13.02.アトラとフースーヤ

124: 名無しさん :2017/03/05(日) 22:51:59 ID:???
城の東側を捜索するアトラとフースーヤ。だがそこで、思わぬ人物と遭遇してしまう。
「先刻の小僧どもか……去ね。わらわは今、虫の居所が悪い」
(の…ノワール…!?…ど、どうしましょう。まずいですよアトラさん…)
「…ふん。虫の居所が悪いのは、こっちも同じだぜ!俺の女に手を出して、タダで済むと思うなよ?」
(アトラさーーーん!!挑発してどうするんですかー!!)

「…小僧ども、どうやら死にたいらしいな」
(どもじゃないです!この人だけです!)
「御託はいいから、掛かってきなよ…で、ここでやる?それともお得意の、ナントカ結界の中?…オバサンに選ばせてやるよ」
「…よかろう。そこまで言うなら…わらわが最も得意とする『邪霊凶殺結界』に貴様らを送り込んでくれる」
(なんかすごそうー!?)
…ノワールが両手を振り上げると、黒いドレスに包まれた胸が大きく揺れ、辺りは血の赤と闇の黒に染まっていった。

「最も得意とするフィールド、ね……」
「ど、どうするんですかアトラさん!!リザさんの時よりヤバそうじゃないですか!!絶対殺されますよ!!」
「……まさかそんな所に罠が仕掛けられてるなんて…誰も思わないよなぁ?」
「えっ……それは、どういう…」
自分より強い相手を挑発し、激昂させ、相手の得意なフィールドに誘い込み、その上で罠に嵌め…
「フースーヤ、ちゃんとポイント数えておけよ。…このゲーム、負けた方がコーラ奢りだからな」
…それら全てをゲームとして楽しむ。それが王下十輝星『シリウス』のアトラの戦闘スタイルであった。

126: 名無しさん :2017/03/06(月) 00:44:29 ID:???
「さぁ小僧ども!まずは小手調べじゃ!」
そう言ってノワールがダークバレットを放つが、アトラは左に、フースーヤは右に飛ぶことでそれを回避する。

「あーもう、何でこんなことに!でもこういうお馬鹿なノリって男同士ならではって感じで楽しい!」
「なんだよ、結構話が分かるじゃんかフースーヤ!でも馬鹿は余計な!」
ノワールがヨハンにフルボッコにされたのを見て侮っているわけではないが、少なくとも軽口を叩く余裕が2人にはあった。

「ええい、先ほどの小娘のような愛らしいおなごであればもう少しやる気も湧いてくるというに…小便臭い小僧ではただただ目障りなだけじゃて!」
二手に分かれた相手に対して、ノワールが狙うのがオバサン呼ばわりしてきたアトラであることは必然であった。

「さぁ、『邪霊凶殺結界』の恐怖、しかと味わえ……う!?」
アトラに攻撃を加えようと一歩踏み出したノワール。しかし、踏み出したその先に、何やら硬い異物があった。

「な、なんじゃこれは!?」
「よっしゃ!まきびし炸裂!…でも大して効いてないっぽいな。これはポイントにはなんないかなぁ」
「な、何故じゃ!?この結界内になぜこのようなものが…小僧どもの仕業か!」
「ちょっとアトラさん!?『まさかそんな所に罠が仕掛けられてるなんて…誰も思わないよなぁ?』なんて言っときながら、速攻でバレたじゃないですか!?」
「まぁまぁ、細かいことは気にすんなよ。リレーなんだから矛盾とかちょっとした失敗なんて笑って許してやろうぜ」
「メタいですよ!ていうか話を大げさにしてごまかさないで下さいよ!」
「小僧共…わらわを前にして随分と余裕じゃな?その軽薄な笑みをすぐに絶やしてやろうぞ!ゆけ、魔獣たちよ!」

