09.02.回想2

57: 名無しさん :2017/02/04(土) 14:57:03 ID:???
「キシャァアアァァァァ……」
「今度のは…また随分てんこ盛りね。頭はクワガタ、両手はカマキリ、尻尾はサソリで…」
森の奥に進むにつれ、魔物の姿は強さとおぞましさを増し、標的の居場所に近づいている事を確信するドロシー。
そして今対峙している、洞窟の入り口を守る異形の怪物は…恐らくは邪術師の住居を守る門番だろう。

「ガアアアァッ!!」
6つの複眼がドロシーの動きを正確に捉え、2本の鎌が息を吐かせぬ連続攻撃を繰り出してきた。
身を伏せて横薙ぎの一撃をかわすと、背後の大木がバキバキと音を立てて倒れる。
少しでも隙を見せれば、即座に猛毒の針が頭上から打ち込まれ、うかつに飛び込めば大顎に迎撃される。
硬い外甲殻は刃を通さないだけでなく魔法にも耐性があるのか、牽制で放った風の刃はあっさりと弾かれた。

「はあ。今までのザコよりはましだけど……」
並みの戦士では100人がかりでも相手にならないだろう凶悪な怪物を前にして、
なおドロシーの表情には動揺も焦りも全く見られなかった。
鎌の連続攻撃は確かに速いが、あまりにもリズムが単調過ぎて…
「…欠伸が出る」
ドロシーが横に鋭く刃を一薙ぎすると、怪虫の腕が二本まとめて両断された。

「ギッ……!?」
腕関節の継ぎ目を正確に両断されれば、どんなに硬い装甲も意味を為さない。
ドロシーは動きの止まった怪物の尻尾を切り落とし、首を刎ね…大きく跳躍し、手にした鎌を大上段から振り下ろす。
「…これで、終わりよっ!!」
2m以上ある怪物の胴体は真っ二つに両断された。

「この分じゃ…はぁっ…はぁっ…邪術師ってやつも、期待外れかしら…」
小休止を取りながら、洞窟の様子を窺うドロシー。
苛立ちに任せて強引な戦いを続けてきたため、いつもより体力を消耗していた事に気付き、
その大元の理由…エスカや他の仲間達の事を思い出していた。

「あいつら…何が十輝星だ。あんな奴らと、私は違う……王様なら、きっと私の事をわかって……」
(じゅるり…!)
…それ故に、気付くのが遅れた。切り落としたはずの魔虫の尻尾や首が起き上がり、飛びかかってきた事に。
邪術によって生み出された魔物の生命力がいかに凄まじいか、ドロシーが知らなかったのも無理はない。
エスカの占いを切り捨てた時点で、ある意味ドロシーの運命は決まっていたのだ。

「きゃあああああぁっ!!」
「ぐちゅっ……」「じゅるるる……!」
怪物の腕や尻尾の切断面から新たに生えた無数の触手が、ドロシーの四肢を絡め取る。
鋭い大顎がドロシーの首を切り落とそうとする寸前、なんとか両腕で受け止める事はできたが…
少女の腕力では押し返すことが出来ず、死の刃はじりじりと閉じられていった。

「こ、の…おっ……あ、ぐっ……!」
棘だらけの刃がドロシーの掌に喰い込み、鮮血がしたたり落ちる。
足元の鎌を拾い上げたいが、一瞬たりとも両手を離す事はできそうにない。
そして更にまずい事に、両手が使えない今、ドロシーは残る敵…
二本の鎌腕と、毒蠍の尻尾に対して、完全に無防備になってしまっていた。

「くっ…こんな奴に、やられて、たまるかっ…!!」
ドロシーは泥だらけになりながら地面を転げまわり、必死に両脚で蹴りを放って鎌腕を追い払う。
だが、毒針尻尾はドロシーの身体にぎっちりと触腕を絡めて離れず、
人間の指程に太い毒針の先端をドロシーの臍のすぐ下に押し当てる。
毒…待ち伏せや不意打ちと並んで、ドロシーが戦いの場において最も嫌悪するものの一つであったが、
邪術によって生みだされた知性なき魔虫が、そんな矜持を解するはずもなかった。

58: 名無しさん :2017/02/04(土) 18:55:48 ID:???
「あぐぅっ…!?んやああああああッ!!!」
光の刺さない森の中に、ドロシーの悲鳴が激しく木霊する。
ドロシーを捉える尻尾からさらにまた尻尾が生え、先端からドロシーの顔に緑色の煙を放出したのだ。
「うぅっ…!?なにこれ、臭っ!!!うええぇっ!ゴホッゴホッ!」
その強烈な異臭は筆舌に尽くしがたいもので、咳き込むドロシーの瞳に大粒の涙が滲む。
その様子を見て魔虫は勝ちを確信したのか「ギッギッギッ…」と不敵に笑う。
まるで自分を馬鹿にしているようなその姿が、負けず嫌いであるドロシーの内なる闘志に火をつけた。

「ぐっ……!虫風情が…私に勝てると思うなッ!!!」
ドロシーの気迫は突発的な強風を起こし、魔虫の体は大きく吹き飛んで大木へと叩きつけられた。
「ンギイィィィイィ!?」
「ふん!王下十輝星デネブの私相手に、あんたみたいな汚い虫が勝とうなんざ100年早いのよッ!」
そう叫びながらドロシーは風の鎌を作り出し、持っている鉄の鎌を右手に、風の鎌を左手に持ちながら魔虫へと踏み込んだ!

「グリム…リーパー!!!」

2つの鎌を大きく二度振り回して薙ぎ払う、ドロシーの必殺技が見事に炸裂。その小さな体からは予想もつかないほどの激しい攻撃に、魔虫は大きく体を仰け反らせた。

「からの…!ウィンドブレイドッ!」

トドメの一撃は、魔力を帯びた風による凄まじい鎌鼬。魔法に耐性のある外甲殻も、鎌の攻撃で引き裂かれたためその効果を発揮できなかった。

「ギイィィィイィィィィィィィ……!」
魔虫の体は鎌と風の連撃であっという間に微塵切りにされ、再生することもなくその命は潰えた。
(ふぅ…ちょっと手こずっちゃったわ。この程度の相手にだらしなく悲鳴を上げてしまうなんて…私もまだまだね。)
乱れた衣服は風でしっかりと伸ばし、ついている泥も一緒に風で弾き飛ばす。
戦闘前と同じ状態に戻ったドロシーは、バラバラになった魔虫を踏まないように邪術師の館へと侵入した。

  • 最終更新:2018-01-25 23:09:18

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