14.11.決着

236: 名無しさん :2017/04/03(月) 19:48:44 ID:???
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
拘束されていた部屋から服や装備を回収したリザは、一路森の奥へと走る。
(きっとドロシーが結界の核を破壊してくれたんだ……!お願い、無事でいて……!)
親友の無事を祈りながら洞窟の深部にたどり着いたリザが見たものは──
この世のものとは思えない怪物だった。

「こ……これは……!!!」
もはや、怪物という言葉しか形容することはできなかった。山のような黒い体。大きな腕に大きな双眸。腹にはたくさんの顔が浮かび上がり、その全てが呻き声を上げている。
その怪物の側に、小さな少女が倒れていた。
「……!ドロシー!!!」
「ククク……待っていたぞ。アフェナイトの娘よ……美しい金髪。蒼に輝く双眼……我が器に相応しい「容れ物」だ……!」
響いたのは涼やかで落ち着いたライラの声。だが、明らかに口調が少女のそれではなかった。
「な、何を言ってるの……?」
「フフフフ……どうせ貴様はここで死ぬのだ。ここまで来た褒美に教えてやろう──」

こうしてリザは邪術師ヴェロスの計画を全て聞かされた。今目の前にいるヴェロスがライラの父親アスリエルを殺し、天才的な頭脳を持つライラの体を乗っ取り自身の邪術の計画を進めていたこと。
対外的にはライラの父親が邪術師だったことになっているが、それはトーメント王国の流したフェイク情報。実際には反政府組織に属していたアスリエルをヴェロスに殺させ、天才少女ライラの頭脳を邪術の研究に活かそうというトーメント王国の策略が背景にあったのだ。
そしてライラの体が崩壊しようとしている今、ヴェロスは新しい器としてリザの体を乗っ取ろうとしている──!

「理解したか?アウィナイトの娘よ。ライラがこうなったのは貴様らの望んだこと。そして王が貴様をここに寄越したのも、貴様を私の器にさせ、「アウィナイト量産計画」のサンプルにするためなのだ……!」
通常のアウィナイトは体が弱く人体実験に耐えられる体ではないが、リザのような強靭な体を持つアウィナイトであればヴェロスの研究材料にすることができる。
王は今でこそアウィナイトの保護条約を取ってはいるが、この計画で首尾よくリザを始末し、稀少なアウィナイトを量産しようとしているのだった。

「どうだ、絶望したか?アウィナイトの娘よ……貴様の望むアウィナイトの再興など、トーメント王は全く考えていないということだ……クククク……フハハハハハハハハハハハッ!」
「絶望……?どうして私が絶望する必要があるの?」
「……なに?」
問題なさげにさらりと言い放つリザに、ヴェロスは二の句を促した。
「どんな計画が裏で動いていようと、今王様は完全でないとはいえアウィナイトの保護をある程度やってくれている……そしてその……アウィナイト量産計画とやらも、ここで私があなたに負けてから動き出す話でしょう……?」
「……貴様、何が言いたいッ!?」
「ライラの件といいトーメント王国のやり方はつくづく気にいらないけど……私のやることはひとつ、アウィナイトの再興だけ。だから……ここで貴方を倒して今度こそ王様に私の力をちゃんと認めてもらう。そしてこんな計画で私を排除しようとしたことを、心の底から後悔してもらう……!」
「貴様……王に裏切られてまでトーメントの権力にしがみつくか!!そこまでしてやりたいことはなんなのだっ!本当にアウィナイトの再興だけなのかッ!?」
「……その質問に、答える必要はない。」
ゆっくりとナイフを構えるリザ。その表情はヴェロスの話を聞く前と、なんら変わっていなかった。

(助けてくれたドロシーのためにも……どんな障害が待ち受けていようと、アウィナイトのみんなを助けることを、わたしは絶対に諦めないッ!)