リザとの戦いでも見せたように、魔獣を召喚するノワール。リザの時との違いは、その数が三倍ほど多いことであろうか。

「ガルルルルァ!」
「シャァアアア!」

「く…!くらえ!」
フースーヤが魔獣たちに向けて風を吹かすが、魔獣たちはそれがどうしたとばかりに直進する。

「ふん!そのような風魔法では、我が精鋭はこゆるぎもせんわ!」
「ほいほい、そんな真っ直ぐ向かってきたら良い的だぜ!」
とらばさみ、括り縄、クローズラインなどのあらゆる罠が火を噴き、魔獣たちを襲う。
しかし魔獣たちも精鋭揃い、動きは止まったものの、今にでも罠を無理矢理突破して襲い掛かってきそうだ。

「ありゃ、ちょっと殺傷力が足りなかったかな?」
「ふん!あの小娘がしたように的確に急所を突かれでもしない限り、こやつらはそう簡単には倒せはせん!」
「いえ、それはどうでしょうかね?」
「なに?」

フースーヤの言葉を皮切りにしたわけではないだろうが、魔獣たちの動きは徐々に弱くなり、やがて完全に沈黙した。

「な、なぜ!?」
「僕はこう見えて、毒の魔法が得意なんですよ…特に風魔法と合わせるのがね」
「なに!?…!そうか!先ほどの風魔法に毒が孕まれていたのか!」
「へー、やるじゃんかフースーヤ!」
「…まずは、僕が一ポイントですかね?」
「ぐ…!動きを抑えたのは俺なんだから、順番的には俺が先に一ポイントで、そっちが後から一ポイントな!」
「お、おのれぇ…!こうなればわらわ自らが相手をしてやろうぞ!」

132: 名無しさん :2017/03/07(火) 20:04:19 ID:???
「ええい、鬱陶しいことこの上ない!」
迫りくる毒の風を魔法で中和し、足元のトラップで負った傷を瞬時に治す。
毒と罠に気を遣って戦わなければならないが故に、ノワールは後手に回っていた。

「わらわの結界内では、お前たちの力は弱まり、逆にわらわの力は強くなるはず!なのになぜ、わらわが後手に回っている!?」
「あー、そういうのってドロシーみたいな正面から力押し!みたいなタイプには有効だろうけど…」
「僕らみたいな搦め手タイプにはあんまり意味ないですよね」

基本的に、ノワールの仮想敵はルミナスの魔法少女である。正々堂々とした正面からの戦いを好む彼女らにとっては、自らの力を強め他の者の体力を吸うノワールの『邪霊凶殺結界』の効果は脅威であろう。
だが、その風潮のせいで自らの能力を十全に発揮できなかったフースーヤや、罠使いのアトラにとっては結界の効果は大した痛手ではなかった。

「そもそも、お主は見る限りルミナスの者であろう!?なぜこんなところにおる!」
「えぇ…貴女がそれを言うんですか…」
「おうおう!フースーヤはな!お前みたいな変な女ばっかのルミナスに嫌気がさして脱走してきたんだよ!」
「だから違いますって!?捕らえられたんですよ、任務中に!トーメント王国に!」
「ええい、会話にならんか…十輝星とはかくも曲者ばかりとは!」
「いやちょっと!?僕はまともですよ!?」
「お前みたいなのがいるからフースーヤも嫌になるんだよ!このデブスオバサン!胸はデカけりゃいいってもんじゃないの!」
「小僧どもォ…!本気で死にたいらしいなぁ!?」
(だからどもじゃなくてこの人だけですってばー!?)

