07.13.撤退

44: 名無しさん :2017/01/27(金) 02:52:43 ID:???
「どういう事だ…あいつら、どこにも居ないぞ」
「竜殺しのダン」こと酒場の主人が、唯達が居なくなった事に気付き地下水路を探していると……妙な敵に遭遇した。

(おっ)(さん)(だ)
「な、なんだ?あのバカでかいスライム…!…あれは…」
通路を塞ぐほど大きなスライムの群体。
その身体の中に、見覚えのあるブローチが漂っているのが見えて、嫌な予感が頭をよぎった。
考えたくはないが、もし唯達がこれに襲われたとしたら…
(おとこは)(とかしたくない)(ちじょうに)(にげろ)
「…おいっ!待ちやがれ!!」
ダンはわらわらと逃げ出すスライムを追いかける…

…ちょうどその頃地上では、リムリット率いるルミナス主力部隊が戦線を離脱。
地上から城を攻め立てていた魔法少女達は、魔物の軍勢の追撃をかわすべく撤退戦を繰り広げていた。

………………

「…ああっもう!次から次へとキリがないわ!こっちが攻めてる時はチョロチョロ逃げ回ってたくせに…」
カリン・カーネリアン…魔法少女ブレイジングベル。
経験は浅いが素質は高く、火炎を操る術に長ける。カナヅチなのが珠に瑕。

「…お城は崩れちゃうし、すごく強くて邪悪な魔力を感じるし…一体上で何が起こってるっていうの…!?」
フウコ・トキワ…魔法少女エヴァーウィンド。
カリンと同じく今回が初の実戦で、風を操る術が得意。近眼のため、変身後もメガネを掛けている。

オレンジとグリーン、二人の魔法少女は大通りに密集した魔物の部隊と交戦していた。
だがその時、足元から無数の邪悪な視線。
そこかしこのマンホールや排水溝から緑色の粘液が大量に溢れ出し…

「きゃあぁっ!地下から…」「な…何これっ!?スライム!?」
(わーい)(つかまえた)(いただきまーす)(しましまー)(こっちはぴんくだー)
魔法少女たちの足元はあっという間に水浸し…スライム浸しになってしまった!

「きゃああああっ!!?ダメダメダメダメ、そこはダメええええ!!」
「いっ…いやっ……待って…放してえええ!」
不定形の粘液が無数の人の手や顔、触手に変化して襲い掛かる。

…両脚をスライムで固められてしまった魔法少女達は、空中に逃れることも出来ない。
フウコやカリンのようなスカート型の衣装は魔法少女の衣装としてはごく一般的であるが、
このように足元からの攻撃には非常に弱い、という弱点を抱えていた。

ところで、以下は全くの余談ではあるが…

魔法少女の衣装は一見ヒラヒラのペラペラに見えても
物理的・魔術的・精神的な攻撃に対して強固な防御力を持っている。そういうものである。
肌が露出している部分も少なからずあるが、そういった部分も魔力によって守られている。そういうものである。

だが変身シーンを注視していればわかるが、スカートの内側…みんな大好き例のあの布は、
変身時にも消滅せず残ったままだったりする。すなわち、パンツだけは変身後も自前、という事になる。

その部分だけは魔力の加護を持たない普通の布であり、その薄布を隔てた向こう側は…言うまでもなく最大の弱点。
故に、敵は徹底的にそこを狙う。たとえ攻撃できずともガン見する。
そして彼女達は、何があってもそこを死守しなければならない。なのでヤられるまえに殺る。ていうか見たら殺す。

そういうものなのである。

「こっのお…上等じゃない。フウコ!アレをやるわよ!」
余談の間にたいへんなことになってしまい、怒りを燃やすカリン。
「わ、わかった……いくよ、カリンちゃん!」
同じくとってもたいへんなことになってしまい、堪忍袋の緒が切れたフウコ。

炎と風の魔法少女は、一気に状況を打開するため…奥の手を出した!