237: 名無しさん :2017/04/03(月) 22:22:05 ID:???
「ふん!まぁよい!貴様の絶望に歪む顔は、これから痛めつけながらじっくり眺めるとしよう!」
怪物と化したヴェロスはその巨体を活かしてリザに突進する。
「……ガ!?」
しかし、刹那の交差の後、血を噴き出していたのはヴェロスの方だった。

「……的が大きくなっただけ?」
突進を躱しざまにナイフで身体を抉る。暗殺者故のその早業に、ヴェロスは全く反応できなかった。
最近やたらピンチが多かったから忘れられがちかもしれないが、王下十輝星というのは本来規格外だ。ライラの身体に魔物を吸収させたヴェロスは確かに強い。だが、それだけだ。正面から戦って王下十輝星に適う程ではなかった。

「……邪術のライラは、自分が直接戦闘ではそこまで強くないことが分かっていた。だからこそ策を弄してきたし、私たちはその策に苦戦してきた。でも、貴方はその醜悪な姿になって正面から馬鹿みたいに迫ってくるだけ………研究者が聞いて呆れる。ライラの方がずっと手強かったしずっと賢かった」
リザらしからぬ長々とした喋りだが、それほどヴェロスに怒りを燃やしている証拠である。
何の罪もない研究者を殺し、その娘のライラの身体を乗っ取り、そしてドロシーを殺した。リザの心には静かな怒りの炎が渦巻いていた。

「ク……ハハハハハハ!言ってくれるな小娘が!だが、貴様はこの私には勝てん!」
「……おかしくなったの?」
「理解できぬか愚者めが!ならば言ってやろう、貴様のその暗殺術では魔たるこの身を滅することはできん!」
「……!」
かつて漆黒の魔女に言われたように、リザの技は人は殺せても魔を滅ぼすことは難しい。その証拠に、血が噴き出していたはずのヴェロスの腕はいつの間にか完治していた。

「私の目的は貴様の身体だ!壊さぬように、こうして決め手に欠けさせた上で少しずつ追い詰めていく!
これが研究者の戦い方よ!フハハハハハ!」

リザのナイフは的確に急所を穿つのには適しているが、単純なパワーという面ではそこまでではない。
エミリアや魔法少女がいれば超威力の魔法による力押しで楽に勝てたかもしれない。しかし、前者は直前まで操られていた上気絶しており、後者は魔力切れだ。

リザの脳裏にジリ貧、という言葉が浮かび、冷や汗が流れた。

238: 名無しさん :2017/04/04(火) 19:02:57 ID:???
「エミリアさんっ!エミリアさぁんっ!起きてくださいっ!」
「ん……?あれ、水鳥ちゃん……?」」
「あ、やっと気がついた!」
リザが親切なヴェロスの話を聞いている頃、エミリアは水鳥の介抱によって意識を取り戻していた。

「エミリアさん……今はちゃんと意識がありますか?」
「あ、あるよ。でも……暗い森でリザちゃんが倒れたところから今まで、記憶がないの。どうしてかな……」
「……おそらく、邪術師に操られていたんだと思います。さっきスピカさんがあなたに、正体を尋問していましたから。」
「そ、そんな……!今リザちゃんは!?」
「森の奥地で結界の核を破壊した女の子がいたので、その話をしたらすぐに走って行っちゃいました。エミリアさん、一緒に後を追いましょう!」
「う、うん。でも私、もう魔力がないみたい……」
「それは私も同じです。でも、スピカさん1人に押し付けるわけにも行きません。道中回復した魔力で、スピカさんのサポートだけでもしましょう!」



「どうした、逃げているばかりで攻撃はしないのか?アウィナイトの娘よ……」
「くっ……!」
決め手に欠ける……ヴェロスの言葉通り、リザが何度切ってもヴェロスの体は復活してしまい、全くと言っていいほどダメージを与えられなかった。
「諦めて私に身体を差し出すが良い。それとも、先ほどのように快楽責めをしてやろうか?先ほどの貴様の官能的な姿と嬌声には、凄まじく興奮を覚えたぞ。男根があれば見せてやりたかったわ。クククク……!」
「チッ……!」
リザは聞こえるように大きく舌打ちをしたが、ヴェロスはさらに続ける。
「正直、ライラの体にももう飽きたところだ。新たに貴様の体で性の乾きを満たすことができること……今から楽しみで楽しみで仕方ない。クククク……!」
「……この異常者が……!」
不快感を露わにするリザ。それは怒りからくるものもあるが、自分の痴態を目の前の怪物男に見られていたというやり場のない羞恥によるものでもあった。

