魂すら傷つけてしまう呪われた特性により邪術以上に固く使用を禁じられている魔法。例え故意でなかったとしても、使用者には極刑が言い渡される。しかも禁呪の場合、誰かが使用したというのを知っていて密告せずに黙っていただけでも罪に問われてしまう。
そんな魔法を使ったことをバラされたら、エミリアは……


「……分かった。その取引、受ける」
「ククク……賢い選択だわ」
サキはぐい、とリザに顔を近づける。

「私たちは同じ王下十輝星……例え憎しみあっていても、敵にはなれない……かと言って仲間というには憎しみあい過ぎている……そんな私たちが、人には言えないようなことを互いに黙っているという取引をした」
「サキ……」
「だから私たちは敵でも仲間でも、ましてや友達でもない……言うなれば、そう……共犯者、とでも言えばいいかしら?」
「共犯者……」
「私とアンタを繋ぐ縁は、友情でも絆でもない……エミリアが禁呪を使用したことを黙っているという秘密。私が邪術を使って裏の汚い仕事をしていたという秘密」
サキは顔を近づけたまま、ニヤリと笑う。

「これからもよろしくね、共犯者さん」
「うん……今は、それでもいいよ」

結局、サキがリザを憎んでいる理由は具体的には分からない。それどころか何やら怪しい取引までしてしまった。
だがリザは思う。サキは確かに裏で汚い仕事をしていたが、それは全て任務のうち。王国の後ろ盾がある以上、禁呪の事がバレるのと比べたら、バレたとしても大したことにはならない。
わざわざ取引を持ちかけずとも、禁呪のことをバラして、知っていながら黙秘していた罪をリザに押し付けることも可能だったはずだ。

なのにそれをせずに、取引という形で秘密を共有することを選んだのは……絶体絶命のところを助けられたことに対する、サキなりの感謝の形なのかもしれない。



「……クシュン!」
「ぶ!?」
なんかいい感じに話がまとまったように見えたところで、リザがくしゃみをする……そして、リザに顔を近づけていたサキの顔にリザの口から出た分泌物がかかるのは、必然であったと言える。

「…………」
「ご、ごめん。すぐハンカチで拭くから……」
「誰かー!聞いてくださーい!ガラドのレジスタンスで有名なエミリア・スカーレットは先日、きn……」
「ちょ!?」
慌ててサキの口を顔ごとハンカチで押さえるリザ。

「もがもが、ひょうひゃんよ(冗談よ)」
「心臓に悪いから質の悪い冗談は止めて……!」

サキはリザとの関係を聞かれたら共犯者だとハッキリ言うだろう。リザも消極的ながら共犯者であることを認めるだろう。
しかし、今の2人を第三者が見たら……悪友、という評価を下すかもしれない。

  • 最終更新:2018-01-28 12:07:20

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