15.04.唯と瑠奈2

274: 名無しさん :2017/04/16(日) 10:22:35 ID:???
「ゼルタ山地」の奥にある盗賊団のアジトにて、唯と瑠奈が盗賊達と大立ち回りを演じていた頃。
トーメント王国からやって来た軍用ヘリが、そのアジトの前に着陸していた。
ヘリから降りてきたのは、二人の少年……トーメント王下十輝星、アトラとシアナ。

「ここが『牙突き立てられし闘犬の団』のアジトか…名前の噛ませ犬感がすごいな」
「つーか、いくらなんでも山奥すぎだろ…本当にこんなとこに、唯ちゃんと瑠奈ちゃんがいるのかよ」

唯と瑠奈の身柄がネットオークションに売りに出されていたのを見つけた彼らは、
半信半疑ながらも即決で買い取り、商品を受け取りに\ヘリで来た/のであった。

「ま、ダメ元で行ってみるか。ところで…シアナ。最近、アイナとはどうなんだ?」
「…どう、って?」
「ひひひ。とぼけるなよ~…お前ら最近、なーんかアヤシイって噂だぞ!いいのか?こんな所で唯ちゃんを追っかけまわしてて」
…一瞬、シアナは複雑な表情を見せた。アイナの事を好きになり始めていたのは確かだが、
彼女の『他人の記憶から消える能力』の厄介さに気を取られて、それどころではなかったのが事実。

「…お前の方こそ。僕が知らないとでも思ってるのか?エミリア・スカーレットがいた、あの地下牢の『特別室』…」
「ぎくっ」
「エミリアが牢を出た今は、誰が入ってるんだろうな?最近そこに、アトラがせっせと通ってるって聞いたぞ」
「ぎくぎくっ」
「ところで、ノワールの姿を最近見かけないな。服の方はともかく、中身の魔法少女…市松キョーコって言ったっけ?」
「鏡花ちゃん、な! シアナ、おまえ呼び捨てにすんなよ鏡花ちゃんの事!」

「……はあ。ま、リザも似たような事してたみたいだし、とやかく言いたくないけど…あの子はやめとけ」
「…なんでだよ!優しくて可愛くて、しかもおっぱい大きくておまけに魔法少女とか最高だろうが!!」
「いや、そーいう問題じゃなくて…いや確かに『最高だ』とは思うよ?…『リョナる分には』ね。」
「………。」
そう…彼女はルミナスの魔法少女で、自分たちはトーメント王下十輝星…言わば不倶戴天の敵なのだ。
シアナがこの色々と無謀な恋路の行く末に不安を抱いてしまうのも当然の事だろう。

「……シアナは心配し過ぎなんだよ!大丈夫、何とかなるって!俺、運がいいし!」
「まあ、そういう話はまた今度じっくりやるとして…今は、唯ちゃんと瑠奈ちゃんだ」

「そう言えば…高額落札者サマが来てやったってのに、出迎えがないな」
「それに、建物の中も騒がしいし……何かあったんじゃないか?」

「…なんかヤバそうだから急ごうぜ!チャンスの女神さまは前にしかおっぱいついてないって言うからな!」

275: 名無しさん :2017/04/16(日) 12:33:21 ID:???
「おじゃましまーす!唯ちゃんと瑠奈ちゃんを引き取りに来ましたー!」
アジトのドアを開けながら大声で挨拶をするアトラの目に飛び込んで来たのは……こちらへ吹っ飛んで来た盗賊のケツだった。
「あべしっ!!!」
顔面に盗賊の汚いケツを押し付けられたアトラは、そのまま10メートルほどゴロゴロと転がっていった。
「ア、アトラ!大丈夫か!?」
「いってえ……!こいつッ!俺に汚ねえケツ押し付けやがって!こうしてやる!」
立ち上がったアトラが手をかざすと、何もなかった芝生に突如巨大なトラバサミが現れ、盗賊は首を挟まれた。
「ぎゃあああああッ!」
「おい、なにもそこまでしなくても……」
「シアナよ…お前も顔面に汚い男のケツを押し付けられれば、俺の気持ちがわかるぜ…」
「わかりたくないな……それより、お目当の2人が来たぞ。」
入り口のドアへ盗賊を吹っ飛ばした2人が、十輝星の前に現れた。