「実験用にちょうど貴様くらいの歳のアウィナイトの娘を捕まえたことがあってな……その時は楽しかったぞ。クククク……研究者仲間全員の精根尽きるほど犯し尽くしてやったわ。」
「……やめて……」
「やめてください、助けてください、と何度も何度も懇願していたな。ま、途中から叫ぶことも諦めて絶望していたが。」
「やめろっ……!」
「今になって思えば、全員で口の中に精液を出しすぎたせいで、喉に詰まって喋れなくなったのかもな。ハハハハハハハハッ!」
「このッ……!」
一瞬、足がヴェロスに向けて走り出しそうになったが、リザはしっかりと踏みとどまった。
「どうした?怒ったか弱小民族?ならば逃げずに私に向かってくるがいい!」
「私は……私は怒りに身を任せたりしない。状況が良くなるまで……こうして防御に徹するわ。」
(ほう……この娘、本当に大したものだ。)

(私1人で倒せる相手じゃない……エミリア、魔法少女……!早く来てっ……!)

239: 名無しさん :2017/04/05(水) 02:35:11 ID:???
「ぜえっ…はぁっ…」(…こ、ここは耐えて…必ず手は、あるはず…)
丸太の様な巨大な腕の一撃をかわし、豪雨の様に降り注ぐ闇魔法をことごとく掻い潜る。

だがこれまでの連戦でリザの魔力は底をつき、もうテレポートは…そして必殺の連斬断空刃も、使えない。
そして、今はまだヴェロスをスピードで圧倒してはいるが…そのスピードを維持するだけの体力も、限界を迎えようとしていた。

「クックック…状況が良くなるまで、とは…笑わせてくれる。一体いつ良くなるというのだ?
大方、あの魔法使いの小娘共の手助けを期待しているのだろうが…この私が易々とそれを許すとでも?」

リザの黒い戦闘服には怪物のどす黒い返り血がべっとりとこびりつき、強烈な不快感と共に動きを阻害する。
そして…邪術師にとって、血は最も基本的な媒体の一つでもある。既にリザは、術中に嵌っていたのだ。

「ふふふ……やっとツかまえた。ワタシのモノにシてあげる。リザちゃん…」
リザの服に付いた血が独りでに動きだし、服の内側をぬちゃぬちゃ這い回りながら集まって…人間の上半身へと姿を変えた。
「ん、くっ……あ、貴女は……ライラっ…!?」
粘液状の身体はナイフで斬ることも出来ず、引き剥がそうにも膠の様に張り付いて離れない。
毒の霧を思わせる緑色の吐息を至近距離から吹きつけられ、リザは思わず意識を手放しそうになってしまい…

◆◆◆◆◆

「…くくく。アウィナイト……いや、かわいい『私の娘』よ。続きは我が結界の中で、たっぷりと可愛がってやろう…」
足元に真っ黒い影が広がり、そこから無数の…ライラの腕が、一斉にリザに向かって伸びてくる。
ノワールの結界に捕らえられた時の恐怖が一瞬脳裏をよぎった。あの結界に囚われたら…今度こそ終わりだ。

「はっ…放…せっ…」
だが、リザの足元は既に結界に呑まれ、ずぶずぶと沈み始めていた。
ライラの群れを振りほどき、闇から逃れようと、リザは必死にもがき続ける。
「負け、られない……こんな所で…私…は……!…」

240: 名無しさん :2017/04/05(水) 14:54:00 ID:???
「ククク……さっきまでの威勢はどうした?クールな貴様が無様にもがいてジタバタと……いい姿になったものだな。クククク……!」
「くそっ……!ぐっ、ああぁっ!?」
闇の中から何者かがリザの足を捕み、結界の中へと引きずり込もうとする。
「ぐうっ!」
リザは地面に手をつき、なんとか踏みとどまった。が、状況に変わりはない。
「もう下半身は結界の中か……なら、少しイタズラをしてやるとするか。」
「な、何を……!?やあぁんっ!」
足にまとわりついた『何か』に、生暖かい液体をかけられたような感触をリザは感じた。
「クククク……さっさと落ちるがいい。このまま這い蹲って無駄な足掻きを続けるならば……こうだッ!!」
「あっ、ひぅんっ……!」
何かが股間にあてがわれ、リザは小さな悲鳴をあげた。
(まさか……これもっ……!)
「気づいたか?そう、貴様の足に大量に付けたのは媚薬……性感帯の感度を高める液体だ……」
「やっ!あっ、あっ!やめっ……あぁんっ!」
リザの甘ったるい嬌声が洞窟に響く。液体で感度を高められている状態で触手に股間を擦られては、無理もないことだった。
またあの逃れようもない感覚に犯される……そう思ったリザは、なんとか結界の穴から這い出ようと腕に力を入れた。
「ふっ……!くううぅ……!」
ここで捕まるわけにはいかない……そう思って精一杯力を入れるも、がっちりと下半身を固定されている状態では焼け石に水である。
すぐに脱出はできないと悟り、リザはここにきてようやく焦りの表情を浮かべた。
「ううっ……離してっ……!このままじゃ……!」
「そう、このままでは貴様の体は私のものだ……さて、このまま快楽に負けて結界に堕ちるか、想像を絶する苦痛によって落ちるか……我が娘よ。選ぶがいい!」
快楽責めか、拷問か。
リザにとってはどちらにしても絶望的な選択だった。

