13.03.シアナとアイナ

125: 名無しさん :2017/03/06(月) 00:40:50 ID:???
「フースーヤ、大丈夫かなあ…アトラのやつ、僕がいないからって、羽目外してなきゃいいけど」
「ふふふ…ちょっと別れた途端に、相手の心配なんて…なんだかんだで仲がいいんですのね」
…一方。城の西側を捜索していたアイナとシアナは、魔弾のアイセが地図と武器を奪ったという情報を聞いて、
予想される脱出ポイント…つまりは地図を奪った地点から、一番近い出口…へと急いでいた。

「…!?…そ、そういうわけじゃなくて…アトラの奴、昔から無鉄砲で僕は随分とばっちり受けてたというか。
でもまあ…運と度胸だけは無駄にあるから、いざって時には妙に頼りになるし…
たまに、僕にない発想が飛び出てきて、一緒に居て飽きない」
「へえ……意外でしたわね。シアナが、アトラの事そんな風に思ってたなんて」
アトラに言わせれば、この世界で最も重要なのは運であるらしい。どのくらい重要かと言うと、
ル○ーダの酒場で飲んだくれてるおっさんが「連れていくなら遊び人3人がいいぜ。ひっく。」って言うレベルだとか。
それはともかく、シアナがこれほど自分の心情を語るのも、アイナが素直に聞き役に徹するのも珍しい事だった。
お互い普段とは違う状況がそうさせるのかも知れない。

「…見つけた。情報通り、武装してるな」
走るアイセの姿を、前方に捉えた。まだこちらには気づいていないようだ…
「ならアイナは『消え』ますから、足止めを頼みますわね…一気に接近して、取り押さえますわよ」
『ベガ』のアイナ…その能力は、姿だけでなく自身の発する匂いや足音すらも消す完全なステルス能力。

「ああ…実は、アトラがいない間にちょっと試したい事がある。さっきのリザとノワールの戦いを見て…思いついたんだ」
シアナは何もない空間に右手をかざす。すると、空間に歪みが生じ……『穴』が開いた。
(な!?何ですの、それは……)
『プロキオン』のシアナの能力は…穴を開ける事。最初は落とし穴でイタズラする程度の力だったが、
王下十輝星として多くの敵を退けるうちに能力が開花。非生物ならどんな硬い物質にも穴を開けられる程に成長し…
そして今。空間にさえ自在に穴を開ける事が可能になった…いや、自らの能力ならそれが出来ると気付いた、と言うべきか。

(…きゃああっ!?)
シアナに続いてアイナが空間の穴を抜けると、…あろうことか、抜けた先は逃げるアイセの真正面だった。
この距離なら、今のアイセの主武装である煙幕や手榴弾の類いは使えない。
「…なっ!?…なによ、アンタ!!」
しかしそこは、アイセもまた歴戦の傭兵。虚空から突然現れた謎の少年を瞬時に敵と判断し、咄嗟に抜いたハンドガンで応戦する。
だが立て続けに放たれた3発の弾丸は、シアナの目の前で空間の歪みに吸い込まれ…

「…っ、あぐっ!?」
…アイセの太股に命中した。たまらず転倒するアイセを尻目に、シアナは三度空間を移動して距離を取る。
(…足止め成功。後、よろしく)
(ったく…誰が無鉄砲で、誰がとばっちりを受けてたですって?…シアナの奴、よく言えた物ですわ!でも…)

アイセのすぐ側に取り残された形になったアイナ。
だが、アイセはその姿を認識する事はなく、その意識は少し離れた場所にいるシアナに向いている。
(…こんな絶好の状況を、一瞬にして作り出すなんて…シアナ、恐ろしい子…ですわ)

129: 名無しさん :2017/03/07(火) 01:05:19 ID:???
(くっ…足をやられた。けど、まだ動けるわ……!)
突如現れた青い髪の少年は、離れたところでこちらの様子を伺っている。
彼もおそらく能力者……銃弾もなんらかの力で私の足を負傷させたと見ていいだろう。
「アンタも王下十輝星?不意打ちが失敗して残念ね。私はまだ立てるわよ!」
「悪運の強い人だ……でも、あなたは僕には勝てませんよ。大人しく投降することを推奨します。」
「絶対イヤ!王下十輝星に家族を殺されたあの日、私はあんたらとトーメント王を1人残らず殺すと決めたのッ!こんなところでアンタみたいなチビに負けてたまるかッ!!!」