「あれ、こんなところに男の子がいるよ?」
「あーーー!あんたらはあの時のッ!!!」
瑠奈の記憶に蘇ったのは、目の前の少年たちにトラバサミを嵌められた後眠らされ、トーメント城で海老反りで縛られ、ひたすら胸を揉まれ、体に蛞蝓を這わされたという思い出したくもないおぞましい記憶だった。
「唯気をつけてっ!こいつらはあの王の手先よッ!」
「ええっ!?こんな小さい男の子たちが!?」
「私はこいつらに拘束されて、酷いことをたくさんされた……!こいつらがヒカリの言ってた、王下十輝星よ!」

「ヒカリって……エスカのことか!なぁ、エスカ元気?」
「あ、うん。記憶は戻らないけど、ルミナスのみんなと仲良くなれたから、それなりに楽しいって言ってたよ。」
「そっかー!俺たちのとこからいなくなったのは寂しいけど、元気に生きてるならよかったよかった!」
「フフ、仲間思いなんだね!」
「ち、ちょっと唯!こんな奴らとなに普通に会話してんのよぉ~!!」

「だ、だって……瑠奈にひどいことしたのは事実かもしれないけど、この子たちはまだ小学生くらいの子供なんだよ?ちゃんと話し合えば分かり合えるよっ!」
そう言うと唯は2人に近づき、手を差し出した。
「私、篠原唯っていうんだ!君達は?」
「俺はアトラ!よろしくな!」
「ぼ、ぼぼぼぼ僕はシアナ……」
元気よく挨拶をするアトラに対し、シアナは不自然にどもっている。
「おいシアナwwお前憧れの唯ちゃんに会えたからって緊張しすぎだろwwそれとも、もうスイッチ入ったのか?」
「憧れ……?私に?え~どうして?」
「ぼ、僕はゆ、ゆゆゆ唯ちゃんとずっとやりたかったことがあるんだ……フ、フフ。」
「私とやりたいこと?それはなにかなぁ?お姉ちゃんにも教えて?」
小学生くらいの男の子なら、鬼ごっこやかくれんぼ。またはポ◯モンとか妖◯ウォッチだろう。
唯は目の前で顔が真っ赤になっている子供を、優しい視線で見つめながら返事を待った。



「ぼ、僕は唯ちゃんのことを……荒縄でギチギチに縛った後、生爪を一枚ずつ剥いでやりたいんだ……!」

276: 名無しさん :2017/04/16(日) 13:56:40 ID:???
「え?」
「ほら唯ぃ!あの王の手先なんて、こういう奴しかいないんだよ!早くそいつらから離れて!」
「もう遅いウシ乳チビ女!」
そう言ってシアナは唯と瑠奈の間に大きな穴を開ける。

「う、ウシ乳チビ女!?あったまきた!こんな穴、ルミナスで修行した今なら簡単に飛び越えてやるわよ!」
「馬鹿が!僕らの能力を知ってる癖に、自分から身動きの取れない空中にくるとは!やっぱり栄養が頭じゃなくて胸にいってるらしいな!アトラ!やれぇ!」
「はいはい……こうなるとこいつめんどくさいんだよなぁ……」
「しま……!きゃあああああああ!!」
「る、瑠奈ぁあ!」

シアナの開けた穴を飛び越えようとした瑠奈。だが、空中でアトラの網のトラップが炸裂し、瑠奈は自分から網にかかりにいく形になってしまった。

「く……!こんな網!」
「その網は生半可なことじゃ破れない……大人しくしてるんだな」
「いやシアナ、それ俺の台詞……」
「さぁ、次は唯ちゃんの番だ!」
「ああ、普段無茶やってる俺と同行してるシアナやフースーヤって、こんな気分だったのか……」
アトラが自らの行いを省みている間、唯はキッとシアナとアトラを睨む。

