15.06.サキ2

280: 名無しさん :2017/04/17(月) 20:30:47 ID:???
彩芽たちがワームと戦っている頃、舞の姿をしたサキはアルガスの入り口に来ていた。
「柳原舞と申します。ここで異世界人を集めていると聞いてやってきました。」
「あぁ、異世界人の方ですね。ここまで大変だったでしょう。元の世界にお返しします。ついてきてください。」
(フン……ウェイゲートが止まっているんだから、返してもらえるはずないわ。あんたらが何を企んでいるのか見せてもらおうじゃない……!)

基地の中へと通されたサキ。そこには大小様々なロボットがせわしなく動き回っていた。
「でも、本当に元の世界に帰れるのですか?」
「はい。この世界とあなたのいた世界を繋ぐ、ウェイゲートとというゲートがあるのです。この基地にもあるそのゲートで、あなたを元の世界にお返しします。」
(はい嘘確定。このままついていくわけにはいかないわ。それなら……!)

「あの……こんな時にすみませんが、先にお手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ。そこの角を曲がったところですよ。私は外で待っていますね。」
男を外で待たせてサキは女子トイレに入り、小さく息を吸った。
(さてと…ちょうどあいつに聞こえるくらいの大きすぎない声を出さないとね!)

「きゃあああああっ!?誰か助けてえええっ!」
「えっ!?」
サキが入ってすぐ、女子トイレから悲痛な悲鳴が上がった。
「あ、舞さん!ど、どうされました!?」
「は、早くきてください!いやぁっ!」
「わ、わかりました!入っちゃいますよっ!?入っちゃいますよっ!?」
非常事態ならば致し方ないと、男は女子トイレの方へと踏み込む。
もしかしたら良いものが見れるかもしれないと、鼻息荒くトイレを見回したが、不思議なことに悲鳴の主の姿はどこにもなかった。
「ま、舞さん?どこですか?」
「こ、こ、よ?」
ドゴォッ!!!
上に気配を感じるも時すでに遅し。脳天に重い一撃を食らい、男はズルズルと床に倒れた。

(よし、名もなき兵士に変身完了っと!)
兵士をトイレの個室に押し込み、サキは兵士の体をコピーしてトイレから現れた。
(あの監視カメラの角度なら、男女とも衝立で阻まれてるせいでトイレの入り口が写っていない。ということは、もし今の一部始終をカメラで見ている奴がいたとすれば、トイレに入った舞の体は未だ出てこず、急に催した兵士が慌てて用を足して出てきたとしか思っていないはずね。)
潜入としてはいささか強引な手法になってしまったが、厳戒態勢のアルガスにはネズミ一匹入れる穴もなく、仕方なく正面からの潜入となったサキであった。
(長居はできないわ。アルガスが何をしているのかを調べて、もし可能であれば古垣彩芽の捕獲……やることは山積みなんだから……!)
可能性は高くはないが、監視カメラをじっくりと見られていたら、異世界人の舞を置いてトイレを離れているため怪しまれた可能性もある。
全てがバレる前に素早く任務を完了させるため、サキは監視カメラだらけの基地内の探索を開始した。

284: 名無しさん :2017/04/19(水) 01:38:04 ID:???
(こういうデカい建物の中には、大体大まかな地図がどっかにあるものだけど……あったあった)
アルガスの一般兵に変身したサキは、そのまま探索を開始し、研究所内の地図を発見した。

(執務室……こんな一般兵が近づいたら変に怪しまれるわね。休憩室……人は多いだろうから情報収集には適してるけど、この兵士と親しい奴がいたら変身を感づかれるかも……人は少なそうで、情報もありそうで、一般兵が近づいても怪しまれないっていうと……資料室かしら)
資料室というのは情報の塊だ。だが、こういった建物自体の警備が厳重な所だと、建物の中の部屋一つ一つは意外とザルだったりするのだ。

「よう、どうした?サボり魔のお前がこんな真面目な所に来るとは」
「まぁ、たまにはな」
資料室の前に着いたサキだが、その途端に居合わせた他の兵士に声をかけられる。どうやら、この変身した兵士と知り合いのようだ。