10年前のあの日のことは……思い出したくない。
たまに夢に出たときは、身体中汗びっしょりになって泣きながら飛び起きる。

私の出身のシールズは小さな村で、住民も30人くらい。
その日もいつものように森で木の実や魚を集めていた。なんだか夢中になっちゃって、いつもよりちょっと帰りが遅くなったけど、珍しい木の実も美味しい魚もたくさん採れた。
お父さんとお母さん、びっくりするだろうな。
お姉ちゃんも妹のリルセもとっても喜ぶだろうな。
早く帰って、お母さんの作った美味しい晩御飯をみんなで食べたいな。
そう、思っていた。

「な……なにこれ……!」
帰る途中に大きな音がして、慌てて村に戻った私が見たのは、信じられない光景だった。
村のみんなで作った風車も、いつもチョコを買う店も、1番大きな村長の家にも、大きくて真っ赤な火が広がっている。
「い、いや……!あ、タロ!タロッ!」
小さい頃から一緒に暮らしていた飼い犬のタロが、村の入り口でぐったりしていた。
「起きて!起きてよタロッ!なにがあったの!?みんなはどこっ!?」
「………………」
「嘘でしょ……返事してよ……!ほら、あんたの好きなオレンの実だよ……?食べてよ……うぅっ……」

結局、そのあと何度呼びかけてもタロは動かなかった。
すぐにお墓を作らなきゃ、と思ったけど、それより先にみんなを探さなきゃと思って、上着だけかけておいた。
自分の家へと向かう道にも、よく知った顔が血を流してたくさん倒れていた。
(お願い……お父さんとお母さんとお姉ちゃんとリルセだけは……無事でいて……!)

ようやく着いた我が家に、火は付いていなかった。
このとき、私は心底安心した。火がついていないなら、中の家族は無事だと思ったのだ。
でも、そんな私を待っていたのは……残酷な真実だけだった。
「あ……ぁ……ああぁあぁぁ……!」
血だらけのお母さんに重なっている、首がないお父さん。
庭に倒れていたのは、裸で真っ赤になっているお姉ちゃん。
その姿を見て、あたしの心は壊れる寸前だった。
壊れなかったのは、リルセの姿がなかったから。
「リ……リルセえええっ!どこにいるの!?あたしはここにいるよぉッ!!」
叫びながら二階に上がる。泥だらけの足跡をたどっていくと、リルセの部屋の前に着いた。
この扉を開けたら、あたしはあたしでいられないかもしれない。
そう思ったけど、リルセを助けたくてすぐに扉を開けた。

「お……おねえ……ちゃん……」
「リ、リルセ!!」
すごい量の血を流しながら、リルセは床で仰向けになっていた。
「お……おかあさんは……?おねえちゃんは……?」
「……だいじょうぶ。みんな無事だよ。リルセも早く病院に行こう。おねえちゃんがおぶってあげるから!」
正直あたしはこのとき、もうリルセは助からないと思った。
でも、リルセは今、この今は生きてる。このままなにもしないより、少しでも助けられるようなことがしたかった。
そうしないと、あたしはあたしでいられなかった。
「だ、だめ……おねえちゃんは……リルセのこと、おぶっていけないよ……」
「えっ……どうして?」

「リルセね……腰から下が……なくなっちゃったの。」

その言葉で、あたしはあたしじゃなくなった。

130: 名無しさん :2017/03/07(火) 02:07:15 ID:???
「知ってますよ。魔弾のアイセ……あなたはシールズの唯一の生き残りですよね。」
「……そうよ。あの日のことは10年経った今でも忘れられないわ。……あんなことがあったおかげで、ここまで強くなれた。」
「確か……あの辺りの国土整備をするのに、シールズは邪魔だったんですよね。立ち退きにも応じなかったし。」
「もう過去の話はいい……わたしはあの時の憂さ晴らしであんたらを殺したいの。殺された家族のためにとか……もうそういう感情はあんまりないわ。」
「へえ……そうやって自分なりの折り合いをつけているんですね。そういう合理的な考え方、僕は好きですよ。」
「ふん……じゃあここで大人しくあたしに殺されなさいよッ!!」

