10.01.彩芽と亜理紗1

77: 名無しさん :2017/02/19(日) 00:41:54 ID:???

………………

一方、その頃。アレイ平原の中ほどに位置する、『元隠れ家』に、ある人物が訪れていた。
「…この部屋はもう、誰も住んでいないようですわね…今夜はここで休ませてもらう事にしましょう」
金色の髪に白いドレス、腰には豪奢な装飾の施されたレイピアを帯びた少女…名を、アリサ・アングレーム。
「それにしてもこの部屋…妙ですわね」
得体の知れないガラクタやら、なにやら理解不能な機械やらが所狭しと置かれている上、本棚や椅子が倒され荒れ放題。
発明好きなマッドサイエンティストの家に、賊の集団でも侵入したのだろうか。
(……でも、どうしてかしら。妙に落ち着く…)
シャワーを浴び、ベッドに潜り込んだアリサは、眠りに落ちながら、昔の…この世界に来るより以前、
ケンカ同然に別れてしまったままの友人の事を…なぜか思い出していた。

78: 名無しさん :2017/02/19(日) 12:36:46 ID:TGrys3a2
私立棱胳女学院。大都会T県の中でもトップクラスの中高一貫校で、卒業生の女子たちはそのほとんどが弁護士や医者などの国を支える要職に就いている。
当時中学生だった彩芽とアリサはこの学校に入学し、共に学んでいた。

「おはよう彩芽。…今日も眠そうね。」
学院へ至る通学路で、黒いスカートと長い金髪を風に揺らしながら挨拶をする少女…山形亜理紗。
遠目からでも目立つ金髪。小顔に大きな黒い目。そんな彼女が背筋をピンと伸ばして歩く様子は、子供らしい可愛らしさと大人びた美しさを感じさせる。いかにもいいところのお嬢様といった様子だ。

「んあー……おはよ亜理紗。いやー、ちょっと昨日は夜更かししすぎちゃって……」
声を掛けられた方の女子…古垣彩芽は亜理紗とは真逆。皺だらけの制服を着た彼女は背筋を丸くしてダラダラと歩き、眠そうに大きな欠伸を繰り返している。お世辞にも育ちがいいとは言えなかった。

「昨日言ってた深夜アニメでも見ていたの?魔法少女…コバルトブルーだったかしら?」
「魔法少女小春とフルール!もう昨日はマジ神回だったんだよッ!小春たちが悪の親玉を山焼きで倒したんだけど、その影響で野鳥クラブから命を狙われることになっちゃったんだ!普段は落語をしてる凄腕ハンターから小春を守るためにフルールが撃たれて溶鉱炉に沈むシーンが……感動的すぎて……!」
「は……はぁ……」
「そ、それで……!もう朝まで何回も見てたから……眠くて眠くて……ふああぁ……」
「ほら、フラフラ歩いていたら危ないわよ。私に捕まって。」
「あぁ……いつもすまないねぇ……亜理紗や……アンタはいつもシャッキリしてて偉いねぇ……あたしの自慢の孫のだよォ……」
「フフッ、そのおばあちゃんみたいな口調やめてよ。……それにわたしは、いつも10時には寝ているから……」

亜理紗は嘘をついた。彼女が寝る時間はいつも深夜1時である。
そんな時間まで彼女がしていること…それは両親に強要されている、勉強だ。
帰ってきて着替えたら勉強開始。その様子は家に常駐している母が亜理紗の部屋に取り付けられた監視カメラでしっかりと監視する。
父親が8時に帰ると晩御飯。だが両親と一緒に食べるわけではなく、亜理紗の部屋に夕食が届けられるのみ。10分後に食器が回収されるまでに食べ終わらないと、父親の暴力が待っている。
食べ終わると20分の制限時間でお風呂に入り、その後勉強再開。亜理紗の部屋にはテレビも漫画もゲームも小説も携帯もパソコンもなく、あるのは机と参考書のみ。両親がリビングで談笑しながらカメラの映像を見ていなくても、勉強以外のことが許されない環境だった。
深夜1時に母親が様子を見にきた時に寝床についていなければ長い叱責が始まるため、0時50分には寝床につく。
休みの日には8時に起き、もちろん夜まで勉強。放課後に友達と遊ぶことも、休みの日に出かけることも許されない生活だった。

