07.07.決別

26: 名無しさん :2017/01/08(日) 14:11:36 ID:MftVfH7s
その頃、意識を取り戻した唯たちは下水道で戦争が終わるのをじっと待っていた。
酒場の主人、竜殺しのダンは地上の様子を見にいくと言って潜伏場所を離れている。

「ダンさん、大丈夫かなぁ?」
「先ほど敵に襲われた時は、覇気で追い払うほどの実力でしたし…問題ないと思いますわ。」
「覇気でって…ちょっと規格外すぎでしょ。まぁあの顔面を初めて見た時からヤバそうだとは思ってたけど…」
初めてあった時のインパクトは凄まじいものだった。身長2mほどの大柄な体格、スキンヘッド、つり上がった不機嫌そうな目、服の上からでもわかる戦闘に特化した体…明らかにそのスジの人でたる。
瑠奈は最初ついていきたくないと駄々をこねたが、他の奴に捕まると危ないと言われ強引に連れ去られたのであった。

「そんなことより…いつ終わるかもわからないこの戦争が終わるまで、2人はずっとこんなところで待機しているつもりですの?」
アリサが長い金髪を短く結びながら2人に質問した。
「だって…それ以外にできることなんかないよ。できればこの街から離れたいけど、この下水道の道も全然よくわかんないし…」
「唯の言う通りよ。あまり動き回らないほうがいいわ。あのおっさんに守ってもらいつつ、元の世界に戻る方法を探しましょ。」
「なるほど…じゃあわたくしが、元の世界に戻る方法の手がかりを知っていると言ったら?」
「「え?」」
アリサの言葉に、2人とも目が丸くなった。

「わたくしが囚われていた頃に衛兵が話していたんですけれど…大国アルガスではわたくしたちのような異世界人が集められているそうですわ。」
「そうなんだ…なんでみんな集まってるのかな?」
「そこまでは聞けませんでしたわ。でもおそらくみんな、わたくしたちと同じように元の世界に戻りたいはず…きっとなにか手がかりがあると思いませんこと?」
「そうね。ぜひ行ってみたいわ。でもここから近いの?」
「いえ……陸路で行くのならば、アレイ草原、ゼルタ山地、レミア洞窟という3つの場所を超える必要がありますの。…おそらく2日3日でいけるような距離ではないと思いますわ。」
「わあぁ、なんかゲームみたいだね!楽しそう!」
「どこがよ……むしろ鬱になるわ……」

「でも、わたしたちだけだと不安だよね…おじさんにも来てもらえないかなぁ?」
「それとなく一緒に来てくれるか聞いてみましたら、危険だからお前らは当分俺の酒場で匿うって言われてしまいましたわ…」
「まあ、私たち一文無しの女の子だし、普通の人は保護しようとするわよね…てことは今がチャンス?」
瑠奈の言葉を聞いたアリサは、ゆっくりと立ち上がった。

「食料もこの落ちてたバッグに詰め込んでありますわ。あとは貴方たち次第…もし2人がわたくしを止めると言うなら、リコルヌを抜いてでも推し通りますわよ…」
「「……!」」
元の世界に戻る手がかりを得たいのはもちろんだが、アリサが他の2人と違うのは、この世界で育ての親の仇を必ず取るという強い意思がある。
唯と瑠奈が放心しているときにアルフレッドに出くわしたことが、その意思を強く…否、少し暴走させているのだ。
アリサの強い意思を感じさせる目に、2人は少したじろいだ。
「ど、どうしよう瑠奈…!アリサ本気だよ…?」
「…わたしは賛成できないわ。いくらなんでも今の私たちでそんな過酷な旅が出来るわけがない。あのおっさんに匿われながら、この世界の情報をもっと集めるべきよ。動くならそれからにした方がいい。」
「…確かにそうですわね。でもここは王都、あの男のお膝元ですわよ!?すぐに捕まってもおかしくない…!また捕らえられて、この地下水道で牢に入れられて永遠に拷問されるのは、わたくしは絶対に嫌ですわ!」
「だからって…!ねぇお願いアリサ、落ち着いて。何かあったの!?」
「何もありませんわ!早くしないとあのおじ様が戻ってくる…!2人が来ないというのなら、わたくし1人で行きますわっ!」
「ま、待って!1人じゃ危ないに決まってるでしょ!?アリサ、今のあなたは変よ!!お願いだから落ち着いてっ!!」
「うるさいっ!瑠奈っ!そこを退きなさいッ!」
「……!」
アリサは宝剣リコルヌを抜き、瑠奈に襲いかかった!