会話を続けながらも、戦闘も続く。ノワールには直接的なダメージが効かないと見るや、アトラは動きを阻害するような罠ばかり仕掛けてくる。
「あーくそ、中々ハマらねぇなあのオバサン!」
ノワールは罠にかからないように動かざるをえなくなり、徐々に自由に動ける範囲が狭くなっていった。

「ならばこれはどうじゃ!」
ノワールはリザとの戦いでも見せた下から伸びる無数の手を出現させ、周辺の罠を強引に作動させて無力化していく。そのまま、無数の手はアトラとフースーヤに向かっていくが……

「毒風・鎌鼬!」
フースーヤの毒の風によって作られた鎌鼬により闇の手は切り刻まれた。
「ちぃ…!」
リザのような近距離戦重視の相手には有効な手も、遠距離攻撃手段を持つ相手には相性が悪い。
ノワールは攻めあぐねているが、同時に相手からも有効な攻撃を喰らっていない。

「あー、全然ポイント入んねぇなぁ、傷がすぐ治るってずるくね?」
「なら、今度こそ僕の先制ですかね」
「……ガハ!?」
突如、ノワールが血反吐を吐く。

「お、ご……!ゲバァ!」
「大なり小なり、風は基本的に当たり前にあるものですよね?それはこの結界内でも例外じゃない。知らず知らずのうちに、貴女は僕の毒風を吸っていたんですよ」
例えば、先ほどの鎌鼬。鎌鼬が闇の手を切り裂いて消えた後、そよ風となった残りの毒風はノワールの口と鼻から体内に入ったのだ。

「毒っていうのは使ってて気分がいいですね…なんせ相手が一方的に弱っていく様を簡単に見れますから!」

風の遠距離攻撃で必要以上のリスクを冒さずに戦い、その間に毒を吸わせる。相手によっては戦いもせずに遠くから毒だけ吸わせる。
遅行性の毒でじわじわと死に追いやるもよし、即効性の毒で一気に血反吐を吐かせるもよし。
『デネブ』のフースーヤの戦い方は、こうして確立されていった。

「…ふ、ふふふふ!!クハハハハ!!あの王の手下だからといって手加減してやっていたが、止めだ!本気で殺してやろうぞ!」
(……あ、ヤバい。血反吐を吐かせるのが気持ちよくてつい調子に乗りすぎた)
すっげぇいい気分で苦しむノワールを見ていたフースーヤだが、彼女が闇の魔力を全力で解放させるのを見て冷や汗を流す。

「これでフースーヤは2ポイントか。一つリードされちまったな」
「あ、アトラさん?」
「でも、こっからは俺のワンサイドゲームだぜ。なんたって…」

しかし、完全に頭に血が上っているノワールを見て、むしろアトラの振る舞いには余裕が表れた。
相手が全力を出せば出すほど、頭に血が上れば上るほど、視野が狭まれば狭まるほど―――

「俺はトラップ使い……『シリウス』のアトラだからな!」
相手はアトラの掌の上で踊ることになる。

133: 名無しさん :2017/03/08(水) 03:12:47 ID:???
「我が前に立つ愚か者共、死よりも暗き呪縛へと誘わん…『バインドアイ』!!」
ノワールの瞳が妖しく輝いた。視線から発される魔力が不可視の鎖となってアトラとフースーヤを捕らえる!
「わぁぁぁっ!?」
(…あれ?なんだこれ。動けねえ!)
(それに…声も出ない!!)

「動けまい。魔力の込められた我が魔眼に睨まれている限り、もはや貴様らは指一本動かす事かなわぬ。ククク…」
(そ、そんな……声が出ないから、呪文で反撃も出来ない!このままじゃ、二人ともやられる…!!)
必死にもがくフースーヤだが、ノワールの言葉通り、指一本動かす事はできない。
しかし、その横に立っていたアトラは…

(俺の能力って魔法じゃないから、動きとか声とか封じられても、普通に使えるんだよなぁ……)
…なお、詳しい原理は本人にもよくわからない。
(さっきの話だと、俺達の動きを封じるには、ずっとこっちを見てないといけないらしいし……)
ロープに吊るされた巨大な丸太が、振り子運動でノワールの背中目がけて飛んでくる。
このままの軌道だと「楽には殺さぬ…今までの礼に、じっくりと痛めつけてくれるわ。クックック」
とドヤ顔している後頭部に直撃してしまう。
(さすがに可愛そうだから、教えてあげたいんだけど。なんせ声が出ないからなー…やばい、笑うwww)

