14.12.任務終了

248: 名無しさん :2017/04/08(土) 00:22:04 ID:???
(…あれ……ここ、どこ……私、一体……)
(さあ、ゆっくり眼を開けて…あなたはこれから『精霊』に…この世界を見守る風になるの)
…気が付いたら、私はどこか見知らぬ場所にいた。暖かい光に包まれ、ふわふわと風の中に漂いながら。

(せい…れい……?……どうして、わたしが…)
(あなたは人の心と綺麗な魂を保ったまま、痛みを感じず、穏やかな気持ちの中で逝くことが出来た。
…きっと、あの十輝星の子のお陰ね…さすが、良い腕してるわ)
(……心と、たましい……じゅっき、せい……?………)
私に語り掛けるのは、夕陽の中に溶け込むような、オレンジ色の服を着た女性。年齢は29歳くらいだろうか。

私の身体は透き通っていて、羽のように軽くて…どこまでも自由に、空を飛ぶことが出来た。
でも…どこに行けばいいのかわからない。
(そうね。まずは…この森を抜けて、東へ…草原をまっすぐ、行ってみたらどう?)

………

…リザちゃんが王都に『邪術のライラ』討伐の一報を入れ…私たちの任務は終わりを告げた。
王都から迎えを寄越して貰うことも出来たが、リザちゃんはそれを断って…私達はわざとゆっくり、歩いて帰る。
「……風が、気持ちいいね」
…西から吹く風が、優しく頬を撫でていく。
『死んでも出られない』と恐れられていた邪術師の森も、今は夕陽を背に受けてキラキラと輝いて見えた。

249: 名無しさん :2017/04/08(土) 00:33:12 ID:???
「……やれやれ。どうやら、もう安全みたいだな」
ナイフで脳天を貫かれた……と見せかけ、『特殊能力』で身を隠している間に、
俺を蘇らせたあの邪術師の娘はどうやら始末されたらしい。
「おかげで俺様は、晴れて自由の身…ってわけだ」
現代の十輝星、スピカ…名前は忘れたが、この借りを返す機会も、遠からず巡ってくるだろう。
「…お。地図と食料ゲーット!……この近くにある大きな町は、と…」
とは言えせっかく蘇ったのだし、武者修行も兼ねて各地に足を運んでみるとしよう。
手始めに、森を出て南へ下った所にある『アルガス』という王国がよさそうだ…

………

…草原を抜けた私たちは、分かれ道に差し掛かった。片方の道はまっすぐ東へと伸び、
トーメントの王都『イータブリックス』へと至る。
そしてもう一方は、北へ……いくつかの街を抜けた先にあるのは…エミリアの故郷『ガラド』の街。
思えば私達は、この場所へたどり着くまでにあまりにも多くの回り道をしてきた…

「エミリア。…ここで、お別れしましょう」
「…リザちゃん。私、やっぱり……」
「…もう、それ以上は言わないで。あなたはガラドに戻って平和に…幸せになってくれれば、それでいいの」

どんなに足掻いて、もがいて、必死に戦っても…私の手をすり抜け、何もかもこぼれ落ちていった。
沢山の仲間が殺された。アイナが離れていった。そして…ドロシーを、この手に掛けた。
たまに噂に聞く「運命を変える力」というものが、きっと私には全くないのだろう。
私の近くにいれば、いつかエミリアも…きっと、取り返しのつかない事になってしまう。

「……リザちゃん」
立ち去ろうとする私を、突然エミリアは抱きしめて……私の首に何かを巻きつけた。
それは…教授から渡され、スイッチを切ったままにしていた、あのチョーカーだった。
「私は、リザちゃんの力になりたい。その苦しみと悲しみを…せめて、一緒に背負ってあげたい。
だから…お願い。私をこのまま、王都へ連れて帰って」

強く爽やかな西風が草原を駆け抜け、頬を伝う涙を拭い去っていった。

250: 名無しさん :2017/04/08(土) 02:17:01 ID:???
「…報告は、以上です」
「おう、ご苦労さん。これであの森がウチのシマになって…
アルガスへも直接侵攻できるようになったわけだ。これから忙しくなるぞ。ヒヒヒ…」

玉座の間…ルミナス女王のチビちゃんに破壊の限りを尽くされたが、
今はすっかり元通りに修復されている…で、俺はリザの報告を聞いていた。
その隣にいるのは、確か天才魔法使いのエミリアちゃんだったかな。
なんだか怖い顔でこっちを睨んでいるぞ。

「…話は、それで終わりですか…リザちゃんに…何か言う事が、あるんじゃないですか?」
「ちょっと…エミリア…!?」
「え?…何かあったっけ」
 思い浮かばない。

「王様、貴女は…リザちゃんに言ったそうですね。『王下十輝星として働けば、アウィナイトの民を保護する』って」
「言ったね」  正確には『考えてやる』だった気もするが。まあいいか。

