07.05.開戦

16: 名無しさん :2017/01/03(火) 12:23:05 ID:???
「…以上が、鏡花からの報告の全てです……5代目様、いかがいたしますか?」
「……………」

魔法少女たちの暮らすルミナスの首都ムーンライト。その真ん中にそびえるルーンキャッスルの謁見室で、鏡花の報告を神妙な面持ちで受けている少女がいた。
彼女こそ、全ての魔法少女を統べる5代目ルミナス…国名と同じルミナスの称号を持つ天才魔法少女、リムリット・フェルルインである。
自身の座る玉座よりも小さい8歳の少女である彼女は、漆黒のワンピースを身に纏い、足には猫のマークが入ったニーソックス、頭には最高位の称号ルミナスの証である鍔の広い黒のとんがり帽子を被っている。
身長こそ小さいが、全身の黒と先の折れ曲がったとても大きな帽子、そして全てを見透かすような紅に染まった目が、少女とは思えないただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「…わらわが出るしかなさそうじゃな。今の兵数であの王都を陥落させることができるとは思えぬ。すぐに一個大隊を編成せよ。わらわが直截指揮を取る。」
「ご、5代目様が出られるのですか!?この王都の警備が手薄になりますが…」
「今あの国以外にこのムーンライトへ攻めてこられるような勢力はおらん。それにわらわがいなくともウィチル…そなたがいれば多少のことは問題なかろう。」
「で、ですが、4代目様に続き、もしも、もしも5代目様が倒れるようなことがあれば、もうあの国に対抗する手段はなくなってしまいますっ!」
「ウィチルよ。わらわを誰だと思っておる。リムリット様だぞ。そのような心配は無用だ。」
「う……か、かしこまりました!ムーンライトの守りはお任せください!すぐに大隊を編成し、城の入り口にて出撃準備をいたします!」

副将ウィチルの取り計らいで、城の入り口には1000人ほどの魔法少女たちが集められた。
「聞いた?先に出撃した子たち、虫に魔力を吸い取られてほとんど海に落ちたらしいよ…?」
「うそぉ…?敵はわたしたちを迎える準備万端ってこと?奇襲作戦のはずなのに…」
「で、でも、歴代最強と言われているリムリット様が来てくれるんだから、平気よね?」
「いやいや、いくらリムリット様が来てくれるからって、まだ8歳の女の子よ…?戦場に出たこともあまりないだろうし、大丈夫かしら……?」
報告を聞いた魔法少女たちの心境は穏やかではなかった。そのほとんどは不安を唱える者ばかりで、中にはすでに泣いているものさえいる。
そんな彼女たちを見下ろせる城のバルコニーで、ウィチルは拡声器を構えて叫んだ。
「全員静まれ!!!…リムリット様が出撃に向けてお言葉を下さる!みな心して聞け!」
リムリットが前に出ると、魔法少女たちの視線は小さな体に注がれた。

17: 名無しさん :2017/01/03(火) 12:24:23 ID:???
「わらわは激怒した。4代目様が力及ばずあの王の前に屈したと聞いた時、必ずかの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意したのだ。…だが敵は異能力者である十輝星を始め、常人とは思えぬ凄まじい力を引き出す機械、薬を次々と開発し、実質的にこの世界を牛耳っておる。……まともな政治ができる国ならば、和平を結ぶ道もあったであろう……だがあの国はそうはいかぬ。他国の要人を暗殺し、無遠慮に自国の領土を広げる狡猾さ、自国民を劣悪な環境で戦わせ、それを娯楽とする悪辣な格闘場……あの国は猛悪な王を始め政治家から国民まで、すべからく頽廃しておる。……畢竟、支配されないためには武力しかないのじゃ。今のわらわ、そしてここに集まった皆にはそれが出来る魔力がある。……とはいえ、年端もいかぬ小娘の軽率な猪突猛進だと危ぶむ者もおろう。先に敢然と向かった部隊はあろうことかほとんど壊滅してしまった……だが慄然するには早い。怯懦の涙に濡れるのもまだだ。なぜなら、今ここにわらわがいるからだ。右手を振るえば海を割り、左手を振るえば大地を隆起させ、両手を振るえば爆炎の雨を降らせるリムリット・フェルルインがいるからだ。この横溢するわらわの魔力と皆の義侠心をもってすれば、かの邪智暴虐の王を倒すことも不可能ではない。わらわのこの赤い目には、イータ・ブリックスが正義の爆炎に焼かれる未来が見えているのだ。先に散った者のため、そしてこの世界に平和をもたらすために、我らの魔法でトーメント王国にしかるべき業報を与えよう!皆の者!準備は良いか!」
「おおおおーーーーーーーッ!!!!」
「リムリット様ーーー!この命尽きるまで、一生ついていきます!!!」
「そうだ!やられっぱなしじゃいられない!リムリット様がいればあんな変態王国、一発でドカンだー!!!」