「規則正しく10時に寝るなんてボクには無理だよ。見たいアニメもやりたいゲームもいっぱいあるんだもん。」
「彩芽は…趣味がたくさんあって羨ましいわ。私にはそういうのないから…」
「亜理紗はボクと違って将来期待されてるお嬢様だもんね。僕みたいに放課後遊び呆けてなんかいられないよね……ふあああぁ……」
「…………」
彩芽の言葉に目を伏せる。自分とは全く違う自由な生活を送る彩芽の姿が、亜理紗は羨ましかった。
「……ねぇ彩芽。さっきのアニメの話…もっと聞かせて。」
「おっ、興味出てきた?フッフッフッ、ボクにこはフルの話させたら亜理紗、10時になんか眠れなくなるよ?」
「フフ、それは困るわね……」
亜理紗にとって楽しい時間……それは今のように、通学路や休み時間で彩芽と過ごす時間だけだった。


「……ねえ、アヤリサコンビがまた一緒にいるわよ。はみ出し者同士仲がいいわね。」
「長い金髪とか…アニメかっての。山形亜理紗……親が有名企業の社長だからって、絶対調子に乗ってるわよね。」
「彩芽、うまく取り入ってるようね。小学校の頃はイジメられてたくせに……亜理紗の側にいれば安心だとでも思ってるのかしら?」
汚い声を出して会話を交わすのは、亜理紗や彩芽とはビジュアルのレベルが違いすぎるデブ、ガリ、チビの3人だった。
3人とも棱胳女学院の生徒で亜理紗たちと同じクラス。名前は出無池(でぶいけ)画利山(がりやま)地微田(ちびた)と、そのまんまである。
「ねえ……あの2人の薄っぺらい友情、わたしたちで無茶苦茶に崩壊させてやらない?」
「以心伝心!今わたしも同じこと考えてたー!出無ちゃんまじ神ってるわー!」
「じゃあ、さっそく学校サボってサ◯ゼで作戦会議よ!」

いかにも小悪党の3人だが、この3人の暗躍によって亜理紗と彩芽の友情は文字通り崩壊することになるのである。

79: 名無しさん :2017/02/19(日) 15:59:35 ID:???
「で、具体的にはどうするの?あの2人の弱点とかあるの?」
飲んでいるメロンソーダを口からベチャベチャ零しつつ、ガリヤマがブスイケに尋ねる。
「狙うべきは亜理紗ね。彩芽は昔いじめられてたから、色々と警戒心が高そうだわ。」
「あいつ、イジメで小3から小6まで不登校だったんだけど、小6になって登校するようになってから変な機械使い始めていじめっ子に反撃してきたんだよ。それから直接的にはいじめられなくなって…」
「へー、じゃあ6年からはいじめられてないんだ?」
「ううん!筆箱隠したり、体操着をトイレに突っ込んだり、あいつが書いたようにラブレター偽装したのをデブ男に渡して勘違いさせてた!ギャハハハハハハ!」
「うはwww間接的にってやばたにえんすぎっしょ!」
「しかもそのデブ男マジになっちゃって、その日の放課後彩芽を体育館裏で無理矢理押し倒してキスしたの!!そのあとまた一週間学校来なかったのホント草生えるわwww」
「ゲヒャハハハハハハ!!!チビタまじ外道だわー!」
ゲラゲラと笑う3人。他の客の冷ややかな視線も気にせずドリンクバーだけで居座る3人は、どう見ても進学高の生徒ではなかった。