241: 名無しさん :2017/04/05(水) 19:11:12 ID:???
「ふぐ……あ……あっあん!」
結界から逃れようと必死に踏ん張るリザだが、拘束は固く徐々に身体が結界の中に沈み込み、触手に擦られる部分もそれに伴って増えていく。快楽が強くなったことで力が入らなくなり、力が入らないことでまた身体が結界に沈み更なる快楽責めが襲う……完全に悪循環であった。

「ククク……!どうやらそろそろ限界らしいな?」
「私は……こんな所で……!」
「快楽か苦痛か!選べないというなら私が決めてやろうか?フーッハッハッハ!!」
「負けられないんだ……!」
リザの瞳から闘志は消えていないが、彼女だけの力ではこの状況をどうにもできないのも事実。頼みの綱は援軍だが、洞窟の奥部に新しい人影が映る事はない。


「ジェイドストーム!」


だが、その場に『元からいた』人物を、ヴェロスは忘れていた。
突如洞窟内に竜巻が巻き起こり、結界に捕らわれかけたリザを風の力で持ち上げる。

「な、なに!?」
その風はリザを地面に引きずり込もうとする結界から掬い上げることで救い上げ、リザを優しく地面へと落とす。
「何故だ!なぜその身体でこれほどの魔法を!?」
「……ハ!王下十輝星を……舐めんじゃないわよ!」

そこには心臓を強く押さえ、息も絶え絶えといった状態ながら……しっかりと自分の足で立つドロシーがいた。

「ドロシー……小さいけど、やっぱりドロシーなの?」
「リザ!詳しい話は後!今はコイツをぶっ倒すわよ!ちょっと体調が芳しくないから、援護くらいしかできないけど!」

ライラに再び陵辱され気を失ったドロシーだが、近くで響く戦闘音やリザの嬌声で目を覚ましたのである。
闇の結界に引きずり込まれかけているリザを見て、ドロシーは一も二もなく援護したのだ。

(お願い……もう少しだけ……もう少しだけもって私の身体!)
汚染された心臓から穢れた血を全身に送り込まれ、ドロシーは魂縛領域の核である肉塊へと少しずつ変異している。完全に変異してしまったら、もうリザを援護することはできないだろう。

「また一緒に戦えるなんて最高よリザ!」
「ドロシー……!」
だが今は、再び親友と共に戦えることを素直に喜ぼう。例えこの身体が核へと変異した後、親友自身の手で殺されることになろうとも。

242: 名無しさん :2017/04/05(水) 23:15:03 ID:???
「フン!小娘が2人揃ったところで何ができる!我が邪術の力で2人まとめてねじ伏せてくれるわッ!」
ヴェロスが邪術の詠唱を始め、洞窟がガタガタと揺れ始める。
「リザ、私の魔力をあなたの武器に入れるから、そのまま突っ込んで!私が援護する!」
「……了解!」
ドロシーの風の力を注がれたリザのナイフ。その刃先は小さな台風のようになっており、いくらヴェロスの体でも斬られればひとたまりもないだろう。
詠唱をしている隙だらけのヴェロスに向かって、リザは体の疼きを我慢しつつも全速力で駆け出した!