「ははぁ、分かったぞ。真面目に資料読んでるふりしてその実サボろうって魂胆だろ」
「……」
「お、図星か?」
他人になりすましている時は、ひょんなことからボロを出す可能性がある。変身している相手のことをよく知らない時はなおさらだ。だからサキは、よく知らない相手に変身する時は基本的に多くを語らないことにしている。見知った顔の相手が妙なことを口走るよりは、黙っている方が別人のなりすましとは思いつきにくいだろう。

「まぁいいや、あんまり長くはサボんなよ」
黙っている同僚に対し興味を失ったのか、その兵士はさっさとどこかへ去っていった。
(楽勝♪さーて、アルガスの連中が何を企んでいるのか……丸裸にしてやるわ)
そしてサキはそのまま資料室に入り、資料を漁りだした。

✱✱✱

(特殊な能力を持つ異世界人……ディスティンクティブヒューマン……略してDTT……これは『五人の戦士』のことね。そして、DTTのクローン兵士計画……。
古垣彩芽は本来なら柳原舞に捕まってもおかしくない所を『偶然通りかかった』山形亜理紗に助けられた……山形亜理紗にしても、地下に幽閉されていた所を『偶然』篠原唯と月瀬瑠奈に助けられ、その2人も『奇跡的に』王城から脱出している……そういった異常な強運体質の人間が、適切な訓練を受け、大挙して襲い掛かってくる……なるほど、実現したら厄介ね……)

資料室を漁り、適切な情報を的確に入手していくサキ。エスカのチート先読み戦略ができた間は活躍の機会が少なかったが、サキの潜入工作員としての能力は本物であった。

(それにしても、魔物を異常成長させる薬やクローン技術……発達した科学ってのは邪術に通じるものがあるわね。これを利用して、アルガスの……いや、ナルビア王国のイメージダウンを狙えば、お行儀の良いルミナスとの同盟に亀裂を……って、これは今は関係ないわね。あまり長居するのも危険だし……)

重要資料の現物を持っていくわけにもいかないので、携帯の写真で取る。そして画像ファイルに纏めてトーメント王国に送る。情報というのは水物だ。サキは可能な限り早く手に入れた情報を送ることにしている。
(任務完了……古垣彩芽はどこにいるかも分からないし、さっさと退却しましょうかね……)

そうして、資料室の扉を開こうとした時、向こうの方から扉が開いた。適当に誤魔化してさっさと帰ろうと思ったサキだが……

「いたぞ!あいつだ!リックに化けてやがる!」
「よくも俺を女子トイレに閉じ込めてくれたな!」
「資料室にいるとは……隊長の読み通りでしたね!」

そこには、大勢の武装した兵士と……先ほどトイレに押し込んだ、あの一般兵がいた。

(な、何故バレた!?いくらなんでも早すぎる!)
アルガス側のあまりにも早い対応に呆然とするサキ。彼女は知らぬことだが、この研究所には現世に蘇った『スピカ』のワルトゥがいつの間にか潜入していた。

それによって、アルガス側は侵入経路の捜索をしており……普段ならあり得ないほど早く、女子トイレの個室に押し込められていた一般兵を見つけたのである。
もしもワルトゥが侵入していなかったら、サキはこのまま平穏に帰還できていたであろうが……現実は非情である。

285: 名無しさん :2017/04/20(木) 18:19:01 ID:???
「睡眠ガス発射!早急に無力化しろ!」
「了解です、隊長!」
アルガスの兵士達が狭い室内に睡眠ガスを放つ。密閉された資料室ではそのガスから逃れる術はない。

(クソ、最悪の事態よ!こっちの情報が渡らないように、せめて携帯は壊す!)
証拠隠滅のため、先ほど使った携帯をすぐに握り潰す。どうせ仕事用携帯だから買い替えも経費で落ちる。

(これで私の身元を証明するものはなくなった……そして私がどこの手の者か確かめる為に、殺しはしないはず…隙を見て、に………げ……)
携帯を握り潰した後、室内に充満した睡眠ガスによってサキは気絶し、姿も元の華奢な少女のそれへと戻る。