「でも友情崩壊かー。普通にいじめるんなら楽だけど、あいつらの仲を引き裂くとなると何がいいかなー?」
「普通に亜理紗の財布を彩芽のカバンに突っ込めばいいんじゃね?それをあたしらが暴くとか!」
「それでもいいけどなんか弱いのよねー!てかあいつ金持ちだし、金取られた所でダメージないっしょ。なんかさーあいつらが大切にしてるものとか知らない?」
「…あ!小学の時亜理紗に惚れて以来いつもストーカーしてるキモオタの知り合いがいるから、そいつに聞いてみるわ!」
デブヤマはそういうとすかさずチャットを飛ばした。
「…あ、返信きた。なになに……プッ!」
「見せて見せて!……拙者のお嫁さん予定のマイスウィートハニー亜理紗ちゅわんがバリメチャ大切にしているものは、小さい頃に両親からもらった猫のぬいぐるみだよぉん。ぼく一回更衣室に忍び込んでそのぬいぐるみをペロペロしようとしたところを見つかっちゃって、それ以来口利いてくれない(´・ω・`)ショボーン……だって!」
「猫のぬいぐるみー!?幼稚園児じゃん!普通あたしらJCの大切なものって言ったら洋服とかアクセでしょwwwガキじゃんwww」
お嬢様である亜理紗の意外なファクトに、棱胳女学院のブサイク3人衆は大声でゲラゲラと笑った。

「じゃあさ、いつもカバンに入れてるっていう猫ぬいぐるみをズタボロのギタギタにして、彩芽の仕業にすればオッケーね!」
「それでいこー!今日体育の時間あるし、忍び込めば取れそうね!」
「よーし、亜理紗のメンタルブレイクして、また彩芽を不登校にさせるぞー!」
「おーー!」

80: 名無しさん :2017/02/19(日) 17:27:31 ID:???
そんなこんなで、デブ・ガリ・ブスの3人組は教室に忍び込み…いやブスは3人ともか。
デブ・ガリ・チビの3人組が亜理紗のカバンを開くと…

「お、あったあった。こんなキタナイ猫の縫いぐるみとか、何で学校に持ってきちゃうかなー?いけませんねーフヒヒ」
「つーかコレ、ゲーセンで取るヤツじゃん?もっと高そうなやつ想像してたわwお嬢様とは何だったのかww」
「ところで、彩芽の仕業にするのはいいけど、具体的にどーやんの?」
「『アヤメが斬る!!』って書いた紙を入れとけばいいんじゃね?」
「天才現る!」「マジ頭いい!」「ソレナ!」「トリマ!」
3人のブスは口々に邪悪なJKスラングを発しながら、ゲラゲラと嗤っている…何と恐ろしい光景であろうか!
そして(´・ω・)←こんな顔した猫の縫いぐるみの首根っこを掴み、カッターナイフを振り上げた。
だが、その時。

「ふーん…君たちはドロボウが得意なフレンズなんだね」
「…!?……ブス山、なんか言った?」
「いや、知らないわよ…ブス田が自分で言ったんじゃね?」
「は?何も言ってないし?じゃあ、ブス池でもないわけ…っ!!?」
…ネコの縫いぐるみの爪が伸び、三人に襲い掛かる!!
誰もいないはずの教室に突如響いた、棒のように澄んだ声の主は…なんと、猫の縫いぐるみだった!

「すごーい!!」
「いっぎゃああああ!!」
「すごーい!!」
「ひぎいいい!!」「らめええええ!!!」

…血だまりの中に倒れる三人。後には返り血を浴びたぬいぐるみだけが残された。

「…これで、のけものはいなくなった」

81: 名無しさん :2017/02/19(日) 18:00:21 ID:???
「よし、体育始めるぞー。お前ら二人組作ってー……って、今日は三人も休んでるのか?」

「…はあ。かったるいなー。ボクもさぼろっかな…」
「だめよ彩芽。あなた運動は壊滅的なんだから、せめて出席だけはしないと…」
怪しいストーカー男によるぬいぐるみ盗難未遂事件以来、ぬいぐるみには彩芽の『防犯装置』が仕掛けられている。
だがそのぬいぐるみが今まさに教室で血の惨劇を繰り広げている事を、二人は知る由もなかった。

「古垣、山形。今日は人数半端だから、草薙と3人で組め。…んじゃ、柔軟開始ー!」
…草薙沙紀(くさび さき)。亜理紗と彩芽のクラスメイトで、普段は教室で一人読書していることが多い無口な少女であった。
他人と話している事は滅多にないが、身に纏ったミステリアスな雰囲気のせいか、例の三馬鹿にターゲットにされる事もないようである。