「シャドウレインッ!!!」
走り出したリザの眼前に、多数の闇の炎が降り注ぐ。それらはすべてリザをホーミングするように接近してきていた。
「なんて数……!」
「これは避けられまい!闇の炎に抱かれて苦しみに喘ぐがいいっ!」
ヴェロスの言う通り、テレポートもできない状態で全てを交わすことは困難に思われた……が。
「させないわっ!」
「なに!?風で移動しただとっ!?」
後方のドロシーがリザの体を風でうまく移動させ、ヴェロスの闇魔法をすべて回避させることに成功したのだ!
「リザッ!そのままどかーんとやっちゃいなさいっ!!」
(流石ドロシー……!これならいけるっ!)
一気に距離を詰めたリザは大きく跳躍し、ヴェロスの眼前に躍り出た!

「これで決めっ……なっ!?」
眼前でナイフを翻した直後、リザが見たものは、大きく口を開けてこちらに迫るヴェロスの姿だった。
その口の中には闇の結界の入り口が開かれており、今まさにリザを取り込んで結界の中へと閉じ込めようとしている。
「残念だがここまでだ、我が娘よ。正面から向かってきて私に勝てると思ったのが、貴様らの運の尽きだ……!」
(そ……そんなっ……!)
「リザアアアアアアアアアッ!!」
リザを食べさせまいと必死に風を操るドロシーだが、どう見ても間に合う余裕はない。
眼前で閉じ始めた大きなヴェロスの口を見て、リザはぎゅっと目を閉じた。



「バーンストライクッ!!!」
「ウォーターインパクトッ!!!」

243: 名無しさん :2017/04/05(水) 23:37:07 ID:???
ドカーーーーーーーン!!!
「ヌオオオオオオオオッッ!?」
突如現れた巨大な炎弾と大量の水流が、ヴェロスの腹にクリーンヒットし、大きな体が均衡を失ってぐらりと揺れる。
リザが洞窟の入り口に目をやると、そこにいたのは残った魔力をすべて放ったエミリアと水鳥だった。
「リザちゃんっ!助けに来たよっ!!」
「スピカさんッ!そのままトドメをっ!」
「2人とも……ありがとうっ!」

「ぐぬぬぬ……なにが起こったのだ……ん?」
体制を崩したヴェロスの目の前に落下して来たのは、大きな風のナイフを構えたリザの姿。
「こ……これは……!」
風になびく黒服と美しい金髪。そして、目に写すもの全てを吸い込んでしまいそうな鮮やかな青い目に、この状況にもかかわらずヴェロスは心を奪われてしまった。
その刹那、少女はナイフを翻す。
「リザちゃーーんっ!がんばれええええええっ!!」
「お願いしますっ!!スピカさーーーーんッ!!」
「いっけええええええ!!リザアアアアアアアアッ!!!」
皆の声援を受けたリザは、その思いをすべて受け取ったかのように目を見開いた。
「よ、よせっ……!やめろっ!やめろおおおおおっ!!!」


「奥義……断空旋ッ!!!」

244: 名無しさん :2017/04/05(水) 23:56:36 ID:dauGKRa6
「ンガアアアアアアアアッ!!!」
風の力を纏った強烈な斬撃により、ヴェロスの首はゴロリと胴体から分離した。
「はぁ……はぁ……やった……!」
「リザちゃんすごーーーいっ!かっこよかったーーー!!」
「はぁ……流石トーメント王下十輝星ですね。天晴れでした。」
リザの元へ駆け寄るエミリアと水鳥。エミリアはリザの胸に飛びつき、水鳥はヴェロスの首へと近づいた。
「リザちゃん、怪我はないっ!?大丈夫!?」
「……大丈夫。エミリアこそ、体に異常はない?」
「あ……私操られてたから、きっとリザちゃんにひどいことしちゃったんだよね……ごめんね、リザちゃん……」
「……謝らなくていいよ。こうして諸悪の根源を倒すことができたんだから。……これでガラドに帰れるね。エミリア。」
「リザちゃん……うぅ……」
離れることが惜しいのか、エミリアはリザの胸の中で泣きじゃくり始めた。
そんなエミリアを優しく抱きながらリザがヴェロスに目をやると、水鳥がアワアワと慌てていた。
「リ……リザさん!こいつ、復活しようとしていますッ!」