27: 名無しさん :2017/01/09(月) 13:09:35 ID:???
「はああああああっ!」
「る、瑠奈!危ないっ!」
光輝く宝剣を大きく振るい、瑠奈の足を狙って切り払うアリサ。太刀筋を見切った瑠奈は素早く跳躍して向き直った。
「ちょ、ちょちょ!?あんたバカじゃないの!?こんなことやめなさいッ!!」
「今のは警告ですわ。まだわたくしの邪魔をするというなら、たとえあなたたちでも容赦はしない…!」
アリサはゆっくりと剣先を瑠奈に向けた。
「ふん、剣持った途端調子付いてなんなのよ?言っておくけど、私も唯もめちゃくちゃ強いわよ?今のうちに早く謝んなさいっ!この暴力女!」
「る、瑠奈!そんな言い方はやめてよ!」
「…そんな安い挑発には乗りませんわ。わたくしはあなたとおしゃべりしたいわけではありませんの。早くそこを退きなさい。」
「なによその態度…!温室育ちのお嬢様には協調性っていうものがないようね!1人でなんでもできると思い上がってんじゃないわよっ!」
「…これが最後でしてよ。そこを退きなさい。瑠奈。」
ヒートアップする瑠奈とは対照的に、表情を崩さず淡々とした口調を続けるアリサ。その様子を見た瑠奈の怒りのボルテージは最高潮に達した。
「聞く耳持たないってわけね…もう怒ったわ!あんたには私の鉄拳制裁が必要のようねッ!」
頭に血が上った瑠奈はピョンピョンと跳ね、手と足をほぐし始めた。
アリサはゆっくりと、剣を構え直す。
「…わたくしは絶対にあの男に捕まるわけにはいきませんの。申し訳ないけれど、少し動けなくなってもらいますわ!」
「やれるもんならやってみなさいよ!あんたこそ、後で泣いても知らないからね!」
目線を交わし、お互いの意思を確認した2人は勢いよく駆け出した。

「瑠奈ちゃんキーーーック!」
「はっ!」
凄まじいスピードで繰り出された瑠奈の飛び蹴りを、アリサは剣でガードした。
そのまま瑠奈の足を振り払い、鳩尾に剣の柄を叩きつける!
ゴガッ!!
「うあああぁぁっ!」
鈍い音とともに悲鳴が上がり、瑠奈は叩かれた場所を抑えながら後方に飛んだ。
「瑠奈っ!だいじょうぶ!?」
「ぐうっ……あぐあぁっ……ぐうぅっ……!」
多くの交感神経が走る急所を叩かれた瑠奈は、強い痛みに苦しそうに喘いだ。
「頭に血が上った状態で突っ込んでくるからですわ。」
「まだ……まだよっ!はあああああぁぁっ!」
痛みを感じながらも走り出し、アリサの振り上げた剣の間合いに入る瑠奈。空手技「柄取り」で振り下ろされるアリサの剣を奪おうとするが…
「甘いですわっ!」
ガッ!
「がはああぁっ!」
振り上げられた剣は降ろされることなく、代わりに放たれたアリサの回転蹴りが瑠奈の鳩尾にまたもクリーンヒットした。
体勢を崩した瑠奈に、アリサはまたも剣の柄を鳩尾に叩きつける!
ガンッ!
「うがああああああぁあぁあぁぁぁぁっ!」
絶叫しながら吹っ飛んだ瑠奈は地面に叩きつけられ、鳩尾をぎゅっと抑えながら体を丸くした。
「ぐうううっ…!がはっ…!うぁ…!」
「瑠奈ああぁっ!」
急所に3発も重い一撃を喰らい、激痛に悶えながら目に涙を浮かべる瑠奈。その痛ましい姿からアリサは目を背けた。

「…もういいでしょう?助けてもらったことには感謝しているけれど、2人がわたくしに無理に関わる必要はありませんわ。」
「ぐっ……!なんでそうなるのよ……!わたしたち、友達でしょ……?」
「……え?友達……?」
「そ、そうだよ!わたしたち3人で一緒に、元の世界に戻る方法を一緒に見つけようよ!アリサだけいなくなるなんて嫌だよぉっ!」
「………………」
唯と瑠奈の言葉に目を伏せるアリサ。家族以外のつながりなど、幼少期の友達だった彩芽以外に感じたことはなかった。
「…2人の言葉はとても嬉しいのだけれど、わたくしにはやるべきことがあるんですの。絶対に捕まるわけにはいかない……!唯は、わたくしのことを通してくださるのかしら?」
「うっ……友達を傷つけることなんて、できないよ私には……!」
「ば、バカ唯……!ここで止めないと、あの子本当に大変な目に合うかもしれな……げほっ!」
唯は瑠奈の体を抱きかかえながら、大粒の涙を零した。

「2人とも、ありがとう。…さようなら。」
「アリサっ!行かないで!ここにいてぇっ!」
「ま、待ちなさいよッ!アリサああぁっ!」
食料の詰まったバッグを抱えたアリサは、2人の声を背中に浴びながら下水道の闇に消えた。

  • 最終更新:2018-01-25 23:34:57

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