すかさず銃を抜き発砲しようとするアイセ。だが、その手には別のものが握られた。
「え?な、なによこれ!?」
すかさず掴んだものを確認すると……そこにはベロベロバーをしている顔の額に、ハズレと書いある玉だった。
ボフンッ!!
「きゃあっ!」
白い玉はアイセが掴んだ直後に爆発し、あたりに黄色い煙が立ち込める。
(こ……これは……痺れ粉!?)
体の感覚がなくなっていくのを感じて、アイセはすかさず口元を押さえた。
「キャハハ♪そんなことしたって無駄ですわ!可愛いお姉さん♡」
「な!?ど、どこにいんのよっ……!!」
アイナが魔法のお菓子袋から取り出していたのは、うまい棒チョコ味にそっくりの大きな金属バット。その名も、かたい棒 ~アイナを甲子園に連れてって味~ である。
「夢は近づくと目標に変わる!コンフィクショナリースラッガー!」
ガギイイィンン!!!!!
「あぎいいぃっ!!!」
慌てふためくアイセの後頭部に、死角からの強烈なスイングと、イ◯ローの名言が見事に炸裂した。
「大成功ですわっ!自分の限界を見てから、バットを置きたいですわ!」
「あが……ぁ……」
ドサリ、と仰向けに倒れこむアイセ。床に綺麗な茶色のセミロングが広がると同時に、頭を打った衝撃によってアイセの意識はプツン、と途切れてしまった。
「よくやったぞ、アイナ。こっちはこれで片付いたな。」
「シアナの陽動のおかげですわ!お礼に後でアイナ特製のからし入りクッキーをあーんして食べさせてあげますわ☆」
「いや、いらない。」

(し、信じられない……!この私が、こんな一方的に……)
霞み行く視界と痺れる体に、アイセはゆっくりと意識を失っていく……

131: 名無しさん :2017/03/07(火) 15:02:45 ID:???
(くそ……こんなところで……気絶なんてしてられないわッ!!)
気を失う瞬間に家族と仲間たちを思い出し、なんと意識を取り戻したアイセ。
そのことにシアナとアイナは、気付くことができなかった。
「この辺にはまだ衛兵が配備されていないみたいだな……僕が誰か呼んでくるよ。アイナはそいつを見張っててくれ。」
「へいガッテン承知の助ですわ!……それにしてもうちの女性用囚人服は、胸出してミニスカで……コスプレみたいですわね。」
「王様や教授の趣味だろ。それよりそのガスマスクをさっさと外し……アイナッ!!!逃げろっ!!」
「え?きゃあああああッ!!!!」

飛び起きたアイセは、こちらに背を向けていたアイナを拘束することに成功した。
「所詮はガキね……ハンターは獲物を捕らえた瞬間が1番危険だっていうのに。」
「くっ……離しなさい傾国の美女!!小さなアイナに大きな乳房を押し付けるんじゃありませんわ!」
「な、なぜ動ける……?痺れ粉は少しでも吸えば動けなくなるはずなのに!」
「フン。私の体は見た目ほどヤワじゃないのよ。あの程度の量じゃやられたりしないわ!」
(そんなわけがない……!おそらく体になにか埋め込んでるな。僕としたことが迂闊だった……!)