「…さて、まずは貴様からだ。花も恥じらう16歳の乙女の身体を捕まえてオバサン扱いとは、
随分と虚仮にしてくれたのう…宇宙の塵にされる前に、言い残しておくことはあるか、んん?」
ばこーーーん。(アトラ+1ポイント)
「へぎぃっ!?…な、何じゃ、一体…!?」
後頭部への不意打ちに、たたらを踏むノワール。勢い余って数歩前に進み出るが…その足元にはバナナの皮が置いてあった。
ずべっ!!(アトラ+1ポイント)
「んおぅっ…!?」
ド派手にすっ転んで地面と熱いフレンチキスをかわし、ついでに鼻も強打したノワール。
視線が外れたため、アトラ達は声と動きの自由を取り戻す。

「僕…バナナの皮で転ぶ人、初めてナマで見ました」
「俺も…あ。これで2ポイントだから、俺の逆転な」
「え?丸太はともかく、バナナはポイントに入るんですか?」
「遠足の準備みたいな事言いやがって…いいだろポイントで!だって…プククク」
「わかりましたよ…まあ、仕方ないですね。…あんな見事なコケ方されたら…クスクスクス」
「むしろ今のは芸術点で3ポイントは行けるだろw……んでもって、これでダメ押しっと」
ブルブルと肩を震わせながら起き上がろうとするノワール目がけて、左右から巨大な鉄球が勢いよく転がってくる。
…だが。ノワールが軽く手を左右にかざすと、鉄球はオレンジ色に赤熱し…たちまちのうちに、跡形もなく溶けてしまった。

「……深淵を這う地獄の業火よ、憎悪と狂乱に彩られし漆黒の闇よ……」
左右の手から超高熱を発し、額に青筋を浮かべながら何やらブツブツと呟いているノワール。その頭上から
ばしゃあああっ!!(アトラ+1ポイント)
…謎の白い液体が大量に降り注いだ。

134: 名無しさん :2017/03/08(水) 03:32:44 ID:???
「はっはっは!これが俺の奥の手!『都合よく服だけ溶かす液体トラップ』だ!」
「……アトラさんの能力って…なんと言うか、何でもアリなんですね…」
勝利の高笑いを上げるアトラ。呆れ顔で見守るしかないフースーヤ。
…だがここで、フースーヤは重大な事に気付いてしまった。
「……って、え?ちょっと待って、コレが奥の手?殺傷能力ゼロじゃないですか。
この人倒さないと結界から出られないんでしょ?…どうするんですかこの後」

そして、ノワールは……アトラの狙い通りというか。黒い魔女帽子を残して、黒い服が見る見るうちに溶けていく。
豊かな乳房も、それ以外の大事な所もそうでない所も露わになり、殆ど全裸に近い状態と言ってよかった。
「おお。こうして見ると、マジででっかいし…すっげえ柔らかそうだな!」
「た、確かに……ゴクリ。いやでも、ホント知りませんよ?こんな事したって、ダメージどころかよけい怒らせるだけ…」
「……ぎいいやああああああああああ!!!この、わらわがっ…こんなガキどもに……おのれえええ!!!」
「「!!??」」

この世の終わりのごとき叫び声を上げるノワール。
全く予想していなかったリアクションに、アトラとフースーヤはビクリと身をすくませた。
一体何事かと二人が警戒していると、ノワールの身にわずかに残っていた黒い服の切れ端は霧と化して掻き消え…
周囲の風景は、元の姿を取り戻していた。
「た、助かった…んでしょうか?」
「当然だろ…はっはっはっ!俺様の完全勝利だな!フースーヤ!約束通りコーラ奢れよ!」
「そ……それはまあ、仕方ないですけど……それより。…どうします?この人……」

…二人の前には、ノワールから解放された魔法少女、市松 鏡花が横たわっていた。

  • 最終更新:2018-01-21 23:15:14

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