「どうして……どうしてこんなことするの!?あの王様に無理矢理させられてるの!?」
「いやいや、こう見えて王様には感謝してるんだぜ?」
「王様やトーメント王国は関係ない……これは、僕の性だ」
「唯、私に構わず逃げて!こいつに捕まったら、前以上に酷いことされるわ!」
「そんな……瑠奈を見捨てるなんてできないよぉ!」

「なぁ、どこでリョナるんだ?やっぱり城に連れ込んじゃう?それとも野外活動としゃれこむか?」
「ククク……そうだ、このウシ乳チビ女にも使い道があるじゃないか……こいつを目の前で殺せば、唯ちゃんはきっとイイ声で鳴いてくれる……」
「あ、聞いてないっすね、はい」

277: 名無しさん :2017/04/16(日) 15:20:11 ID:???
「やめて!瑠奈にひどいことするなら、いくら君達でも許さないよ!」
「アトラ、ウシ乳チビ女を少し痛めつけてやれ。」
「はいはい。とりま電流でも流して喘がせてやるか!」
アトラが網に手をかざすと、瑠奈を捉えている網がバチバチと放電を始めた!

バチバチバチバチバチィッ!!!
「ひゃああっ!?あっあっあ、ぅあ、あ゛っぅあっあ゛っ!ああうっ!うあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
「まだまだ!電圧アップ!」
「んううっあ゛っんッッ!!!ぐ、あっ、やああっ!やめてえええ゛え゛っ!あああっ!あぁ゛、あうぅっんっ!」
「やめてええっ!瑠奈を離してええっ!」
「やなこった!ほらもっとエロい声で喘げ!ブタ乳デカ女!」
「ひゃあああ゛あ゛んっ!!!あぐっ!ぅああああっ!!!んやっ、あ、ひあ゛ぁうっうぅんっ!!あひぎゅぅんっ!あっ!!!あああぁあぁぁあああ゛あ゛あ゛ぅうッッ!!!」
ビリビリビリビリィッ!

「ぁあ……うぅ……!」
強い電流を浴びた影響で、体からプスプスと煙をあげる瑠奈。アトラの容赦ない電流攻撃に激しく喘いだ瑠奈の服は、所々破れてしまい、今はブラとパンティが見えてしまっているあられもない姿で磔になっていた。
「ククク…ウシ乳チビ女もなかなかいい声で鳴くじゃないか。唯ちゃんほどじゃないが気に入ったぞ。」
「あれ?ブタ乳デカ女じゃなくてウシ乳チビ女か!さっき間違えちまったわ!」
「やめてって……言ってるでしょうっ!!」
電流を流しているのはアトラだと判断し、そちらへ素早く走り寄る唯。
「シアナ!」
「わかってる!」
猪突猛進する唯を止めるべく、走る先に落とし穴を仕掛けるシアナ。
「きゃああああっ!!!」
シアナの計画通り、唯は仕掛けられ5メートルの深さの穴へと落ちていった。
「引っかかった引っかかった。そういうバカなところも好きだよ。唯ちゃん……」
ゆっくりと穴へを覗き込むシアナ。
「唯ちゃん、君は後で僕がゆっくり料理してあげるから……ねっ……!?」
言葉尻がおかしくなったのは、こちらに向かってものすごいスピードで壁を走ってくる唯の姿のせいだ。

「せやああああっ!!!」
「う゛ごふっ!?!?」
穴を覗き込んだシアナの顔面に掌底を食らわせ吹っ飛ばし、素早く地上に戻った唯。
「シ、シアナ大丈夫か!?」
「瑠奈を離しなさーいっ!!!」
吹っ飛ばされたシアナに視線を奪われている間に、唯はアトラの懐に潜り込み、強烈なアッパーをお見舞いした。
「あぐふっ!?!?」
ブチンッ……!
アトラが殴打された瞬間網の拘束は外れ、気絶したままの瑠奈は受け身もできず地面に叩きつけられた。