アイセの体内に埋め込まれているのは、超小型ヴァイタル正常化装置。
この装置はいわゆる状態異常、バッドステータスをある程度無効化できる代物である。
毒、麻痺、凍結、混乱、魅了、石化、キノコ、へんetc……
いくら歴戦の猛者であるアイセでも体の中は鍛えられないため、このような装置を埋め込んでいるのだ。

(口を押さえたのも演技……アイナの一撃も後頭部に刺さったように見えて、実は急所を外していたのか……?)
「そこ動かないでね。少しでも不穏な動きを見せたら……コイツを殺す。」
「ひぃ……!シ、シアナ……!」
いつも陽気でムードメーカーのアイナが、怯えきった顔でポロポロと涙を流している姿をシアナは直視できなかった。
「……ふ、ふん。敵の本拠地で人質なんか取ってどうするんだ?じきに衛兵もここへ来るぞ。それまでそうしているつもりか?」
「そんなわけないでしょ!あたしはこいつを捕まえたままここから出させてもらうわ。」
「プッ……アハハハハハハハハ!!」
突如笑い出すシアナ。その様子にアイセはもちろんアイナも怪訝な表情を浮かべた。
「シ、シアナ……?まさか、美少女すぎるアイナを人質に取られたショックでおかしくなったんですの……?」
「な、何言ってんのよこのガキは……」
「ククク……!いやぁ、お気楽なもんだと思ってさ。外のの様子も知らないで……」
「……外になにがあるってのよ!?」

「お前を捕まえるために出口の外で待ち構えている兵隊たちさ……数は200くらいかな。見つからずに脱出するなんて、どう頑張っても不可能ってことだよ。クククク……!」
「………………」
「今そいつを開放すれば、命だけは助かけてもらえるよう王様に頼んでやる。無駄な抵抗はやめて、さっさと投稿しろ!」
ビシッ!とアイセを指差してはっきりと言い放つシアナ。だがアイセは動じていない。
むしろ、動じているのはアイナの方だった。

(シ……シアナが……アイナを助けるために……とんでもないハッタリをかましていますわ……!)

136: 名無しさん :2017/03/09(木) 00:52:23 ID:???
「ふん!騙されないわよ!さっき衛兵達が、この城の指揮系統は混乱しきって警備はザルって話してたわ!そんな状況で、外に200人も待機させられるわけないわ!」
(ちょっとー!?衛兵達ったら足引っ張りすぎですわー!?)

戦闘のプロは情報も重視する。衛兵たちの何気ない会話に含まれる情報も、緊急時には逆転の一手足りえるのだ。シアナのハッタリもあっさり見破られたかに思えたが…

「うん?ああ、それは『この城の衛兵』に限った話だろう?外にいるのは、僕の私兵さ」
「私兵?」
「知らないのかい?僕ら十輝星にはそれぞれ相当数の私兵が配られていて、好きに使えるんだ。彼らにとっては聞くべき命令は僕の命令だけ…指揮系統の混乱なんて起きようがないのさ」
「……証拠は?」
「証拠?僕らのような国の重鎮に、専属の部隊が付いているのがそんなに不自然か?ククク…気持ちは分かるが、現実を直視すべきだぞ」
(シ、シアナ…!咄嗟にそんなハッタリを思いつくなんて…私の思っていた以上に頭の回転が早いですわ!)

「…だとしても、このまま大人しく引き下がる気はないわ。人質を盾に行けるところまで行って逃げれるところまで逃げてやるわよ」
「…今なら命だけは助けてやるって言ったのが聞こえなかったのか?それに、王様によって生き返ることができる僕らにとって、人質は意味がないぞ」
「悪いけど、アンタら相手に大人しく引き下がるくらいなら、死んだ方がマシよ。それに…!」
突然、アイセがナイフを振りかぶり、アイナに向けて振り下ろす!