「制圧完了!」
「よし、所長は今、DTTサンプルの研究でお忙しい……報告だけ上げといて、この小娘は我々が口を割らせるぞ!」
「了解!」

~~~

「所長、どこかの潜入員と思しき少女を捕らえたとの報告が……」
「ほう、あの汚い男の仲間か……?おい、そこの大男!潜入員らしき少女を捕らえた!お前の仲間か?もしお前の仲間だったら、返してほしくば我々の実験に協力してもらおう!」
「ああん?仲間?知らねえな!俺ぁ今は気楽な一匹狼よ!」
「チ……まぁいい、あの男はあの2人と戦ってるだけで我々に協力しているようなものだからな……捕らえたネズミは、適当に拷問にでもかけてどこの手の者か喋らせとけ!私は今忙しい!」
「はっ!」


「さて……金髪の嬢ちゃん、もう終わりか?」
「ぐぅううううう……!彩芽、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ、なんとかな……あのおっさん、そんなに強いのか?」
「ええ……こないだの黒ずくめ女子高生とは比べ物になりませんわ……」
「そうか……すまない亜理紗、もう少しだけ時間を稼いでくれ。必ずこの扉を開けてみせる!」
「ええ……頼りにしてますわよ、彩芽!」

再び立ち上がるアリサと彩芽。彼女たちの瞳には、まだまだ強い意志が宿っていた。

「さぁ、第二ラウンドといきますわよ!」
「へへへ……『ぐう』とか『がぁ』とかじゃなくて、もっと色っぽい悲鳴で喘がせてやるぜ!」

286: 名無しさん :2017/04/20(木) 23:33:36 ID:???
「この小娘、いったいどこのモンだ?リックに完全に化けてやがったぞ……」
「おそらくワンピースでいうパラミシア系の能力者だろうよ。他人になりすますって能力だな。」
「厄介な……とりあえず持ち上げて顔見てやろうぜ。」
隊長に拘束するよう指示を受けた3人の兵士たちが、うつぶせに倒れたサキの体をゆっくりと表にする。
と同時に、露わになったサキの整った顔立ちに、男たちの視線は釘付けになった。

「お、おおお……!こりゃあ……」
「美少女スパイとは……役得だな。隊長から今ラインが来たぜ。どこのやつか吐かせるためなら、俺らがこの娘を好きにしていいんだとよ……!」
「てことはだ……殺さない程度に痛めつけて吐かせたら、あとはこいつにナニしてもいいってことだよなぁ……!」
仰向けで安らかに眠る少女の無防備な姿を移す男たちの目は、飢えた野獣のようにギラギラと光っていた。

291: 名無しさん :2017/04/22(土) 20:57:03 ID:???
「う、ううん……」
「よう、目が覚めたか?美少女スパイちゃん」
「……!クッ……!」

ここはアルガスの拷問室。そこでは、サキが椅子に縛りつけられていた。そのサキを見学するのは、先ほどサキがなりすましていたリックを含む三人の兵士。

「へっへっへ……アンタみたいな上物がそうやって無様曝してるのたまんねぇな」
「お、お願いします……!助けてください!酷いことしないで……!仲間の情報ならなんでも言いますから……!」
下手に反抗的な態度をとると、そこに待つのは拷問のみ。ここは怖がって従順になったフリをしてやり過ごし、場合によっては誤情報でアルガスを踊らせようと目論むサキだが……

ブッブー!

突如、近くに置いてあった機械が電子音を鳴らす。

「え?」
「はい、?決定!お前ホントは仲間を売る気ないな?」
「そ、そんなことありません!」

ブッブー!

「この噓発見器の的中率は100%だ。上手な嘘もすーぐバレるぜ?」
「アルガスの技術力舐めんな!」
「まったく、よくも俺をあんな目に合わせてくれたな……!女子トイレに閉じ込められて最悪だったぜ!」

ブッブー!

「リック……お前……」
「はい、実は生まれて初めて女子トイレの中まじまじと見れてちょっと役得だなーとか思ってました」
「と、とにかく!この噓発見器がある限り、嘘の情報はすぐ分かる!誤魔化そうったって無駄だ!」

「チ!クソが!」
演技はするだけ無駄と悟ったサキは、素で舌打ちをする。
「なるほど、それがお前の素か……えらい猫被りだな」