「ぐはっ……!」
「瑠奈あっ!大丈夫ッ!?」
素早く瑠奈に駆け寄る唯。瑠奈は気絶しているが、呼吸ははっきりしている。
「ちちんぷいぷい、いたいのいたいのとんでけっ!」
初歩の回復魔法であるヒールを唱え、瑠奈を回復させる唯。
「いてててっ……穴に落としても壁を走ってくるなんて……」
「ゆ、唯ちゃんのアッパーまじ痛え……やべ、涙出てきた……!」
久しぶりにダメージを食らった少年たちは、よろよろと立ち上がってお互いの無事を確認した。

278: 名無しさん :2017/04/16(日) 19:05:38 ID:???
「ねぇ、もう止めようよ……!君たちだって叩かれたら痛いでしょ?自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないよ……!」
「ふん!そういうのは世界からいじめや差別をなくしてから言えってんだ!シアナ!こっからは油断するなよ!」
「唯ちゃん……理想論に酔ってるのもお馬鹿で可愛いなぁ……」
「いやだからお前俺の話聞けよ!」
思わぬ唯の反撃に面食らった2人だが、これしきのことで戦意を失う2人ではない。

(うう……やっぱり、戦うしかないのかな?)
じりじりと後ずさる唯だが、気絶した瑠奈を抱えながらでは逃げ切る自信はない。かと言って瑠奈を見捨てるという選択肢はない。となれば、戦うしかないのであるが……

「でも……こんな、小学生くらいの子と戦うなんて……!」
「迷ってるならこっちから行くぜ!」
そう言ってアトラは振り子式の丸太を出現させて唯に放つ。

「っく!」
咄嗟に飛び退いて丸太を躱す唯。だが、空振った丸太はシアナが次元に開けた穴を通して唯の真後ろから直撃する。
「カハ!?」
「逃がさないよ、唯ちゃん」
「う……ゲホッ、ゲホッ!な、なん……で……躱した……はずなの………に」
「あ、そっか。エスカ情報ってことは、唯ちゃんたちはシアナの新しい力を知らないのか」
「ぐ……まだ、まだぁ!」
丸太を喰らった背中に激痛が走るが、ぐぐぐ、と力を込めて立ち上がる唯。

「ちちんぷいぷい……いたいのいたいのとんでけ!」
回復魔法をかける唯だが、初級魔法では痛みを和らげるのが限度だ。

「アトラ!ウシを狙え!」
「え、ウシ?」
「あのウシ乳チビ女のことだよ!」
「とうとうウシ呼びになったか……でもま、確かに名案だな!」
「き、気絶してる瑠奈を狙うなんて!」
「勝負の世界でそんな甘いこと言ってんじゃねぇっつーの!」
「普段ゲーム感覚で戦ってるクセに……」

瑠奈目掛けて飛んでくる数々の丸太。しかも、シアナの能力によって突如軌道を変えて襲いかかる丸太もある。
唯一人ならば回避するという選択肢もあるが、瑠奈を狙われては防ぐという選択肢しかない。
その場で立って丸太をいなし、受け止め、やり過ごすうち、徐々に被弾が多くなってくる。

ドゴォ!
「グァハ!?だ、だめ、ここで倒れたら、瑠奈が……きゃああああああ!!」
「おいおいwwいなしきれなくなったからって、自分から当たりに行って瑠奈ちゃん守ってるよwww」
「ああ、唯ちゃん……君はなんてお馬鹿でお人好しで可愛いんだ」
「………実際のところ、お前唯ちゃんのことどう思ってんの?好きなの?だとしたらアイナは?たまには修学旅行の夜みたいな話もしようぜ」

ドグシャア!
「わ、私が瑠奈を守らなくちゃ……おぐぅううううう!!」
「唯ちゃんはリョナりたくなる可愛さだろ。アイナはなんていうか……ずっと朗らかに笑っていてほしいっていうか……別にまだ好きとかって訳じゃ……」
「へぇ、まだ、ね……かぁー!甘酸っぺぇー!」

グワシャ!
「と、盗賊の時は、私が足を引っ張っちゃったから……今度は私が瑠奈を……!うぁああああああ!!」
「そういうお前だって、ちょっと前までリザにお熱だった癖に、どういう心変わりだよ」
「いやだってリザって実はレズだったんだろ?それに、リョナりたいってのとなんかいいなってのはやっぱ別じゃん?」

次々と迫る丸太から必死に瑠奈を守る唯。対してシアナとアイナは恋バナに花を咲かせる程の余裕があった。
このままでは、アルガスに着く前に、またもトーメント王国に囚われてしまうだろう。

282: 名無しさん :2017/04/18(火) 03:37:47 ID:???
「……きゃあああああっっ!!」
…何本の丸太が、その華奢な身体を打ち付けただろう。
幾たびも身体を弾き飛ばされ、落とし穴に落とされ…他にも電撃やトラバサミ、火炎放射に毒ガスなどなど。
唯はたっぷりと時間と手間暇をかけて、数々の罠で痛めつけられた。

「…あっ、痛ううっ…!…」
「や、あんっ…!!」
「んっ…あああぁぁぁっ!!!…」
それでも唯がまだ死なずにいられるのは…シアナとアトラがその豊富な「経験」ゆえ。
獲物を生かさず殺さず、長く楽しむ術を熟知しているからに他ならない。
「ふふふ…さすが唯ちゃんだよ。どんなに痛めつけても、嬲り続けても、ずっと新鮮な悲鳴を聞かせてくれる…」
「へへ…そうだな。普通の女の子ならとっくに気絶してるか、マグロになってる頃だぜ!」

「はぁっ…はぁっ……どうして……あなた達はどうして、こんな酷い事して…平気で、いられるの…!?」
「…くっくっくっ。そんな事もわからないなんて……唯ちゃんは本当に、バカで可愛いなあ。
そんなの、僕らが『強い』からに決まってるじゃないか。強い者が蹂躙し、すべてを奪う。
弱い者は殺され、虐げられ、何もかもを奪われる。それが当たり前の事だろう?」
「そうそう。異世界人って死にそうになると、大抵その質問してくるよなー。
唯ちゃんや瑠奈ちゃんみたいな可愛くて弱っちい子が、毎日何事もなく
ただ呑気に暮らしていける世界なんて…俺らにはそっちの方が想像つかないね」

「そ……そんな…そんなのって……」
…服も体も心もボロボロのまま、唯は立ち上がることが出来なかった。
意識が朦朧とし、今にも気を失ってしまいそうだ。しかし……
「さすがにもう、立ち上がれないか…でも、ノンビリ休んでていいのかな?あっちで気絶してるウシ女が…」
「ヒヒッ…そうだなぁ。瑠奈ちゃんのいる辺りの床から、トゲなんかが飛び出してきちゃったら大変だな?」
「!!……る…瑠奈っ…!!」
アトラとシアナの悪意の籠った言葉に、びくりと跳ね起きた。…起きないわけにはいかなかった。

「ふふふ……ボロゾウキンみたいに這いつくばってる姿もかわいいけど、今の表情も最高だなぁ……」
「ほらほら、さっさと走った走った!5,4,3,2……」
親友の瑠奈を守りたい一心で、唯は限界を超えた心身に鞭を打つ。
瑠奈の身体を抱え上げると、罠から逃れるためそのまま前方へと跳び……

(……ザシュッ!!)
「…んっ!!…ぐぁあああああぁぁっ!!!」
床から飛び出した無数の刃のうちの一本が、唯の左脚をざっくりと抉り裂く。
鮮血が飛び散り、唯は脚を抱えたままゴロゴロとのたうち回った。

283: 名無しさん :2017/04/18(火) 03:50:47 ID:???
「っ……、……ち、ちん……ぷい…ぷい…」
唯は脚の傷に手を当てて呪文を詠唱した。だが、癒しの光はほんの一瞬だけ淡くこぼれたきりで、すぐに霧散してしまう。
傷口はかなり深く、どくどくと流れる血はあっという間に唯の周囲の床に血だまりが広がっていった。

「…回復の魔力も無くなったみたいだな。そろそろ止めを刺して、城に『お持ち帰り』しようぜ!」
「そうだな…これで身の程を思い知っただろう?
さっきの身のこなし、打撃力、それに回復魔法…ルミナスにいる間に身に着けたんだろうけど、
所詮は王下十輝星の…生まれついての強者である、僕らの敵じゃない」
「そーいう事!唯ちゃんや瑠奈ちゃんがどんなに死ぬ気で修行したって、
所詮俺らの『能力』の前じゃハナクソ以下なんだよ。大人しく俺らにリョナられてアンアン鳴いてりゃいいんだ」

アトラは片手を上げ、止めの一撃…巨大な丸太の罠を唯に向けて放った。
今の唯に避ける術はない。奇跡的に回避できたとしても、
丸太はシアナの開ける次元の穴を通り、死角から何度でも唯に襲い掛かるだろう。

「……んっ…あれ……私、気絶して…ゆ、唯っ!?」
…その時、唯の足元に倒れていた瑠奈が目を覚ました。だが、巨大な丸太は既に目前。どうすることも出来ない。

「…………」
(あの子たちの、言う通り……私なりに一生懸命修行したけど、あんまり強くなれなかったな……)
ライカさんには怒られてばっかりで、基礎から厳しく鍛えられたけど…結局、技らしい技は教えてもらえなった。
「…お前は優しすぎる…いや、甘すぎるんだよ!戦場じゃ、敵は容赦なんかしてくれねえぞ!さっさと立て!!」

ココアさんから回復魔法を教わったが、ごくごく初歩のもの。あんまり才能はなかったみたい。
「上手な人なら『はっ!』って気合を入れるだけで魔法を使えたりするけど、
心を込めて呪文を唱えるのも、とっても大切な事なのよ…」

あとは、フウコちゃんやカリンちゃんから箒の乗り方を教わって…これだけは、そこそこ上手になった。
「箒に乗りこなすのに大切なのは、魔力や腕力で押さえつけるんじゃなくて、箒と『心を通わせる』事…」
……他にも、ヒカリちゃんや水鳥ちゃん、リムリットちゃんにウィチルさん…いろんな人が助けてくれた。
だから、私たちは、まだ…
………

「…あれ?……おい、アトラ…どうしたんだ?」
「いや…おかしいな。丸太が、急に止まって……」
…アトラの放った丸太は、唯のかざした手に触れた瞬間、ぴたりと止まっていた。
シアナとアトラは、何が起こったのかわからなかった。
瑠奈も目の前の光景にしばし呆然としていたが……考えられる答えは一つしかない。

「……この丸太…もしかして、唯が操っているの?…箒みたいに」
唯は無言でうなずくと、停止した丸太にまたがり、アトラとシアナに向かっていく。

「うっ……」「うわあああ!!!」
自分たちの攻撃が、自分たちに向かって、そのまま高速で飛んでくる。
遠距離から一方的に標的を嬲る戦い方に慣れ過ぎた二人は、全く反応できなかった。

「シアナくん、アトラくん…ごめんなさい。
でも私たちは…まだ、ここで倒れるわけにはいかないの…!」

287: 名無しさん :2017/04/21(金) 22:41:36 ID:???
「うわぁぁぁぁ!!」
……唯に操られた巨大丸太罠が、シアナとアトラを襲った。
(そんな……まさか、僕たちが……王下十輝星が、負ける…!?…)
自分の身長ほども太さのある丸太が迫り、巻き起こる風圧で前髪を煽るのを感じ、
シアナは小さく悲鳴を上げた。

強力な特殊能力は持っていても、二人の体力や防御力は普通の少年とほとんど変わらない。
エスカの予言で危険を回避し、強い敵には罠を仕掛け、次元の穴で攻撃をかわし。
そんな事をしている内に随分長い間忘れていた「痛み」の予感に恐怖し、思わずぎゅっと目を閉じるが……

(……あ、れ………?)
…数秒経っても、痛みも、衝撃も、やって来なかった。恐る恐る目を開くと、丸太は目の前でぴたりと静止していた。
その上にまたがった、傷だらけの少女…唯が、悲し気な瞳をこちらに向けている。