「ひ!」
…と見せかけて、ナイフはアイナの左胸…心臓の前で寸止めされた。

「この反応は、生き返りを当てにしてるにしては、本気で死を怖がってる反応だわ」
「…ち!」
「人質としての価値は十分にあるみたいね?」
(これはもうダメかも分かりませんわ…リザちゃん、先立つ不幸をお許しください…ですわ)

「…分かった。なら僕が代わりに人質になるから、アイナを離せ」
しかし、シアナはまたも瞬時に次の策を思いついたようだ。

「シアナ!?いくらアイナが超絶美少女ですからって、貴方が生贄になる必要はありませんのよ!?」
「…このガキじゃなくあんたを人質にして、私にメリットは?」
「さっきも言ったが、外にいるのは僕の私兵だ。僕が人質になった方がより効果的なんじゃないか?アイナだと最悪『今なら合法的にアイナちゃんをリョナれる!』とか言って2人まとめて殺されるかもしれないぞ?」
(…クリスマスの事件を考えると否定できないのが辛いですわ)

「……それは確かに大いにあり得る可能性だけど、人質を入れ替える隙に能力で私を倒そうって算段なんじゃない?」
「…僕の能力はテレポートだ。僕が急に現れたのも、銃弾がそっちに行ったのもこの能力のせいだ。はっきり言って不意打ちで相手を倒せるような能力じゃない」
「は!語るに落ちたわね!そんな逃げやすそうな能力を持ってる奴を人質にするわけないじゃない!」
(そうですわよ!そもそもテレポートはリザちゃんの能力ですわ!どうせならもう少しマシな嘘を…)

「…やれやれ、平行線か。だったら好きにしろよ」
突然、シアナが冷たい声で言い放つ。
「…え?」
アイナの口から、思わず間抜けな声が漏れた。
「一応同じ十輝星だから必死こいて助けようとしたけど、よく考えたら勝手に捕まったアイナが悪いんだしな」
「…仲間を見捨てる気?」
アイセも強い口調でシアナ問い詰める。

「同僚ではあるけど、仲間ではないね。そもそも、僕はずっと、アイナが嫌いだったんだ。一々騒々しいしマッズい妙なお菓子ばっか勧めてくるし」
「シ、シアナ?」
「いなくなってくれた方が清々するよ。勝手に殺されてろ」

そう言ってシアナは踵を返す。

137: 名無しさん :2017/03/09(木) 00:54:04 ID:???

「あ、ちょっと待ちなさい!」
「なに、他の衛兵を呼ばれるんじゃないかって?今から出口に行けば僕が呼んでくるより早く離脱できるさ。なんたって外に私兵がいるってのも噓だし」
「え!?」
「じゃあな、アイナ」

そして、今度こそシアナは去っていった。

「し、シアナ……」
確かに捕まったのは自分の不注意だ。だから、助けてくれなくても、それはしょうがないかもしれない。でも、シアナがそこまで自分のことを嫌っているとは思わなかった。

「…ふん!気の毒だなんて思わないから!このまま出口に行くからさっさと歩きなさい!」
呆然とするアイナをグイグイと押して無理矢理歩かせるアイセ。

(シアナ…そこまで、アイナのことを嫌っていたんですのね)
確かに、リザにはちょっと過剰なスキンシップを取ったりしてるし、自分だけやたら口数多いし、周りの人間がみんな不味い不味い言うお菓子をいっつも勧めている。
しかし、それでも、仲間だと思っていた。なんだかんだで嫌われてないと思っていた。

一緒に組むことは少なかったが、王様の下でずっと一緒に戦ってきた。
ドロシーが死んだ時も、一番悲しんでいたのはリザだったが、みんな自分なりに悲しんでいた。
アイセを追っている時、シアナの心情を初めてちゃんと聞けた気がして嬉しかった。

アイナはシアナのことを―――ふざけてばかりいる自分やアトラにツッコミを入れたり、細かい調整を任せきりにされても文句も言わない真面目なシアナを信頼していた。

「……ぐす」
「泣くんじゃないわよ!極悪非道の王下十輝星が!」

だが、アイセは油断しなかった。外に衛兵がいるというのが噓と言っていたが、それこそが噓かもしれない。
さらに、相手の能力を考えると、テレポートで突然急襲してくる可能性もある。
そう、出口まできて、アイナは本当に外に衛兵がいないことに気づいた。だが、あの少年がテレポートしてくるかもしれない。
アイセは極限まで気を張っていた。どこからあの少年が現れても、すぐに人質の少女を盾にできるようにと。

