14.08.クローン

220: 名無しさん :2017/03/29(水) 00:36:16 ID:???
水鳥がカナンを倒した頃、ライラの館の廊下ではクローンのドロシーが頭を抱えていた。
(なんだろう……あのリボンを見た瞬間、頭の中で何かがはじけて……なにか思い出せそうなのに、思い出せない……!)
リザの懐からこぼれ落ちた赤いリボン。なんの変哲も無いものだったが、視界に入った瞬間からずっとドロシーの胸の中はザワザワしている。

(思い出せ……思い出せ私……!あのリボンは誰のもので、誰からもらって、どうして今ここにあるのかを……!)
失われつつあった脳の片隅のわずかな記憶を、ドロシーは無理やりこじ開けた。



「リザ、アイナ、ドロシー……君たちの功績を称え、本日付けで3人全員、トーメント王下十輝星に迎えることにした。これからよろしく頼むぞ……!」
「さ、3人全員……!?」
「やりましたわー!3人揃って呼び出されたからこれはもしやもしかしてと思いましたが、めでたく3人とも栄転成功ですわー!」
「まことにありがたきお言葉……!王様!私はトーメント王国の繁栄のために、この身全てを捧げる覚悟で臨ませて頂きます!」
「あー固い固いぞドロシー。確かに任務は困難になるが、十輝星は色々とVIP待遇盛りだくさんだ。今日くらいは3人で喜びを分かち合っておけ……ヒヒヒヒ!」

「やりましたわねリザちゃん!ドロシー!これからはトーメント王国中のお菓子がお取り寄せで食べ放題ですわ!アイナ幸せすぎておかしくなっちゃいそう!心臓が破裂しそう!」
「アイナ!王様はああ言ってくれたけど、今日からは王下十輝星としての立ち振る舞いを心がけなければダメよ!王様直属の精鋭部隊なんだから……フフフッ、王様直属の精鋭部隊……!グフフフッ」
「か、肩書きに酔いしれてるドロシーはキモいですわ……リ、リザちゃんも良かったですわよねー?念願の王下十輝星になれて!」
「……うん。これでアウィナイトのみんなにいい報告ができる。これから頑張らなきゃ……!」



(うう……この記憶は、誰の記憶……?もしかして、私の記憶……?)
ドロシーの頭の中に走馬灯のように浮かび上がった光景。そのすべての意味を理解することはできないものの、やはり自分の記憶の中には先ほどのアウィナイトの少女が存在していた。
(もっとだ……もっと……記憶を掘り起こさないと……!なぜか……思い出さきゃいけない気がする……!)



「なによーリザ?こんな海辺の砂浜に呼びだして。リザが海を何時間も眺めてるのが好きなのは知ってるけど、流石に私はそんなのんびりした趣味に付き合えないわよ?」
「……1人で眺めるのが好きだから、その心配はしなくていいよ。今日は……これを渡したくて。」
「なにこれ……わ、可愛いリボン。……あ。まさか……」
「……今日、ドロシー誕生日だよね。だから……お誕生日おめでとう。ドロシー」
「も、もう……!別にプレゼントなんていらないのに。それにこのリボン、私には可愛すぎるでしょ……」
「……そんなことないと思う。付けてあげるから、後ろ向いて。」

「ほら……やっぱり可愛い。」
「うぅん……リザにそう言われると嫌味に聞こえるのがなぁ。ていうか鏡ないから自分じゃわかんないし。」
「……………………」
「じ、冗談よ!そんな悲しい顔しないで!すっごく嬉しいから!」
「……ごめんね。ドロシーの欲しいものがよく分からなくて……で、でも本当に似合ってるから。私が保証するから!」
「わ、わかったわかったわよ……!もう、珍しく大きな声出しちゃって……本当にありがとう、リザ……」



(そ、そうだ……あのリボンは親友がくれたリボンで……!私はいつも肌身離さず持ってた。それがあの人のポケットから出てきたってことは……わたしは……!)
掘り出したバラバラの記憶から持ち前の勘の良さで、ドロシーはほぼ全てを理解した。
自分の今の状況……それは自ら望んだものではないと。

「あの人を……親友を……リザを、わたしが助けなきゃ……!」

221: 名無しさん :2017/03/29(水) 01:48:52 ID:???
「みんなの幸せを…笑顔を守る……私に、出来るかな…」
カナンの身体は洞窟の土と同化し、完全に消え去ってしまった。水鳥もまた魔力を使い果たし、その場にへたり込む。
カナンとの激闘を経て一回りおっきくなったかに見えた水鳥だが…
(…あ…今、魔力ゼロだし、…真っ暗はさすがにマズい…!…だ、誰か助けてぇぇ…!)
……早速弱音を吐いていた。
だが無理もない。魔力切れで変身も解除され、周囲は真っ暗闇。
ここへはカナンに無理やり連れてこられたから、現在地すらわからない。
しかも…忘れてはならない。ここは魔物が潜む、邪術師の本拠地真っただ中である。