「そういうアンタこそ、外行きの態度と素はえらい違いじゃない、まんまと私に嵌められた無能な衛兵さん?」
その言葉を聞いた瞬間、サキに成り代わられた兵士が彼女を殴る。

「ブッ!」
「大人は丁寧な態度とらないと生きてけないの。ガキのお前にゃ分からないだろうがな」
「おいおい、いきなり殴るとかww可愛い顔に傷がついちまうじゃねえか」
「く……誉めてくれてありがとう。でも容姿に関しては身近に特上の奴がいて、誉められても内心でそいつと比較しちゃうから全然嬉しくないのよね」
「ほぉ、その容姿のアンタにそこまで言わせるとは……是非とも一度会ってみたいね。にしても、この状況でよくそんな生意気な口が聞けるな……」
「こう見えて、痛みに耐える訓練はしてるしね」
(ぶっちゃけリザの野郎の情報ならいくらでも喋りたい所だけど……その辺下手に喋るとトーメント王国の人間ってバレそうね)

サキがトーメント王国の情報を喋ろうとしないのは、何も国に対する忠義ではない。スパイなどという日陰者、情報さえ吐かせれば後は用済みとばかりに殺されるのが常だからだ。
ただ、逆に言えば情報さえ喋らなければ殺されないということ。殺さないと分かっている相手の攻撃など、訓練を受けた自分なら耐えられるとサキは確信している。

「へへへ……痛みに耐える訓練はしてる、ねぇ……」
「ククク、研究都市アルガスの拷問が、そんな痛みを与えるだけのものと思ったか?」
「これを見ても、まだそんな生意気な口が聞けるか!?」

そう言って兵士が部屋の奥から引っ張り出してきたのは……変わった形のペットボトルに入った、普通の水であった。

「なによ、ただの水じゃない」
「へへへ、確かにこれはただの水だが……おいリック、上を向かせて固定しろ!」
「あいよっと」
「っ……!」

リックと呼ばれた兵士が乱暴にサキの髪を掴み、上を向かせて金具で首を固定する。

「なによ、私をどうする気?」
「その様子じゃ知らないらしいな……水滴拷問の恐ろしさを!」
そう言って兵士は、やや特殊な……一定の間隔で水滴が落ちるように作られたペットボトルを、サキの上に別の器具で固定する。

「な、なにを……」
ここで初めて、サキは嫌な予感がした。そういえば異世界に潜入している時に聞いたことがあるかもしれない。古代中国では、眉間に水を垂らし続ける拷問があったと……

292: 名無しさん :2017/04/22(土) 20:58:12 ID:???
「へっへっへ……これで目隠ししてやるぜ」
そう言って兵士は白い布を取り出す。
「や、止めて!」
「やっと本心から怖がってくれたな……そりゃ!」

椅子に拘束されている現状では、サキに逃れる術はない。あっという間に目隠しをされてしまった。

「さぁて、目隠しされて敏感になったところを、一定間隔で眉間に水滴を垂らし続けてやるぜ……」
「い、いや!」
サキは慢心していた。今までは安全な所から悪巧みしてるだけだったし、たまに危険な所に潜入しても無事に切り抜けてきた。慢心するなという方が無理な話だ。
それがこうして敵国に捕まり、悪名高い拷問を受けようとしている。さっさと情報を吐けば拷問は止むだろうが、用済みとなった女スパイに男共がすることを考えるとそれもできない。


ピチョン…ピチョン…

「ん!」
「ほらほら、早くゲロらないと狂っちまうぜ?」

ピチョン…ピチョン…

「しゃ、喋ったってろくな目に合わないでしょ……ん!?」
「いやぁww楽しみだなぁwwこんな美少女スパイが段々狂ってく様をこんな間近で見られるなんてww」

ピチョン…ピチョン…

「あ、ああ……お願い、止めて……」
「俺を女子トイレに放り込んだ罰だってーの」

今はまだ我慢できるが、このまま水滴を垂らされ続けたらやがて狂ってしまう。サキは王下十輝星になってから初めて、心の底から恐怖した。

295: 名無しさん :2017/04/23(日) 12:21:36 ID:???
俺の名はダイ・ブヤヴェーナ。人呼んで兵士D。職業は自宅ではない警備兵。
そろそろ見張りも交代の時間だ。明日は非番なので、さっさと帰って趣味のアクアリウムに興じよう…
…と思っていたら、何やら拷問室の方が騒がしい。