だからだろうか。突然足元に―――それもしっかりと踏みしめた直後の地面に―――小さめの穴が開いた時、咄嗟の反応ができなかった。

「わ!?っとっと!」
足元がお留守だとアイセを責めるのはいささか酷であろう。周辺の曲がり角やこちらからは死角になっている場所に注意を傾け、前後左右どこからシアナが瞬間移動してくるかに気を張っていたのだ。
踏みしめた直後という地面に対して絶対の信頼を置く瞬間を狙われてはどうしようもない。

「……死ね」
「あぎ!?ぎぃいやああああああ"あ"あ"!!!!う、腕が、私の足がぁああああ!!?」

アイセがバランスを崩した瞬間、物陰から様子を伺っていたシアナは時空に穴を開けてアイセに肉薄し、右胸と左足に穴を開けた。
だが、シアナはどこぞの錬金術師みたいになったアイセには目もくれず、無理矢理歩かせていたアイセがいなくなったことで崩れ落ちるアイナを抱きとめる。

138: 名無しさん :2017/03/09(木) 00:55:47 ID:???
「アイナ!大丈夫か!?」
「シ、シアナ?」
「…大丈夫みたいだな。ちょっと待っててくれ。あの女に制裁してくる」
ちょっと待って、という暇もなく、シアナはアイナを地面に横たわらせてすぐにアイセの元へ向かい、そのまま顔を踏みつける。

「やってくれたな……!たかがレジスタンスの元リーダー如きが!」
アイセの左腕に穴を開ける。
「ぎ!?ぐぁあああ!!」
「は!シールズなんて人口30人のぶっちぎり限界集落燃やされたくらいでなんだ!?あんな村遅かれ早かれ滅んでたさ!」
アイセの右足に穴を開ける。
「あ!?が、がぁあああああ!!」
「唯ちゃんにやる予定の拷問を試してやろうか?荒縄で縛って生爪を剥いで…!」

「し、シアナ!な、なんでそんなに怒って…!ちょっと怖いですわよ!?」
豹変したシアナに対して、アイナが叫ぶ。

「…そりゃ怒りもするさ。大事な仲間が殺されかけたんだからな」
「え、えーと、大事なって…さっきのは嘘だったってことですの!?」
「ああ、自然にあの場を離れて遠くから隙を伺うのにちょうどよかった…てなんで殴るんだよ!」
「バカバカ!シアナのバカ!言っていい噓と悪い噓がありますわ!」
(い、今のうちに這って逃げ…)
アイセの腹部に穴が開く。

「あぎゃああああああ!?」
「あ、ちょっとやり過ぎたかもしんない。死んだら王様に蘇生してもらわないと…」
「もう!アイナみたいな美少女がバカバカ言いながらポカポカ叩いてるんだから、ちょっとはドギマギするべきですわ!なんでそう平常運転なんですの!?」
「いや、そんなこと言われても」
「もう、もう!本当に…本当に怖かったんですのよ!?」

普段から割と命がけの戦いしてる癖に何を大げさな…とシアナは笑おうとしたが。

「シアナが、アイナをすっごく嫌ってたなんて…って」
続いた言葉に、息をのんだ。

「え、えーと、そっち?」
「そっちですわ!今まで一緒に長いこと戦ってきた仲じゃありませんこと!そんな相手から嫌いだの、勝手に死んでろだの言われたら、誰だって…!」
「ア、アイナ…」
瞳に涙を浮かべて怒るアイナを見て、シアナは不覚にも―――ドキドキしてしまった。

「なんでバカバカ言いながらポカポカされても無反応だった癖にちょっと泣いたらすーぐドギマギしてるんですのー!?そんなに女の子の涙が好きなんですの!?」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。Sの気があるからって涙が好きとは限らないだろ」
「もー!この職場ドSばっかで嫌になりますわー!」
「女の子の涙に弱いってのはむしろノーマルなんじゃないか?」

いつものように口数多くペチャクチャ喋るアイナと、いつものようにそれにツッコミを入れるシアナ。
だが、そんないつも通りの2人の距離は―――前よりも、縮まっているように感じた。

  • 最終更新:2018-02-18 17:01:15

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