「灼熱!」「疾風!」「「合成魔法・フレアトルネード!!」」

45: 名無しさん :2017/01/28(土) 14:03:42 ID:???
カリンとフウコの放った熱風は変身したスライムをまとめて焼き払い、足を拘束してパンツを眺めていたスライムたちも、恐怖に戦き逃げていった。
「久しぶりに合成魔法使ったけど、なんか威力上がってない?フウコの魔力また大きくなった?」
「そ、そんなことないよ!カリンちゃんの方が私よりおっきいよ!絶対っ!」
「いや、私の方がおっきいのは知ってるけど、フウコもかなりおっきくなったねって言ってるの!」
「…カリンちゃん、さりげなく私よりおっきいこと自慢しないでよぉ!わたしたちは同じくらいでしょ!」
「そうかなぁ…ま、2人とも成長期だならおっきくなったってことにしとこうか!」


カリンとフウコたちが王都を脱出する様子を、トーメント王は城のバルコニーで頰の腫れをさすりながら眺めていた。
「王様、お怪我は大丈夫ですか?かなり腫れていますが…」
「問題ない。瑠奈の奴め…あいつはもう一度とっ捕まえるか。洗脳なぞしないまま、毎日ゴキブリと便所コオロギを食わせてやる…!」
王の頬の腫れは瑠奈の全体重を乗せた蹴りによって出来たもの。不意打ちだったとはいえ、久しぶりの強い痛みに王は顔をしかめていた。
「王様、フォーマルハウトのエスカ様ですが…報告によると魔法少女たちと共に王都を出ていったようです。さすがに未来予知能力を敵に奪われると、まずいのでは…?」
「フン。問題ないさ…」

王がエスカを幽閉していた理由…それは王城の地下で輝くトーメントクリスタルにある。
ルミナスにあるセイクリッドストーンとと同じく、対象者に魔力を供給する魔石で、その対象はエスカだった。
その魔力を受けられる物は4代目ルミナスであったエスカのように、強い魔力を持つものに限られる。
ルミナスの帽子のような魔力を受け取るアンテナがないため、対象者が王都から離れるとこの能力は使えなくなる。これらは王しか知らない真実であった。

「ルミナスの帽子を奪えただけでも上出来だろう。それより、奴らに破壊された王都をさっさと元に戻しておけ。」
「はっ!思ったよりも被害は大きくなりましたが、奴隷共に鞭を打って復旧は一週間ほどで終わらせます。」
「それと、アルタイルを連れてこい。エスカがいない今、王都には奴の絶対防御魔法が必要だからな…」

46: 名無しさん :2017/01/28(土) 15:00:47 ID:???
(ぎゃわー)(ひぎー)(らめええ)
周囲のスライム達を根こそぎ焼き払う、強力な炎の竜巻。
その絶大な威力と攻撃範囲は、上級クラスの魔法少女にも匹敵する。
「ふっ…私達を怒らせた報いよ!」「…えっちなのはいけないと思います」
新人魔法少女の二人が扱うにはあまりに強力な魔法…その制御を可能としたのは、
二人の優れた資質と、強い絆…そして「お気に入りの一枚」を台無しにされた激しい怒り!

「お、やるなぁ新人…よし、残りはアタシが一気に片付けてやるぜ!」
「「きゃあああっ!!」」「あ、あれは…ら、ライカさん…!?」
何とかスライムを殲滅したものの、ボロボロになったスカートを押さえて
モジモジしている新人2名の間を、一陣の風が駆け抜けた。

…すらりとした長身、やや癖のある赤毛で、前髪が大きく跳ねている。
装備はレオタード型のインナースーツに、ジャケット、ロングブーツ…そして金属製の手甲。
彼女の名はライカ・リンクス…格闘を得意とする魔法少女であった。

「ギヒヒッ!なんだアイツ!一人で突っ込んで来るぜ!」
「あんなドエロいハイレグスーツなんか着やがって…完全に誘ってやがる!」
「…ゲヘヘッ…速攻でひん剥いて、あのバインバインなデカチチにかぶりついてやるぜぇ…!」
街の入り口の門を塞ぐように待ちかまえるのは、リザードマンや獣人などの混成魔物部隊…
その大部分は、王都の「平均的」一般市民、および城の衛兵などから改造された人造魔物であった。
ベースとなった人間の歪んだ欲望と狡猾さが残っている分、調子に乗せると通常の魔物以上にタチが悪い存在である。

「フン。どいつもこいつもスケベそうな面並べやがって…アタシの極光体術で、片っ端からぶっ倒してやるぜっ!!」
閃光のような左ジャブの連打でゴブリン達の機関銃掃射を捌き…
「たああああっ!!!」
連続回転しながらの回し蹴りで、盾を構えたリザードマンの集団を文字通り「蹴散らして」いく。

「グロロロッ!?…バカナ…『教授改造ガチャ』の最上級レア『ドラゴンナイト』の俺様ガ…!」
「…今日は特別サービスで見せてやるよ。こいつが師匠直伝の……」
そして嵐のようなコンビネーションから放たれる必殺のフィニッシュブローは…
「魔拳『竜殺し』!!」
「グロロロォォォッ!!」
分厚い鎧に身を固めた巨大竜人を吹き飛ばし、閉ざされた鉄の街門もろとも叩き壊した!