覗いてみると、同僚のリック他2名が、女の子を椅子に拘束して、何やらペットボトルの水を垂らして遊んでいる。

「…お前ら何やってんだ?」
「よお、Dお疲れー。見ての通り、拷問だよ拷問。聞いたことないか?
 こうして眉間に水滴を垂らし続けると、垂らされた奴はやがて発狂するっていう…」
「……ああー…なるほどね」

…色々とやり方が間違っている気はするが、わざわざ口を挟む事もないか。

「い、いやぁ…もう許して……何でも話しますからぁ…」
ブッブーー!!
「はっ!!強情なやつだぜ!…だがこの恐ろしい拷問に、いつまで耐えられるかなぁ!?」
「へっへっへ…垂れ落ちた水で、シャツの下のブラが透けてやがるぜ…たまんねぇな」

…いや、やっぱ我慢できん。

「あのな、お前ら……まず一回、黙れ。静かに。」
「え……D?」「どうしたいきなり」
「音出すな。明りも消せ。シコんな。水滴以外のすべての感覚を遮断しろ。基本中の基本だぞ」
「…き、基本…なの?」
「や、やだっ…待って、それ、本当にヤバいっ……むぐ!?」
「当然口も塞ぐ。こんなんWiki見りゃ常識だろうが」
「Wiki…」「常識…?」「あの、口塞いだら情報吐かせられな…」
「…静かに。な?」
「アッハイ」「許可なく発言しません」
「うちの拷問室、水材(※水拷問用の器材)弱いからなー…とりあえず俺の部屋から一通り持ってくるわ」
「アクアリウムとは一体…」

296: 名無しさん :2017/04/23(日) 13:51:28 ID:???
…Dと呼ばれた男の登場によって、場の空気が一気に変わった。
烏合のゲス集団だった兵士達は今や一つのシステムの歯車と化し、淡々と、着々と、私を…潰そうとしている。

「まず、顔の固定だが…首を反らせて、顎とこめかみの左右に金具を当てる。
…この、いわゆる四点方式なら、初心者でも確実に固定できてお勧めだな」

さっきまでは、気付かれないように首だけを動かして水滴の落ちるポイントをずらすことも出来たのだが…
男にヘッドギアや拘束ベルトを絞め直されただけで、首も顔も、全く動かせなくなってしまった。
首を絞められたり気道を塞がれたわけでもないのに、息苦しささえ感じる…

「肩から下の拘束も、いくつか種類がある。ベルトや鎖、枷での拘束が一般的だが、
少し遊びを持たせるか、全身ガチガチに固定するか…
拘束一つで発狂するペースも仕上がりも変わってくるからな」

目と耳を塞がれているため男の姿や声はわからないが、その淡々とした手つきからは一切の感情らしき物が感じ取れなかった。
男はこれまでにどれほどの「拷問」を繰り返してきたのか、どれほどの数の犠牲者を生みだしてきたのか。
私も…王下十輝星『リゲル』のサキも、その大勢の中の一人にすぎないのか…
考えれば考える程、思考は恐怖と絶望の泥沼に囚われていく。
手枷や足枷で拘束されるまでもなく、私は身が竦んで指一本動かすことが出来なかった。

「あとは水の粘性と、落とすペースだな。サラサラして乾きやすい水滴なら、衝撃が一点集中する。
逆に水をトロっとさせると、サーフェス効果と言って…つまり、額に残った水が膜を作ったところに
さらに水滴がくる形になるから、衝撃が分散してまろやかな仕上がりになるわけだ。
ドロップするペースも、ハイかローかランダムかストリングか…拷問の目的によって使い分けるのがセオリーだが、
壊す目的ならランダムが結局一番早いかなー。まあ早けりゃいいってもんでもないんだけどな」
「Dめっちゃ楽しそう」
「感情ダダ漏れすぎる」
「壊す目的じゃないけどもうそれでいいや」

手足を拘束され、目と耳と口を塞がれ…私は自分の身を守るため、覚悟を決めるしかなかった。
所詮、たかが、水滴ごとき…いくら来ようと、痛いわけでもないし死ぬこともない。
情報を吐かずに耐えていれば、向こうもそのうち根負けして別の手を取ろうとするだろう。
そうなれば、脱出のチャンスは必ず巡ってくるはず。そう考えていた私は…

「…ちょっと脱線したな。粘性どうする?…まあ、実際に試すのが一番早いか。
 まずはサラサラ系からいこう…拭くの楽だし。水滴を落とすポイントは、ここ。…鼻の上から、指二本分な」

(…ぽたり)
「…~~~~っ!!?……」

…ほんの数秒後、最初の一滴で、自分の認識の甘さを文字通り『痛感』する事になった。
眉間に、矢が突き刺さった。その位激しい、衝撃と痛みが駆け抜ける。
(いっ…痛ぁああああ!!!何よ、何なのよこれ、ただの水じゃなかったの!?
こんなの…何回も落とされたら、拷問なんてもんじゃない…死んじゃうっ!!殺されるううう!!)

「おお、すげえ暴れてる」
「さっきまでとリアクションが全然違うな」
「この世界も奥が深いからなー。昔は自分で水質調整したりドロッパー(※水滴を落とす装置)自作したりしたもんだけど、
最近じゃ全部機械で管理できるからホント楽だよ。この際だからお前らも買ったら?安いやつなら12~3万位で買えるよ」
「え、12~3万って…(※単位はナーブルです)」
「奥が深いって言うか業が深いな…」

297: 名無しさん :2017/04/23(日) 15:02:34 ID:???
「ん、むぐ……ぎ、おっぉ…!!…」
「…水を変えたら違うリアクションになったな」
「粘度の高い水だと、重感が強くなるからな。頭を踏みつけられて、それがどんどん重くなっていく…みたいな感じだ」
(…こういうのってやっぱ、自分でも試してるのか…?)

…とにかく、同僚の兵士Dの手際は、見事の一言だった。
ほとんどお任せで色々とセッティングしてもらうと、
女はたちまち拘束ベルトを引きちぎらんばかりに暴れ出す。
しばらくすると暴れ疲れて、ぐったりと身体を弛緩させる…その頃合いを絶妙に見計らい、
水滴を落とす機械(俺たちの年収位するらしい)が、水質だか水滴の落とし方だかを変えて…
「…おっ!!……っ…!!………っも、…や、……め…!!」
何か物凄い事が起こったらしく、女は身体をビクリと跳ねさせ…また暴れ始めた。
この調子なら、確かに体力も正気も根こそぎ奪われてしまうに違いない。……12~3万か…

「…んじゃ、俺夜勤明けだし帰って寝るわ。
その機械、自動設定で休み明けまで動くようにしてあるから、下手に触んないでくれよ」
「アッハイ」「オヤスミナサイ」

…そう言えば結局この女、どこのスパイだったんだ?
頭のイカれた王様が独裁してるっていう、トーメント王国か。
又はあの不思議な変身能力、『魔法少女の国』ルミナスから来た可能性もある。
他に可能性がありそうな敵対勢力は…アルガスの北、森を越えた先にある『聖騎士の国』シーヴァリアか?
いや、スパイと言ったら遥か東の『討魔忍の国』ミツルギも考えられる。

…確か、あの女を捕らえた時、現場に壊れた携帯電話が落ちていた…恐らくあの女のモノだろう。
何とか復元して、身元を突き止められないだろうか…?

301: 名無しさん :2017/04/28(金) 00:19:14 ID:???
「んー!んー!ふ、ぐ……!」
(も、もうイヤ……!こんなの耐えられない!)
椅子にがっちりと固定され、口も目も耳も塞がれ、唯一の感覚は水滴による水滴とは思えない程の痛覚のみ。不規則に色々なタイプの水滴を眉間に垂らされ、サキは憔悴しきっていた。

「お、ご……!むぁ、んむぅううう!!!」
(いやぁ……誰か助けて……ヨハン様ぁ……!)

(いやしかしこれほんとすげぇな……12、3万はちょっと高いが買っちゃおうかな……)
(エッロ……目も隠して口も塞いでってのが逆にフェチズムを刺激するな)
(もうちょっと見てから携帯の復元に取り掛かろう)
兵士三人組はそんなサキを見て各々物思いに耽っていた。

「んむ……ふー、ふー」
(ダメよ、気をしっかり持たないと……ライライの仇も取らないうちに死ぬわけにはいかないわ……)
普通の少女だったらとっくに狂っているであろう拷問。それでもサキが狂わないのは、普通の少女に比べて強靭な精神を持っているからだ。

「ぐ、ぐぅううう!んぐぅううう!」
(耐えないと……私が、私までいなくなったら、あの子は……ユキは!)

サキは現実世界に潜んで少女たちの友情を壊し、この世界に引きずり込むことに愉悦を感じるドSである。しかし、その為だけに王下十輝星になったわけではない。

✱✱✱