「復活……?そんなことできるの?」
「はい……禍々しい魔力が首と頭を繋ごうとしていて……このままだと、すぐに復活してもおかしくありませんッ!」

「それは……私がいるからよっ……」

3人が振り返った先にいたのは……小さな少女のようなモノ。
腕と足が肉塊のようにぶよついて、胴体も壊死が進んでいる。
かろうじて人と判断できるのは、クリーム色の髪と緑色の目をした少女らしい顔だった。

245: 名無しさん :2017/04/06(木) 01:10:57 ID:???
「だ、誰!?」
「その髪……その目……まさか、あの時助けてくれた……!」
「ド……ドロシー!?一体どうしたの!?エミリア!魔法少女!すぐに回復魔法を……」
「む、無理よ……邪術で作り変えられた身体は、回復魔法じゃ戻らないわ……」
「そんな……一体どういうこと!?」
「そうね……全部話すわ。だから、落ち着いて聞いてくれる?」

自分は厳密に言えばドロシーではなく、ドロシーが邪術師に囚われた際に切り離された子宮を触媒に生み出されたクローンであること。リザのポケットから落ちたリボンを見たことで元の記憶を取り戻したこと。
死すら許されずに命を永遠に弄び続ける『魂縛領域』の核を破壊した際、武器で核に触れたせいで身体を汚染され、自分自身が核へと変異していったこと。
変異していく身体に苦しんでいたところを再び邪術師に陵辱され、先ほどリザを援護する瞬間まで意識を失っていたこと。
ドロシーの口から語られた出来事は、あまりにも壮絶であった。

「この森から出るには、魂縛領域を破壊しなくちゃいけない……つまり、私が生きている限り、リザたちはこの森から出られないの」
「そんな……酷い……!」
「う、噓よ……なんで、なんでドロシーばかりそんな目に……!」
「あ、ああ、わ、私のせいだ……!私があの時、結界の核に触れようとしたから……!」
「アンタがあの結界に触れようとしなくても、私は結界を壊そうとしたわ……誰のせいでもない、強いて言えば、あの時魔法だけで核を破壊できなかった私の不手際よ」
「でも……!」
「わ、私が操られたりなんかしないで、すぐに邪術師を倒してたら……こんなことには……こんなことには……!」
「あーもう鬱陶しいわね、責任の押し付け合いならぬ責任の利権争い?」
「「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」」
「あ、謝らなくていいわよ……」

こうして喋っている間にも身体の変異は進行し、ドロシーは徐々に単なる大きな醜い肉塊へとなっていく。

「……リザ。お願いがあるの。どうせ死ぬなら、私はリザの手で……」
「嫌……嫌よ!!一年前のあの日も……ロボットと戦った時も……私は胸が張り裂けそうだった!友達に死んでほしくなかった!
なのになんで……なんで貴女と三度もお別れしなきゃいけないのよ!」
「……リザ」
普段の様子からは想像もできない程、感情を剝き出しにして叫ぶリザ。そんな彼女を抱きしめようと近寄るドロシーだが……今の自分の醜い姿を思い出して躊躇する。
しかし、そんなことは知らぬとばかりに、リザは腕を広げたまま躊躇っているドロシーの身体に飛びつく。

「きゃ!り、リザ……」
「ごめんね、一番辛いのはドロシーなのに……私がみっともなく騒いじゃったりして」
「……ううん、嬉しいよ……一年も前に死んだ私のことを、そこまで想ってくれて」
「そんな悲しいこと言わないで……!」
「……うん、ごめん」
金髪碧眼の美少女と肉塊になりかけの少女だったモノの抱擁は、どこかインモラルな魅力があった。

「ドロシー、これ」
「それは……」
リザが取り出したのは、ライラの館で落としてドロシーが記憶を取り戻すきっかけになった、赤いリボンであった。
「館から脱出する時に咄嗟に拾ったの。ねぇ、最期にもう一度、これを付けた貴女を見せて」
「リザ……でも、今の私は……」
躊躇しているドロシーに対し、腕を伸ばして強引にまだ辛うじて人間らしさを残している頭にリボンを結びつける。