(ど、どうしよう…このままじゃ、あの二人と合流するどころか一生地上に出られないかも…)
慌てて周囲を見回すと…先ほどまでカナンがいた場所の地面で、微かなオレンジ色の光が煌いているのが見えた。
「これは……カナンさんが付けてた、ペンダント……?」
目の前を微かに照らすのがやっとの小さな光ではあるが、それでも有ると無いでは大違いだ。
(す、すいませんカナンさん。ありがたくお借りします…)
…あの流れからいきなり他人に頼ってしまうのもどうなのか、と水鳥は一瞬考えたが……

(…別に、気にしなくていいわよこの位。状況が状況だし。ていうか、ここまで連れて来たの私だしねー。)
…とでも言っているかのように、ペンダントはキラリと輝いた。

ライラの結界『魂縛領域』の影響で、肉体が土に還った後もカナンの魂は解放されなかった。
そこで、カナンは残りの魔力を使って自らの魂をペンダントの中へ封じ込めたのであった。
(…と言っても、こっちの声も聞こえないみたいだし、明かりぐらいしか役には立てなさそうね。
でも貴女なら…私の力なんて借りなくても、きっと大丈夫…)

222: 名無しさん :2017/03/29(水) 02:18:55 ID:???
カナンのペンダントを手に、水鳥は闇の中、洞窟の更に奥へと進んでいった。そして……

「あ、あれ…?なんか、元来た道からどんどん離れていってるような……」
…迷った。

(こ、この子……けっこう方向音痴ね…)
そして迷いに迷った末、水鳥はライラの住処よりも更に奥、洞窟の最深部に辿り着き……
そこで、とんでもない物を見つけてしまう。

「……う、うわぁ…何この…ええと、…何だろ、これ……」
そこは、サッカーコート程の広さを持つ巨大な地下空間だった。
床一面に不気味な魔法陣が描かれ、血にまみれた死体が至る所に山積している。
その中心部に鎮座しているのは、不気味に脈打つ、何かの生き物の内臓のような肉塊だったのだが…
それにしては、あまりにも巨大すぎる。

邪術の知識に疎い水鳥にも、周囲に漂う禍々しい魔力は嫌でも感じられる。
この場所は…例の邪術師にとって、とても重要な場所であることは間違いなさそうだ。

…一方のカナンには、これが何のか心当たりがあった。
(やっぱりね…この洞窟のどこかに、必ずあると思ってたわ…
……これが、『魂縛領域』の核……!)
森全体を覆う結界の源。生者の魂を呼び寄せて離さず、死してなお束縛する邪術。
かつては美しい自然にあふれていたこの森を、魔物と亡者が跋扈する
『死んでも出られぬ』悪夢の樹海へと変えてしまった元凶であり……
水鳥達がこの森から脱出するには、ライラの討伐だけでなく、この結界も破壊しなければならない。

(流石にこれだけ大きいと、今の水鳥の魔力で破壊するのは無理ね。
ここは一旦引いて、回復を……って、あれ、水鳥…?)
冷静に分析するカナン(のペンダント)。だがその思惑とは裏腹に、
水鳥はふらふらと結界の中心に向かって歩き始めた。まるで何かに魅入られたかのように…

「あ、れ…(…あの中に……)…なんで…(行かないと…)……」
一歩近づくごとに、肉塊から発される邪悪な魔力は強さを増していく。
今すぐにも逃げ出したいはずなのに、見えない力が水鳥の身体にまとわりつき、ずるずると引き寄せられてしまう。

(まずいわ…あの結界は、強い引力で魂を魅き寄せる。このままじゃ、水鳥が…!!)

223: 名無しさん :2017/03/30(木) 00:49:55 ID:???
「い、いやっ……!行きたくないのに……勝手に足が……!」
まるで磁力が働いているかのように、水鳥は肉塊の元へと導かれてゆく。
ペンダントが危険を知らせるかのように、何度も点滅しながら発光を繰り返しているが、水鳥の視界には全く入らなかった。
「と、止まって……!いやぁっ!いやっ、いやあぁっ!」
悲鳴をあげながらも水鳥は一直線に肉塊へと歩を進めてゆく。もう水鳥と肉塊の距離は5メートルにまで縮まっていた。
(手を伸ばせ……触れるのだ……そうすれば貴様にも、永遠の命を与えよう……!)
「な、なにこの声……!?いやっ!?手が!手がぁっ!」
意思とは無関係に右手を伸ばす水鳥。その小さな指先が、肉塊へと近づいていく。
(それでいい……幼い魔法少女よ。貴様もこの森で、永遠に※%△!∞☆◎▽となるのだ……!)
途中の言葉は人の言葉ではなかった。おそらくその言葉の意味は、肉塊に触れた時わかるのだろう。
だが、水鳥がそれを知ることにはならなかった。