「いだだだだ。アリサ、もうちょい優しく…『命が!しんでしまうー!!』」
「は?何言ってるの彩芽…いくら何でもカラダ固すぎですわよ?」
彩芽は床に座り、膝を伸ばし、足を開いて前屈…の前に、まず膝が伸びない。
亜理紗が力任せに背中を押してもビクともしない…人間の身体とは、極めればここまで硬質化するものなのか!
「フフフ…『命がなくなったら生きていけないぜー!!』…でしたっけ?」
「え…草薙さん!?…その台詞、もしかしてフルールの……」
「昨夜はホント、神回でしたよね…あそこから小春が落語を利用して逆転する場面とか」
「あれすっごいよねー!!時そばでハンターの残弾数を間違わせるとか、ホント頭わるい!いい意味で!」
「『いい意味で』!」「「『最悪!』」」
「あ、彩芽…?…草薙さん…?」
…盛り上がる二人をよそに、すっかり置いてきぼりにされている亜理紗。
この日をきっかけに、亜理紗と彩芽は沙紀と仲良くするようになり…
だがそれと同時に、二人の歯車は徐々に狂い始めていく。
一方ブス三人組は静かに息を引き取った 。

「しんでねーよ!」
「退学になっただけだよ!」
「考えてみりゃ体育休んでるのがウチらしかいない状況でドロボウ入ったらそりゃバレるよ!」

82: 名無しさん :2017/02/19(日) 20:52:53 ID:???
「いやー!昨夜の『こはフル』も最高にヒドかったねー!もうボク、あのアニメが魔法使うの諦めたよ!」
「神回(物理)って感じでしたよねー!でも最後の小春のセリフは、ホント感涙モノでした…」
「「『視聴者がじゃぶじゃぶ円盤買いたくなるような購買欲を煽りまくる名言!』」」
(は…話に全くついていけない…)

それから三人は、揃って登下校するようになった…だが、亜理紗は未だかつて感じた事のない孤独感に包まれていた。
一事が万事この調子で、三人一緒に行動してはいても、彩芽は亜理紗をそっちのけにして朝から放課後まで沙紀と話し続ける。
沙紀は気を使って亜理紗に話を振りはするのだが、話題のほとんどがアニメ・ゲームであるため、亜理紗には理解不能なのだ。
いつしか亜理紗の笑顔は消え、口数もめっきり減り…集中力を失ったためか、成績もガクリと落ちた。

逆上した両親は、亜理紗を毎日のように罵倒し…
「大体どこで買ったか知らんが、(´・ω・)←こんな物を持ち歩いてるからお前はダメなんだ!」
「そ、そんな…それは昔、お父様が……」
「亜理紗、口答えするんじゃありません!もっと勉強時間を増やさないと…学校も、明日から車で送り迎えさせましょう」
…まるでドミノ倒しの様に、亜理紗の大切にしていた日常は崩れていった。
そしてある日、決定的な事件が起きる。

「…ああああっ!!ボクの大事な…小春のストラップがぁぁぁ!?」
体育の時間が終わり、教室に戻った彩芽は、自分のカバンに付けていたストラップがなくなっている事に気付いた。

彩芽の今期一推しアニメ「小春とフルール」…放送開始当初は見向きもされていなかったが、
回を追うごとに徐々に人気に火が付き、今や関連グッズはどこに行っても品切れ状態。
沙紀のカバンについたフルールのストラップと合わせると、ネットオークションで5桁程の値段が付くらしい。

「…はいはい、どうでもいいから早く着替えなさい。いちいち大げさなんだから…」
「何言ってるんだ亜理紗!これはれっきとした盗難、いや誘拐事件だぞ!?」
「ま、まあまあ山形さん。ただのストラップに見えても、彩芽ちゃんには大切な物なんですから…」
狼狽する彩芽、冷たくあしらう亜理紗。険悪な空気になった二人を沙紀がなだめる…
いつの頃からか、こんな事が増えてきていた…だがいつにも増して緊迫した空気に、他の生徒たちもざわつき始める。