「…もう、止めにしましょう…これで、わかったでしょう?
自分が強い力を持っているからって、弱い人たちに暴力を振るって良い、なんて考えでいたら…
いつか、自分より強い力に倒されてしまう。相手が自分より強いか弱いか、そんな事でしか他人を見られなくなる。
…うまく言えないけど…そんなの、よくないよ」

「うっ…うる、せー!…お説教なんか聞きたくねーよ!……俺らの事も、この世界の事も、何も知らないくせに…!」
「そうだよ…良い奴は悪い奴に踏みにじられる。強い奴が弱い奴からすべてを奪う。可愛い女の子はリョナられる。
それがこの世界の掟。…この世界では、一番悪くて一番強い者が、一番偉いんだ…」

「…そうよ、唯。今の今まで、こいつらに散々な目に遭わされてたってのに…どこまでお人好しなのよ。
こんなゲスな奴らに、説得なんて通じるわけないじゃない!」

あの丸太がまともに当たっていれば、二人はただでは済まなかっただろう。
この期に及んでシアナ達に止めを刺そうとしない唯に、瑠奈は半ば呆れつつも…心のどこかで安堵していた。

だが、この後の唯の発言に………

「この世界で一番悪くて強い人って…あの王様の事よね?
それなら……約束して。もし私が王様を倒したら、シアナくんとアトラくんは、もう悪い事はしないって」

「え!?」
瑠奈は、耳を疑った。
「は!?」
シアナは、度肝を抜かれた。
「ちょww……って…マジで言ってる…?」
アトラは、開いた口がふさがらなかった。

288: 名無しさん :2017/04/22(土) 00:59:15 ID:???
「ゆ、唯………ちゃん……?」
「…い…いくらなんでも、それは……冗談だよな?」

…シアナとアトラは恐る恐る聞き返す…が、どうやら完全に本気で言っているらしい。

「ちょっと、唯!?…そりゃ、アルガスに行っても帰る方法が見つからなかったら、
最終的にはあのバカ王と戦う事になるかもしれないけど…」
瑠奈も驚きを隠せなかった。唯がここまで明確に、誰かを「倒す」と言い放ったのは初めてだったからだ。

「丸太で頭でも打ったのかよ!?…そんなのムリに決まってるだろ!
大体さっきも言ったけど、俺達べつに王様に嫌々従ってるわけじゃないからな!」
「…ああ。そんなの不可能に決まってるさ…もし王様と戦うなら、僕やアトラ…それに他の十輝星達が、
今度こそ唯ちゃん達を叩き潰す。二度と逆らう気にならない位、徹底的に」
シアナは淡々と言い放ち、その場を立ち去ろうとするが…唯はそれでも引き下がらなかった。

「…ムリだと思ってるなら、約束してくれてもいいよね?…二人とも、小指出して。『指切りげんまん、嘘ついたら…』」
「……そんなに言うなら…『嘘ついたら、針千本のーーます!』
唯ちゃんが僕らに負けた時は…荒縄と爪剥ぎにプラスして、本当に針千本飲んでもらうよ」
その言葉は照れ隠しなのか。それとも…声のトーンからして、本気なのか。

「うん、それでいいよ……『指きった!』」
「唯……どうして、そこまで…」
去っていくシアナ達を見送りながら、
唯は、これまでの冒険…いや、悪意や暴力、脅威からの逃避行の日々を思い出していた。
そしてあの王が生み出した、数々の狂気と悲劇も。

「なんか…昔こんな感じの話、国語で習ったね。かのジャチボーギャクの王を、なんとかかんとか…って」
「あったわねー…でもその話だと、私が捕まって人質にされる展開じゃない?」
…この世界で出会った数々の理不尽に、唯は『激怒』していたのだと、この時になって瑠奈はようやく気付いた。

「とりあえず、アルガスに行く前に……今夜はここで一泊しましょ。
山賊やあのガキどもに、服もボロボロにされたし…着替えがあればいいけど」
「そう、だね……じつは私も、そろそろ、げんか……」
言い終わらないうちに、唯はがくりと膝から崩れ落ち…そのまま、眠りに落ちた。


  • 最終更新:2018-01-21 23:25:46

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