「危ないっ!」
「きゃああッ!」
突如現れた少女が横から水鳥にタックルし、すんでのところで肉塊に触れることを免れたのだ。
「だ、大丈夫?」
「うぅ……だ、大丈夫です。というか、多分助かりました。あなたは?」
ぶつかってきた緑目の可愛らしい少女は、水鳥には目もくれず肉塊へと手をかざす。
「悪いけど、今時間がないの。わたしの親友を助けるために、この肉塊をぶっ壊す!」
(え?親友……?というか、よく見たらわたしと同じくらいの子だ……)
「この体でどこまでできるか……!ウィンドブレイドッ!」
緑目の少女……クローンドロシーが叫ぶと、肉塊に大きな亀裂が入った。

225: 名無しさん :2017/03/30(木) 19:51:32 ID:???
「く……やっぱり、この身体じゃ……!」
(フハハハハハ!!無駄だ!貴様のような小娘に、我を廃す力など……!)
「魔法だけで破壊は無理なようね」
(なに?)
いつの間にか二つの鎌を構えているクローンドロシー。
「本当は武器越しとはいえ触れたくないけど……親友のためよ!グリム……リーパー!」
小さい身体からは想像できないほど力強い薙ぎ払いで、肉塊の亀裂が入った箇所を引き裂く!

(おのれ……おのれぇ!たかが人造人間の分際で!貴様など、邪術師に玩具にされるためだけに生み出されたというのに!)
「……それで親友を助けられるんだから、万々歳よ」
(ならば……貴様のその作り物の肉体に、我が▼※ΧЧを刻んでやろう!武器で直接我に触れたのが、運の尽きよ!)
「……っく!?」
(フハハハハハ!仮に邪術師を撃破したとしても、少しずつ※%△!∞☆◎▽となっていく自らの身体に絶望しながら生きてゆくがいい!)
その言葉を最期に、肉塊は二つに割れた。そして、得体の知れない闇が鎌を通してクローンドロシーの身体に入り込み……ドクン、と心臓が脈打つ。

「う……!くっ、ああ!?」
「だ、大丈夫!?」
突然胸の辺りを押さえて苦しみだしたクローンドロシーに、水鳥が心配の声をあげる。さりげなくタメ口になってるが、見た目は同年代にしか見えない故致し方なし。

「あ、く……なにか得体の知れないものを、身体に入れられた……!」
「ええ!?す、すぐに病院に……!」
「わ、私のことはいいの……それより、これを……」
クローンドロシーは、一切れの紙と一振りのナイフを水鳥に手渡す。
「これは?」
「こ、この洞窟と、邪術師の舘への地図よ……う、ぐうう……!な、名前も知らない子に頼むのも何だけど、舘に囚われてる親友を……リザを、助けてほしい……あの子なら……武器さえあれば、きっと邪術師を倒せる……」
「リザ……ってひょっとして、スピカさん?」
「核を破壊したから……結界の力も大分弱まってるはず……延々と甚振るのが大好きな邪術師のことだから……この状況で、リザを殺しはしないはず……!」
「貴女は一体……?」
息も絶え絶えといった様子のクローンドロシー。だが、どう見ても一般人ではないだろう。

「私はデネ……いえ、私はドロシーよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そ、そういうことを言ってるんじゃなくて……!」
「何も考えずに地図だけ見て走って!早くしないと、みんなが永遠にあの女の玩具にされるのよ!結界を修復されてリザが食べられてしまったら、もう打つ手はない!それとも、魔力も残ってないアンタに邪術のライラが倒せるの!?」
「う、うう……邪術のライラを倒したら、ちゃんと病院に行って見てもらってね!」
クローンドロシーのあまりの剣幕に、水鳥は後ろ髪を引かれる思いながらも地図を見てライラの館へと向かいだす。


「クソ……!この、心臓の痛みさえ無かったら……私がアイツを殺してやるのに……!結局、最後はリザ頼りになったか……!」
「結界の核を壊しただけでも十分よ、驚いちゃったわ」
「……!!!」
水鳥がライラの館へと向かいだしてからしばらく後。胸を押さえてうずくまるクローンドロシーの耳に、絶望の声が聞こえる。

「結界の様子を見に来てみれば……まさかクローン元の記憶が蘇るなんてね。クスクス……!でも、もう一度反抗的な貴女とじっくり遊べると考えたら悪くないわ」
「く……邪術のライラ!」
「魔力切れの魔法少女如きが、エミリアちゃんを出し抜いてリザちゃんを救えるのかしら?貴女にしては悪手だったわね、ドロシーちゃん?」
「私は、親友を信じてる……あの子は、アンタなんかに屈しないって」
「へぇ……」
「そして、英雄カナン・サンセットに勝利したあの魔法少女に、私は賭けた!」

一方その頃、水鳥は地図があるにもかかわらずがっつり道に迷っていた。

  • 最終更新:2018-01-27 02:26:29

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