「…大体、亜理紗だって人の事言えないだろ!カバンの中に、ヌイグルミなんて入れ…え…!?…」
…彩芽が亜理紗のカバンを開けると、そこにあの猫のぬいぐるみはなく…
ボロボロに壊れた、小春のストラップの残骸が入っていた。

83: 名無しさん :2017/02/19(日) 22:57:38 ID:???
「な……!?」
「う、ウソ…!なんで山形さんの鞄に、古垣さんのストラップが…!?」
「おい亜理沙!これは一体どういうことだ!」

突然の騒ぎに、教室がざわつく。

「ねぇ、一体何の騒ぎ?」
「古垣さんの大事にしてたストラップが、山形さんの鞄にボロボロの状態で入ってたんだって」
「え!?そんなの山形さんが犯人で確定じゃん!仲良さそうに見えたのに…お嬢様って怖いねー」

「ちょ、ちょっと!わ、私は知らないわよ!」

好き勝手に騒ぎ立てるクラスメイト達に負けないよう声を張り上げて否定するが、クラスのざわつきも、彩芽達の疑わしげな視線は一層強くなる。

「そういえば最近、山形さんってちょっと浮いてたよね。草薙さんが古垣さんと仲良くなった頃から…」
「え、それじゃあ動機もばっちりってこと!?」
「『私と仲良くしてくれないアンタなんか嫌いよ!』ってこと?」
「小学生の頃のアンタじゃん(笑)クラス替えした途端にそっけなくなっちゃってさ」
「そ、その話はもういいでしょ」
「ちょっと待って、2人組作ってストレッチする時に、山形さんいなかったわよね?」
「証拠も動機もあってアリバイがないなんて、やっぱり山形さんが犯人で確定じゃん!」

そう、今日の体育の時間、亜理紗は遅れてきた。そして亜理紗以外のクラスメイトは、インフルエンザで欠席している一人を除いて全員時間通りに授業を受けていた。

「そうだよ亜理紗!なんでストレッチの時にいなかったんだよ!」
「き、きっと、何か理由があったんですよね、山形さん?」
「そ、それは……」

それは、今日はクラスメイトが偶数で、ストレッチの時に自分がのけ者にされるのが怖かったから…。
お嬢様育ちで相応にプライドも高い亜理紗には、そんなことは言えなかった。

「なんで、なんで黙ってるんだよ!なんか言えよ!」
「……!古垣さん!だめ!」

それから先のことは、よく覚えていない。
彩芽が拳を振り上げたこと、沙紀が自分と彩芽の間に入ってきたこと、クラスメイトの騒ぎがより大きくなったこと、先生が入ってきて、頬が赤く腫れた沙紀を保健室に連れていったことは、断片的に覚えている。


そして彩芽は、学校に来なくなった。
数日の間ガーゼを貼って過ごすことになった沙紀とは、全く話さなくなった。

亜理紗は、ひとりぼっちになってしまった。



◇◇◇◇◇◇◇◇




「……嫌な夢を見てしまいましたわね。最初の方はいい夢でしたのに」

『元隠れ家』での眠りから覚めたアリサは、ため息をついた。
あの後、虚無感に包まれたまま学校生活を送り、そうこうしているうちにこの世界に連れ去られ今に至るということだ。


「……それにしても、あの事件の犯人は、一体誰だったのかしら」

結局、亜理紗の両親の権力を恐れた学校は、あの事件を大事にしなかった。
真犯人は未だ分からず仕舞いである。

「彩芽…沙紀さん…」

2人に会いたい。会って誤解を解きたい。そして何より、謝りたい。
あれはきっと、自分の心の弱さが招いた事件。
自分の心が強ければ、アニメの話が分からないから黙りこくってしまうのではなく、もっと三人で仲良くしようとしていれば。
彩芽が心を痛めることも、沙紀が怪我をすることもなかった。

「…いまは感傷に浸る時ではありませんわ。早くアルガスに向かわないと」

  • 最終更新:2018-01-26 00:28:21

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