ライカ・リンクス…魔法少女ワイルドストライカー。火炎や雷撃などの直接的な攻撃魔法は苦手とする彼女だが、
魔力によって身体能力を強化する事で圧倒的な近接戦闘能力を発揮するのだ!
「…すっ……」「ごい…です…!」
鬼神のごときライカの戦いぶりに、フウコとカリンは思わず驚嘆のため息を漏らした。

「へへへー…そんなにすごい?何ならお前ら、弟子にしてやろうか。
アタシの地獄の特訓についてくる気があるなら、ゆくゆくは『三代目竜殺し』の称号も…」
「い、いえ!なんか遠慮します!」「私たちには無理です!いろんな意味で!」
スカートを押さえながら後ずさる二人。少なくとも今の二人のあの動きは危険が危ない過ぎる!

「あ、そう?…なーんだ。残念だなー。…どっかにイキのいい新人いないかなー?…」
既に脳内では二人のための地獄の特訓メニューを計画していたライカは、落胆の表情を浮かべた。
魔法少女の育成担当も務める彼女の鬼コーチぶりは、
養成学校(キャンディの奪い合いはしません)でも語り草となっていたのだ…!

47: 名無しさん :2017/01/28(土) 18:40:52 ID:???
「…っていうわけで。子供の頃、村を竜に滅ぼされた私を助けてくれた
『竜殺し』のオニイサンが、格闘戦のコーチとしてルミナスにやって来たわけ」
「何ですかそれー!運命の再会じゃないですかー!!」
「めっちゃ甘酸っぱいじゃないですかーー!!」
「いやー…べ、べつにそんなんじゃないって!(てれてれ)」

他の魔法少女の脱出を助けるため、開かれた城門を守るライカ達。
本来撤退戦における『殿軍』とは、自らの命を捨てて敗走する味方を守る、という命懸けの役割なのだが。
敵の追撃がひと段落したので、暇に飽かせてガールズトーク…
それも最高レベルの喰いつき度を誇る鉄板ネタ、いわゆる「コイバナ」に花を咲かせていたのであった。

「…あーもう!この話はおしまい!そろそろ撤収しようぜ!
 あ、言っとくけど、別にその後どうにかなったりはしてないからな…ちょっとしか(てれてれ)」
「いやーー!!ちょっとってなんですかー!!」
「めっちゃ甘酸っぱいじゃないですかーー!!……って。あ……う、後ろ…」
いち早く異変に気付いたのは「全自動めっちゃ甘酸っぱいマシーン」と化していたフウコだった。
いつの間にか、ライカのすぐ背後に巨大な人影が迫っていて……

「……やっぱり、お前だったか…久しぶりだな、ライカ」
「…あ、あれ?……師匠?」
「え……師匠?」「ってことは…」
…さっきのトカゲ獣人並にガタイの良い、このコワモテのおっさ…おじさまが、
あの超甘酸っぱい『竜殺し』のオニイサンの成れの果…いやその。
「なんでこんな所に!?…こ。これがその…う、運命の再会って奴かなー?(てれてれ)」
「「ええぇぇぇえええ…」」

………

「……篠原唯って子とその友達は、ルミナス王国で保護してくれるってさ」
「そうか…ならひとまずは安心だな。そいつらの事、よろしく頼む」
魔力通信で唯達の安否を確認し、ダンは安堵の息を吐いた。

「それは構わないけど…師匠はこれからどうするの?…そうだ、よかったらまたルミナスに…(てれてれ)」
「あ、私ら撤収しますね…」「どうぞごゆっくり…」

カリンとフウコは色々と限界だったため、乾いた愛想笑いと共にその場を離れた。
従って、ライカがあの場でどんな事を話していたのかは定かではない。

  • 最終更新:2018-01-25 23:59:12

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