「その一方で、邪術のライラと裏で通じていて…事前に情報を流したうえで、リザちゃんを差し出した」
「まあ、だいたいあってる」  なんか言い方に悪意を感じるけど。
「…エミリア!!」
「一体、どういう事ですか…リザちゃんを、ライラに殺させるつもりだったんですか!?」
「ああ…もしかしてアレか。『アウィナイト量産計画』とか、その辺の話をいろいろ聞いちゃった感じ?」
「…ふざけないで下さいっ!!リザちゃんは…あなたの部下なんでしょう!?返答次第では…許しません!!」
 せっかく修復したのに、また魔法で壊されちゃかなわんな。

「…俺のやってる事はそんなにわかりづらいか?
ライラは『リザを寄越せ』と俺に要求してきた。俺は『じゃあそっちに向かわせる。欲しけりゃ実力で奪え』と答えた。
リザは『アウィナイトを保護しろ』と要求してきた。それに対して俺は『じゃあその分働け』と答えた。」
「………。」
「俺としてはどっちでもよかったんだがな。ライラに殺られるようなら、十輝星を名乗る資格はない。
ライラだって色々と技術は提供してくれたが、あの森に居座られ続けると通行の邪魔だし…
『材料費』だってバカにならんからな。だって一年ごとに生贄寄越せとか言ってくるんだよ?お前はヤマタノオロチかって話だよ」
「で、でも!……だからって、何も知らせずに送り出すなんて…」

「結果として…リザが勝って、生き残った。それが全てだ。…この世界は、強い者、勝者こそが正義。敗れた者は全てを失う」
「…そういう事よ。私は、それで納得してるわ」

結局エミリアちゃんは納得しない様子だったが、リザに連れられて退出していった。
屁理屈で俺様に挑むなど十年早い。
ていうか…怒ってるエミリアちゃんはそそる。リョナりたい。
そうしみじみ思う王様でした。まる。

………

「ああ、リザさん!…無事で何よりでした。……ところで、私に相談って何ですか?」
親友のライライを殺した『奴』が、今私の目の前にいる。
もはや『クソリザ』という呼び方すら生温い…もはや同じ空気を吸う事すら我慢ならない。

「…というわけで…間者が潜り込んでいる可能性がある。それとなく調査したいから、サキにも協力して貰おうと思って」
「なるほど…私も教授の指示でアルガスに行かなければならないのであまり手伝えませんが、出来るだけやってみます…」

私の部屋に乗り込んできたときは一瞬焦ったが…どうやら、私の事に気付いたわけではないようだ。
『奴』は出されたお茶を疑いもせずに飲み、礼を言って出ていった。
毒でも盛っておけばそれで終わりだったが…『奴』をただ殺すだけではもはや足りない。
あらゆるものを奪い取り、絶望と屈辱に塗れた最悪の死をくれてやらなければ…

(覚えていなさい……絶対に、このままじゃ済まさない…!!)

251: 名無しさん :2017/04/08(土) 11:23:45 ID:???
「クソがぁああああああ!!!」
「きゃああああ!」
「ハン!クールキャラぶってる癖に、随分と可愛い悲鳴をあげるじゃない!ほらほら!もっと鞭で打ってあげるわ!」
王城の地下室。そこの空き部屋で、サキは柳原舞をひたすら甚振っていた。特に深い意味はない。ただのストレス発散である。
舞は特に拘束されているわけではないが、チョーカーによる支配のせいで抵抗もできずにされるがままとなっていた。

「ぐ……これが、あなたの本性ね……!」
「ククク……やっぱチョーカーは自我モードの方が張り合いがあるわね……洗脳とか忠臣モードだと、事務的な反応でつまんないのよね」
舞の首に巻かれているチョーカーは、エミリアが持っている量産型ではなく初期のテスト機なので、コスト度外視で様々な機能が着いている。自我は残るが命令には逆らえない自我モードと、自我もなくただただ命令を聞くだけの洗脳モード、深層心理にトーメント王国や使用者への忠誠を植え付ける忠臣モード、etc……サキはリアルな反応を楽しむために、自我モードで舞を甚振っていた。

「アンタが悪いのよ、黒づくめの上にクールキャラなんていう、アイツみたいなキャラしてるから!」
「あああ!」
「ライライ……!クソ……!失って初めて気づいたわ……こんなにも……こんなにも……!」
サキがイライラしている原因。それはもちろん、リザにライラを殺されたことにある。
工作員として色々な場所に潜入し、十輝星の仲間の前でも猫を被る……そんなサキにとって、自らの素をさらけ出せる同年代の少女であるライラは、本人が思っていた以上に大切な存在だったのだ。

(でも、迂闊な真似はできない……)
一応は同じ十輝星であるという立場。リザの実力。それらを鑑みると、今すぐに行動を起こすわけにもいかない。
リザはエミリアを操った犯人をどこかの間者だと勘違いしてくれたようだが、それはあくまで『十輝星が犯人』だというあまりにも迂闊なカミングアウト発言を疑ってかかっているからだ。
リザはクソだが馬鹿ではない。今リザ抹殺に動き出すと、エミリアを操ったりしたのが自分だということまでたどり着きかねない。