「……ほら、やっぱり可愛い」
「リザ……ありがとう」

「さよなら」
「元気でね」

その日、リザは生まれて初めて……自分の手で友達を殺した。

246: 名無しさん :2017/04/06(木) 23:16:17 ID:???
ヴェロスを倒し、ドロシーに別れを告げた3人は、足取りを重くしながらも夜明けを迎えた薄暗い森の中を歩いていた。
「リザちゃんの友達のあの子も、王下十輝星だったんだね……わたし、トーメント王国のこと誤解してたよ。」
「……どういうこと?」
「んーっとね……えっと……」
「私が代弁しましょう。トーメント王国は著しく民度の低い大国であり、王下十輝星などは暴力に飢えた野蛮なチンピラの集まりである認識であったと。」
「あ……あはは……水鳥ちゃん、はっきり言うなあ……」
淡々と告げる水鳥。気弱だった彼女も、今はカナンの言葉によってしっかりと自分の意見を言えるようになっていた。
「……でも反論できない。実際トーメント王国には、気性が荒くて下劣な人間が沢山いるから。」
「だからこそ、スピカさんや先ほどのドロシーさんのように、トーメント王国に純粋で優しい方がいることを驚いているんです……私も。」
ルミナスでのトーメント王国への認識は、常日頃の悪行からいっそのこと滅びてもいい悪しき巨大国家という認識であり、異世界人の水鳥もそう思っていたのだ。
友のために滂沱の涙を流した、リザの姿を見るまでは。

「水鳥ちゃん、この子……目が覚めないけど大丈夫かなぁ?」
「真凛さんの体にはしっかりと魔力の流れを感じます。きっとルミナスに戻るまでには、目を覚ますでしょう。」
リストリクションで拘束していた真凛はまだ意識が戻らないため、水鳥の箒に乗せられて運ぶことになった。
「……スピカさん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「……答えられることならね。」
「お姉ちゃんは……市松鏡花は無事なんですか?今生きているんですか?」
はっきりとした口調でリザを見据える水鳥。返答次第では、今にも襲いかかってくるような殺気をリザは感じた。

「……それは答えられないわ。でも……魔法少女が諦めなければ、再会できることもあるんじゃない?」
「リ、リザちゃん。そんな曖昧な言い方しないで、教えてあげなよっ!」
「……いいんです。エミリアさん。お姉ちゃんは生きている。今のスピカさんの言い方で、私はそう受け取りましたから……」
立場上、はっきりということはできなかったが、水鳥にはリザの感情がしっかりと伝わったようだった。
「あれ……リザちゃん、今笑った?」
「……笑ってないよ。」

247: 名無しさん :2017/04/06(木) 23:48:53 ID:???
その後、気まずい雰囲気になったところをエミリアが他愛もない話題で沈黙を防いでいると、朝日が出たタイミングで3人は森の外に出た。
「さて、私はここまでです。次会ったときはまた敵同士。もしお姉ちゃんにひどいことをしたら、たとえスピカさんでも許しません……!」
「こっちこそ……魔法少女も他の十輝星にやられないように頑張ってね。」
「うぅう……さっきまで好きなお菓子や犬派か猫派で盛り上がってたのに、2人はまたそんな話ししてえ……」
「仕方ないでしょ……敵同士なんだから。」
「そもそも、スピカさん、とか、魔法少女、とか、名前ですら呼び合ってないし……」
「し、仕方ないですよ……本来は敵同士なんですから……」

その後、改めて別れを告げ、水鳥は真凛を箒に乗せて朝日の方へと飛び立っていった。
「水鳥ちゃん、あんなにちっちゃいのに私よりしっかりしてたね。すごいなあ……」
「確かに……でもエミリアにはエミリアの魅力があると、私は思うよ。」
「リ、リ、リリリザちゃん……真顔でそういうこと言われると、照れちゃうよぉ……もう///」
「……そ、そう……」
耳まで赤くなってフリフリと顔を振るエミリアに、リザは少し困惑してしまった。
「……あ!そういえば気になってたんだけど、館のそばを通った時、リザちゃん館に何かをしに行ったよね?」
「あ、あぁ……ちょっと館に予備ナイフの忘れ物をしただけだよ。早くガラドに行こう、エミリア……」



今はもう誰もいなくなった邪術師の館の前には、大きな木の柱が建てられている。
その柱には短い文章がナイフで刻まれていた。



「ライラとその父アスリエル ここに眠る」

  • 最終更新:2018-03-03 14:29:26

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード