10.05.彩芽と亜理紗2

90: 名無しさん :2017/02/25(土) 21:26:47 ID:???
「…なるほど…この首のチョーカーで操ってたわけか。ボクの時と同じだな…他に何か怪しい所は、と」
気絶した舞の身体を調査している彩芽。スカートの端をつまんで捲りあげ、破れたストッキングをしげしげと眺め…
「彩芽…貴女、ナニしてますの…?」
…傍目には、縛り上げられた半裸の少女にイカガワシイ事をしているようにしか見えなかった。
「あ、亜理紗!?……いや、これはその単なる探求心というか……あ、それよりアレ…」
アリサの存在に気付いた彩芽は、そんな残念な空気など物ともせず、カバンから『何か』を取り出して投げる。

ふわりとした柔らかそうな物が、ゆるい放物線を描き…アリサの手元  から2mほど横にずれた場所に落ちた。
彩芽のバツグンな運動神経の賜物である。
『…わーい!…亜理紗ちゃんだ!ひさしぶりー!』
「…!?……これは…どうして貴女が…?」
それは…遠い昔に亜理紗が大切にしていた、防犯機能付きぬいぐるみだった。

「アングレームとか名乗ってたから、人違いかとも思ったけど…やっぱり、本当に亜理紗なんだな」
「…ええ。こちらの世界に着いてから色々あって……あの時の事は、本当にごめんなさい」
捨てたはずの過去、山形亜理紗として過ごした日々が、アリサの記憶の底から蘇る。
盗難事件の罪を被るつもりはないが、元を糾せば彩芽との…そしてもう一人の友人、草薙沙紀との関係を
壊してしまったのは、あの頃の自分の心の弱さが原因だ、と亜理紗は考えていた。

「ごめんなさい、って…何だよ。『あの夜』の事…お前がやった、とでも言うのか?」
「……え…どういう事ですの…『あの夜』って…!?」
しかし彩芽が言っているのは、その直後に起きた、別の事件…
それは、彩芽が学校どころか外へ出る事さえできなくなった、直接の原因でもあった。

盗難事件の日の夜、何が起きたのか。
そして亜理紗の両親に捨てられたはずのぬいぐるみを、どうして彩芽が持っていたのか…
盗難事件のあった日を境に、別々の運命を辿ることになった彩芽と亜理紗。
…あれから色々あったのは、アリサばかりではないのだ。

91: 名無しさん :2017/02/25(土) 21:28:59 ID:???
「…ごめん、沙紀…ボクのせいで、こんなケガを……」
「ううん、私の事はいいの。それより山形さん、どうなっちゃうんだろ…」
ストラップ盗難騒ぎのあった直後。
真相は結局うやむやにされ、彩芽の心の中には、亜理紗への疑惑と、無実を信じたい気持ち、
そして何も言わない亜理紗への苛立ちなどが複雑に渦を巻いていた。

「やっぱり…何かの間違いだよ。彩芽ちゃんも言ってたじゃない。
山形さんだって、お父さんから貰った、ネコのぬいぐるみを大事にしてたんでしょ?
そんな人が、彩芽ちゃんの大事なものを壊そうとするなんて…」
「…!……わ、わかってるよ……もう、その話はやめよう…」

…その日の真夜中。彩芽は就寝前のアニメタイム…ではなく、
町はずれのゴミ捨て場の前で亜理紗からのメールを眺めていた。
と言っても、亜理紗は携帯電話を持っていない。
正確には、亜理紗からのメッセージが書かれた、沙紀からのメールである。

[件名]あの後、山形さんが来ました
今回の件で、彩芽ちゃんに話したいことがあるそうです。
時間は深夜2時。場所は……

………………

「…あいつ、夜10時には寝てるんじゃなかったのかよ」
タンクトップにショートパンツという簡素な服装で、彩芽は待ち合わせの公園にやって来た。
世間はもうすぐ夏休みという時期で、夜と言えどもかなり蒸し暑い。

亜理紗を待ちながら、彩芽は事件の事を冷静に振り返っていた。
あの時は亜理紗に疑いの目が集中したが、他のクラスメイトだってその気になればいくらでも犯行は可能だろうし
別の誰かが外部から侵入した可能性だってある。亜理紗が何も言おうとしなかったのも、理由があっての事かもしれない。
…だいたい話があるなら、こんな事をしなくても通学時にいくらでも聞けるじゃないか。
「…って、もう3時半過ぎてる。イタズラか…?…いやでも、沙紀が言ってたんだし…」
彩芽が流石に諦めて帰ろうとした、その時。

「…いたいた。古垣彩芽たん…ボクの『嫁』……グヒヒヒヒっ…!」
…現れたのは、2m近い長身、毛と脂肪の塊に覆われた…まさに『巨獣』とでも言うべき巨体の男。
かつて、クラスメイトの嫌がらせによって、彩芽の物に偽装した偽ラブレターを渡されて以来、
勘違いから彩芽に恋心…いや、彩芽を『嫁』と呼んではばからない、妄想めいた執着心を抱いていたのであった。

92: 名無しさん :2017/02/25(土) 22:34:07 ID:???
「!?…うわああああぁっ!!!な、なんでお前がっ!!??」
タンクトップを引きちぎられ、まだようやく膨らみかけたばかりの、彩芽の乳房がさらけ出される。
…その公園は人気のない町外れにあり、いくら大声で叫んでも、助けが来る気配は全くなかった。

「君の友達から聞いたんだよ。彩芽たんが僕に本当の気持ちを伝えたがってるから、ここに来てくれってね…
今度こそ、キミのファーストキスと処女を捧げてくれるんだろう?…グヒヒ…」
…以前『巨獣』と呼ばれるこの男に強姦されかけた時、「防犯グッズ」のお陰で『最悪の事態』だけは回避したものの、
心に深い傷を負った彩芽は再び学校に通えるようになるだけでも一週間を要した。
地元の公立中学でなく、『棱胳女学院』への進学を志した遠因の一つでもある。

「友達、って……まさか……」
真っ先に浮かんだのは亜理紗の顔だった。だが…絶対にありえない。
あの時、彩芽の事を誰よりも心配し、支えてくれたのは他ならぬ亜理紗なのだから。

脱兎のごとく逃げ出す彩芽。だが日頃の運動不足はいよいよもって深刻で、
脂肪の塊である『野獣』すら振り切る事はできなかった。
彩芽は公園からほど近いゴミ集積場に追い詰められてしまい…ショートパンツを、力任せに引きちぎられた。

「…んぎっ!?」
ゴミの山の上で尻餅をつき、白いショーツを見せつけるような体勢で倒れてしまう。
「下着まで僕の好みに合わせてくれるなんて…さすが僕の『嫁』。ヒヒヒヒ」
すかさず『巨獣』の汗臭い巨体が圧し掛かり、生ゴミ以上に生ゴミ臭い息が耳元に吹きかけられる。
タンクトップを毟り取られ、胸の膨らみ(膨らんでるとは言ってない)からおへそにかけてを巨大な舌が舐め上げていく。
ショーツの中に毛むくじゃらな手が入り込み、前はおろかお尻の穴にまで指を突っ込もうとしている。

…彩芽はそのすべてに身の毛もよだつような恐怖を覚え、抵抗どころか悲鳴さえ上げられなかった。
亜理紗と話すだけのつもりで来たから、護身用の「防犯グッズ」も持っていない。
(やっ……やだっ…怖い……だれか、助けて……!…なんでボクが、こんな目に…)

「彩芽たん、相変わらず処女の味だ…嬉しいよ。上のキスと下のキス、
どっちを先にするか迷っちゃうなぁ…やっぱり両方同時、かなぁ…グヒヒヒ」
ナメクジのような舌が頬にまで這いあがってきた。ショーツが押しのけられ、熱くて硬い物が押しあてられる。
「ひっ……!」
最早はねのける気力すら沸かず、彩芽は『野獣』のなすがままにされていた。その時…

『君は……強姦が大好きなフレンズなんだね』
…ゴミの山の中から、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。

「すごーーい!!」「うぎゃあああっ!?」
「すごーーい!!」「んごおおおお!!!」

こうして、偶然にも亜理紗の「防犯機能付きぬいぐるみ」によって絶体絶命の危機を脱した彩芽。
だが、心に更なる深手を負った彩芽が、再び学校に戻る事はなかった…

93: 名無しさん :2017/02/25(土) 23:44:11 ID:???
「まさか、そんなことが…」
「まぁ、そっちの件については亜理紗を疑ってはいないよ。むしろ防犯ぬいぐるみに助けられたんだから、感謝してるくらいだ」
「…そもそも私は、その日に沙紀さんには会っていません。考えたくはないですが…」
「…考えなかったわけじゃないさ、沙紀が嵌めたんじゃないかってことは。でも、小学校も中学校も違う沙紀があのデブのことを知っているとは思えない。それに、嵌めたにしては指定された時間を一時間半も過ぎてからデブが来たのも不自然だ」
「謎は深まるばかりですわね…」
彩芽達は、『野獣襲来事件』に関してはひとまず棚上げすることにした。

「一つだけ聞かせてくれ、亜理紗。ボクのストラップを壊したのは亜理紗じゃないんだよな?」
「ええ、それは違いますわ。このレイピアに誓えます」
「(武器に誓うって…)お、おう。しかし、それじゃあ一体どうして体育に遅れてきたんだ?あ、話したくないことなら話さなくていいけど…」
「…あの時は、私の安いプライドが邪魔して説明できませんでしたわ。しかし、今なら言えます。私は寂しかったのです。そして怖かったのです…ストレッチで彩芽と沙紀さんが組んで、私が一人ボッチになってしまうのが」
「あ、亜理紗…」

そういったボッチ気質とは無縁の人物だと思っていた亜理紗の告白に、彩芽はどう返せばいいのか分からなくなる。

「彩芽、私から一つ提案があります。一連の事件に関しては元の世界に帰ってから、沙紀さんも交えてゆっくり話して解明しませんこと?ストラップにせよ貴女を襲った男にせよ、こちらでは調査の仕様がありませんわ」
「うーん、そもそも世界が違うし、こっちの世界じゃもっと差し迫った問題もたくさんあるからな」
「例えば、こんな風に突然攻撃されたり、ね」
突如として、黒い旋風が巻き起こり、魔力弾が彩芽を襲う。

「…!」
咄嗟にアリサが彩芽の前に立ち、レイピアで魔力弾を掻き消す。
彩芽とアリサには傷一つ付かなかったが、その間に黒い旋風――柳原舞は既にかなり離れていた。

「今日の所は勝ちを譲ってあげるわ金髪お嬢様!」
「しまった!さっきアイツの身体を調べてる時に、調べにくかったから軽く拘束を緩めたのが仇になったか!」
「な、何をやっていますの彩芽!?」
「でも、せいぜい首を洗って待っていることね!」
「そもそも、亜理紗が急に話しかけてこなければあのままチョーカーを外して完全に無力化できたのに!」
「な、私が悪いと仰るのですか!?」
「私の『ジェットブラックアーマー』は今回の戦闘データでさらに強くなる!」
「だってホントのことだろ!」
「責任転嫁しないでくださいまし!」
「いつかはその綺麗な顔に泥を付けてあげる…って聞きなさいよー!」

わちゃわちゃして話を聞かない2人に文句を言いながらも、捕まらないように全力で逃げる舞。
任務失敗によって教授から何をされるか戦々恐々としながらも、未だ首にしっかりとチョーカーを付けた彼女には、教授に逆らうという選択肢はない。

94: 名無しさん :2017/02/25(土) 23:52:40 ID:???
「はあ。逃げられたか……まあストラップの件も、今となってはどうでもいいか。あの後こはフルも爆死したし…
……ボクが馬鹿だったんだ。アニメの話ができる友達ができたからってつい浮かれて、亜理紗の事、ほったらかしにして…」
ぬいぐるみが捨てられていた理由を調べているうちに、亜理紗が聞いていた以上に過酷な
勉強漬けの日々を強制させられていた事を知ったのは、ずいぶん後の事だった。
「亜理紗の大切な物を…先に壊したのは、ボクだ。…本当に、ごめん」
あの学校でのひと時が、亜理紗にとっていかに大切だったのか…
だが今さらどんなに謝っても、失われた物はもう二度と戻らない。

「…亜理紗も、これからアルガスに行くんだろ?えーと、なんていうか。旅は道連れ、って言うし…」
「……ごめんなさい。私には……そんな資格なんて、ない」
…彩芽が異世界で新しい仲間と出来たのと同じように、アリサ・アングレームにも大切な…家族と呼べる人たちが出来た。
だがそれさえも、理不尽な殺戮によって奪われ…復讐のため、アリサは全てを捨てると決めた。
唯や瑠奈たち、新たな友人の手さえも振り払ってここまで来た。
それなのに今、この手を取るわけにはいかない。…家族の仇を、この手で討つまでは…
「会えて、嬉しかったわ、彩芽……さよなら」

「…え?…この期に及んで、まだそういう事言うの?
 完っ全に和解する流れだったのに。ていうか、どうせアルガスに着いたら嫌でも会うのに」
 立ち去ろうとするアリサ。そこへ、身も蓋もない正論をぶち上げる彩芽。

「…だ、だって……今さら貴女達と一緒に行ったら、唯や瑠奈に悪いっていうか」
「あ、やっぱ他に友達作ってんじゃん!こっちは人間不信で苦しんでたって言うのに」
「何それ、別にそれは私の勝手でしょう!?貴方だってサラさん達と一緒に旅してたんだし、おあいこじゃなくて!?」
「…そうだよ!みんなで旅してるうちに、少しずつ、やっぱり友達っていいなって思えて…
 そこに亜理紗が現れて、一人ぼっちで、なんかコワイ顔してて………ほっとけるわけないだろ!」
「そっ……それこそ大きなお世話だわ!私だってここに来るまでにも散々な目に遭って、
 もう一人は嫌だって思ってたところに彩芽が居て……」
「………」
「…………」
完璧だったアリサのお嬢様口調が、気が付けば完全に崩壊している。
涙目になりながらぜいぜいと肩で息をする二人の傍らで、猫のぬいぐるみが小さくつぶやいた。

『君たちは……ゴメンナサイが苦手なフレンズなんだね』

96: 名無しさん :2017/02/26(日) 00:46:08 ID:???
「はは、そうだな…ボクたちはごめんなさいが苦手な…『フレンズ』だよ」
「ふふ、そうですわね…ついでに、変なところで頑固な『フレンズ』ですわね」
2人は笑いあう。かつてのように、『友達』として。

「亜理紗、君を一人にしてごめん。信じきれなくてごめん」
「彩芽、貴女に心を開ききれなくて、傷つけたと知っていながら逃げていてごめんあそばせ」
「…ていうかなんだよその喋り方。前はそこまでガッツリしたお嬢様口調じゃなかっただろ?」
「はてさて、何から話せばいいのやら…」
「なんか馬鹿にされてるっぽく感じるんだけどその口調!」
「おやおや、何という言い草でありましょうか」
「あ、おい!わざとそれっぽく言っただろ今!」

楽しくじゃれ合う彩芽とアリサ。

「おーい、いつまで話し込んでるんだ?」
「ご飯が冷めてしまうわよ」
「ねぇ彩芽お姉ちゃん、ちじょくってなーに?」
「あ、桜子さん、サラさん…スバル、なんだって?」
「やっぱり置いてくるべきだったか…いやでも、一人でテントに放って置いたら危ないし…」
「ちょっと桜子さん!こんな小さな子に一体何教えてるんだよ!」
「ま、待て!誤解だ!」
「彩芽、これには深い訳がありますのよ」
「みんな教えてくれないんだもん!ちじょくって一体何なのー!?」
「ご・は・んが!冷めてしまうわよ」
「「「「ご、ごめんなさい…」」」」

その後、食事の席で、アリサがアルガスに同行することが告げられたのは、ここに記す必要もないだろう。

95: 名無しさん :2017/02/26(日) 00:40:12 ID:???
「『嫁』の回収に失敗しただと?この役立たずが……もういい。貴様は闘奴に払い下げだ」
骨と皮と毛で構成された2m近い長身、ガリガリに痩せ細った白衣の男…かつては『巨獣』、そして今は『教授』と呼ばれていた。

「そ…そんなっ!『教授』、もう一度チャンスを!サラは圧倒できたんです!次こそアリサ・アングレームを…」
「うるさい。お前は元の黒セーラー服クールビューティJKに戻って、地下闘技場を舞台にスピンオフでもやってろ」
「いやあああぁぁぁっ!!!」
「…さて困った。スーツも更なる強化が必要だし……その間、アルガスの様子も見張る必要があるな」

『教授』は王に連絡を取り、王下十輝星の一人を応援に貸してもらうよう約束を取り付けた。
そしてやって来たのは……
常に陰で暗躍し、人の絆を断ち切るためには手段を選ばず、孤独と絶望とに打ちひしがれる様に無上の喜びを感じるという…
曲者ぞろいの十輝星の中でも、その性根の歪み具合には特に定評のある人物。

「……『リゲル』のサキと申します。よろしくお願いしますわ、『教授』」

普段は「草薙沙紀(くさび さき)」と名乗って現実世界に潜み、
ターゲットの少女たちの友情を破壊し、この世界へ引きずり込む…という非道な任務を嬉々として行っている。
…アルガスを攪乱するには、まさにうってつけの人材であった。

  • 最終更新:2018-01-27 00:30:09

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