「さて、と……そろそろ、自慢の足の方も苛めてやるわ」
「ひっ!」
そんな鬱憤を、柳原舞にぶつける。大鍋でぐつぐつと沸騰させた熱湯を杓子で掬い、舞のストッキングに包まれたすらりとした長い足にかける。

「ああぁああああああ!!?」
「アハハハ!!随分熱そうね?その分じゃ跡が残るかもしれないけど、どうせいっつもストッキング付けてるからまぁ問題ないでしょ!」
「いやあぁあああああ!!」
「可哀想にねぇ!アンタは自慢のおみ足を傷物にされちゃうの!」
とてもいい気分で舞に熱湯をかけるサキだが、チマチマ杓子で掬うのが煩わしくなってきた。

「めんどくさいから、鍋を倒して中身をいっぺんにぶちまけてあげるわ……今度は足だけじゃすまないかもね?」
「そ、そんな、そん……」
「そぉれ!」
「い、いや!あ、あつい!熱い熱い熱いぃいい!!いやぁああああああああああ!!」
「アッハハハ!全身熱湯まみれ!水も滴るイイ女ってやつぅ?」
「あ、あつぁああああああああああ!」
「あースッキリした……今日はこの辺にしとこうかしらね、大分鬱憤も晴らせたし」
チョーカーを普段の忠誠モードに戻し、ついでにぐったりとしている舞の頭を掴み、邪術の力で記憶を消去する。

「あ、ぐぁああああ!」
「一応、念には念を入れてね……こないだみたいに調子乗って油断して足元掬われるなんて、二度とごめんだわ」
邪術によって頭の中をかき回されて気絶した舞をサディスティックな目で見下ろしてから、懐に忍ばせていた隠しカメラをチェックする。

「うん、ばっちり撮れてるわ」
自分が虐めているシーンを後から見返すのが好きなサキは、案の定今回の甚振りもカメラで撮っていたのだ。

「いつかリザを同じ目……いや、もっと酷い目に合わせてやるわ……そのためなら、教授の雑用だってなんだってしてやるわよ」
サキの瞳には、歪んではいるが確固とした強い意志が宿っていた―――

252: 名無しさん :2017/04/08(土) 22:21:28 ID:???
「リザちゃああああああああん!」
「あ、アイナ?」
とりあえずは任務も終わり、トーメント王国にあるドロシーの墓参りにでも行こうかと思っていたリザだが、急にアイナが抱きついてきた。
自分から離れていったはずの友のフレンドリーな態度に思わず困惑する。

「ど、どうしたの……?」
「まぁ話すと長くなるから要点だけ話しますけど、アイナの勘違いだったみたいですわー!酷いこと言っちゃってすみませんわー!ていうかシアナは知ってたならさっさと話すべきじゃありませんの!?なーにが様子を見ようと思ったですのよ!」
「ぜ、全然要点話してない……」
「まぁ言ってしまえば、リザちゃんがアイナを忘れてたのは、アイナの能力が進化したかららしいですわ」
「能力が進化?」
「アイナが『消えて』る間、どうやらみんなアイナのことを綺麗さっぱりまるっとするっと忘れちゃうみたいなんですわ!」
「……!なるほど、だからあの時、急にアイナのこと忘れてたんだ……」
「そういうことですわ!これでアイナは前にも増して最強ですわよ!シアナはなーにを心配していたのやら!」
「……」
(みんなの記憶から消える……でもそれって、もっと能力が強くなったら、最終的にみんなアイナのことを思い出せなくなるんじゃ……いや、まさかね……)

✱✱✱

「どうしたシアナ?お前が個人的に訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」
「王様……アイナの能力のことなんですけど……」
一方こちらは王の私室。シアナは、王様にアイナの能力について相談することにした。

「なるほど、最終的に記憶から永遠に消えるようになるんじゃないか……ということか」
「ええ、考えすぎとは思うのですが……」
「しかし、意外だな……お前がアイナの心配をするようになるとは、キヒヒ!」
「茶化さないでくださいよ……」
「クヒヒ!まぁ、これまで色々な異能力者を見てきた経験から言えば……お前の懸念しているようなことにはならないと思うぞ?」
「ほ、本当ですか?」
「絶対とは言えないが、そこまで影響力のある能力者は見たことがない……それに最悪の場合も、現在開発中のアレを使えば……」
「アレ?」
「ククク……ほら、能力バトルではなんだかんだで王道のアレだよ!右手に宿ってたり瞳に宿ってたりするアレ!」
「分かんないですよ……」
「アトラには通じたんだけどなぁ……ほら、これだよ」
そう言って、王はシアナに一枚の紙を渡す。

「こ、これは……!」
「そう……異能力無効化装置だ!」
「これがあれば、もしアイナの力が暴走しても……」
(相変わらず安直なネーミングだな……)
「キヒヒ!邪術のライラが居座っていた森は手に入れたからな……来たるアルガスとの戦に備えて開発していたが……思わぬ形で役に立つかもな」

  • 最終更新:2018-01-27 02:49:03

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