サキにはユキというやや年の離れた妹がいる。姉の身贔屓抜きに可愛い子だった。サキの家は母子家庭で決して裕福ではなかったが、スラム辺りの底辺と比べたら十分上流階級ではあった。
まぁ、それなりに幸せには暮らしていたと思う。母はサキもユキも平等に愛してくれていた。

だがある日、母は突然硫酸でユキの顔を焼いた。本当に突然だった。
呆然とするサキ、痛みで泣き叫ぶユキ。しばらくしたら近所の人間が通報したのか警備隊が駆けつけてきて母を拘束し、ユキは入院した。

1人だけになった家で、サキは母からの置手紙を見つけた。
その置手紙には、割と高名な貴族からユキが『リョナ要員』として連れて行かれるという話があったということ。断ることは許されなかったこと。ユキを救うには彼女の顔が醜くなるように焼くしかなかったこと。そして、こんな手段でしか娘を守れなかった自分の無力さをひたすら謝る文が書いてあった。

302: 名無しさん :2017/04/28(金) 00:20:16 ID:???
その置手紙を読んでサキが覚えた感情は二つ。一つは単純な権力欲。権力があればこの世界の理不尽から自分や家族を守り、逆に自分が理不尽を強いる側になれる。だからこそ邪術も覚えたし王下十輝星にもなった。

もう一つの感情は複雑だったが、言うなれば容姿の特別良い者への妬みとも言うべき感情。
サキは自分の容姿が良いことは自覚しているが、あくまで「探せば普通に見つかる」レベルでしかないこともまた自覚している。……だからこそどこぞの高名な貴族はユキだけを「リョナ要員」に選んだことを理解している。

サキも年頃の少女である。妹より容姿に劣るというのは少なからぬコンプレッスであった。これでもしも血の繋がった妹でなければきっと意地悪なことをしていただろうが、サキは鬼畜なドSではあっても冷血漢ではなかった。物心ついた時から一緒にいる家族に対して酷いことをする気は起きなかったし、サキなりに家族を大事にしていた。

そんなコンプレックスは最悪の形で吹き飛ぶことになる。妹の顔が硫酸で顔を醜く焼かれたことで。
それからサキは、特別容姿の良い女性は酷い目に遭わなければならないという歪んだ思いを抱くことになる。妹の容姿が特別よかったせいで自分の家族は酷い目に遭ったのだから、他人にもそれを強要しようというのだ。
だからアウィナイトの女性が性奴隷にされることは当然だと思っているし、リザがそんな現状に抗おうとしているのは許せない。

妹は今も入院中で顔に包帯を巻いて生活している。母はまだ獄中生活だ。
ユキには本当のことを言い出せなくて、彼女は母は狂ったのだと思っている。
ユキにはもう自分しかいない。母に顔を焼かれたのがトラウマになっており、ユキは言い方は悪いがサキに依存していた。

向こう十年の入院費は先払いをすませている。十輝星は給料がいいのだ。だが、自分までいなくなったら、ユキは今度こそ心を閉ざしてしまう。そうなればもうユキに人並みの幸せは訪れない。

十輝星の権力を使って母を釈放させようとしたこともあったが、母は気持ちの整理がつかないと言って獄中に留まっている。サキとユキに何度も何度も謝りながら。


サキは赤の他人が辛い目に遭うのには愉悦を感じるが、親しい人間や家族は大切にしている。
邪術のライラやユキや母……後は趣味を兼ねてちょっと鬼畜なことができれば、サキにとってはそれだけで満足だった。

きっと、この世界がリョナラーの世界でなければ……現実世界のような場所だったら………サキはちょっと裏表のあるだけの、普通の少女でいられたかもしれない。
だが、この世界は優しくなかった。普通の少女ではいられなかった。

ユキには言えないような汚いこともたくさんやった。嬉々として少女の絆を壊す自分に自己嫌悪したりもした。
だが、サキは後悔はしない。家族を守るための行動……たとえどれだけ汚くても、内心でどれだけ鬼畜なことを考えていても、その行動自体を間違いだとは決して思わない。

だからサキは、想像を絶する苦痛の中にいても……心折れることはなかった。

  • 最終更新:2018-02-18 17:51:02

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