リムリットの演説により、魔法少女の軍勢は一気に士気を上げた。
リムリットは少し疲れたのか、額に汗を浮かべながら深呼吸をし、出撃の合図を叫んだ。

「さあ杖を掲げよ!箒に跨れ!魔道書を捲れ!正義は我らルミナスにありだ!ゆくぞおおおおおっ!」

18: 名無しさん :2017/01/03(火) 21:56:44 ID:???
士気を上げられた魔法少女軍は、一気に王都を目指して飛び立った。
先陣を切るのは5代目ルミナスのリムリット。王の放った海の魔物たちを稲妻で焼き払い、魔喰虫は超広範囲の爆炎で逃げる間も無く焼き払う。
目に映るもの全てを焼き払ってしまう歴代最強ルミナスの魔力に、魔法少女たちは尊敬とほんの少しの恐怖を覚えた。
「5代目って魔力では歴代最強と言われつつ、あんまり表に出ないからどんな人かわからなかったけど…すごい人だったんだね。とても8歳とは思えないよ…」
「あの人は結構謎が多いよ。8歳って言われてるけど、あの言葉遣いも国の治め方も8歳とは思えないもん。まあ私たちは知らなくてもいいことだと思うけどね…」
「ほんとは60のお婆ちゃんだけど魔力で8歳になっているとか、実はあの体型で20ぐらいの合法ロリとか、噂はいろいろあるんだよねぇ…でもそんなことどうでもよくなるくらい、滅茶苦茶強いってことが今わかったよ……」

その頃、十輝星のエスカは王都上空に到着した魔法少女たちを双眼鏡で見上げていた。
(あれが異世界人の鏡花と水鳥……うーん、名前も姿も何処かで見たような気がするのはなぜなのか…占いのしすぎでまた頭がおかしくなってきたかなぁ…?)
「エスカ様!もうすぐ魔法少女たちへの攻撃を開始します!ここにも奴らの魔法が飛んでくる可能性があります!早くこちらへ避難を!」
「あ、うん。わかってるけど…なんか気になるんだよなぁ…しかも、なんかとてつもなく大きな力の塊が王都に来ているような気が…」
「とてつもない力…?予言では見えなかったのですか?」
「…なんかね、あの市松姉妹に関する魔法少女たちについて占おうとすると、頭が痛くなってうまく見えないの。今までこんなことなかったのに…」
「…さようでございますか。その症状については一度王様に相談した方がいいかもしれませんねぇ…」
「うん…とりまエスカは避難するから、キミは魔法障壁を最大出力にしておいて。女の勘でなんかやばい気がするからさ。」
「かしこまりました!」

そして王都上空。磔にされて息絶えている真凛のあまりにも無残な姿に、魔法少女たちは絶句していた。
「真凛の体についてるの、これって、まさか……あぁっ……!」
「そんな……酷すぎる……!こんなことって……!」
「みんな…落ち着いて。早く真凛を降ろしてあげましょう。このままにはしておけないわ…」
大好きな友の無残な姿に、鏡花はすぐにでも泣き出したかった。だが隊長の自分が泣き出してしまっては少女たちの士気に関わる。
溢れそうになる涙を抑えながら、鏡花は自分の手が汚れるのも構わず変わり果てた真凛の体を抱きかかえた。
「隊長…今の兵力でわたしたちは勝てるのでしょうか…?一度王都に引き返したほうが…」
「…そろそろ王都からの返事が来るわ。それを待ちましょう。早く真凛を安全な場所に移さないと…」
鏡花が周りを見渡した時、王都からの連絡を知らせる青い鳥が水鳥の元に飛んで来た。
「お姉ちゃん!マジックバードが文書の返事を届けてくれたよ!」
「ええ、確認するわ。私に渡して。」
真凛を箒に乗せ、鏡花は王都からの文書を開いた。

「これは……!みんな聞いて!!!5代目様が増援に来てくださるわ!!!」
鏡花の驚きに満ちた声に、失意のどん底に落ちていた魔法少女たちの瞳に小さな火がついた。
「みんな目を覚まして!5代目様がいらっしゃった時に、情けない姿は見せられないでしょう!私たちがルミナスの活路を作るのよ!!」
「そ、そうよね…!真凛のためにも、ここまでに散った仲間のためにも…!私たちが頑張らないと!」
「ルミナス様が来てくれるなら、きっと勝機はあるわ!頑張りましょう!!」
「真凛ちゃんのために…絶対勝つ!」
1人、また1人と士気を取り戻す魔法少女たち。仲間たちを犯し、殺し、見せしめにしたこの恐ろしい国に支配されるわけにはいかないという気持ちが、少女たちの心を強くした。

「さぁ水鳥、増援が来るまで、私たちでできるだけあの城に魔法を叩き込みましょう!」
「うん!がんばる!」
士気を取り戻した魔法少女たちは、それぞれ触媒を構えて攻撃準備に入った。
触媒の種類は少女によって様々で、杖、剣、魔道書、珍しい者はペットを触媒としている者もいる。
「みんな!あの方が来た時に情けない姿は見せられないわ!思いっきり戦いましょう!ルミナスに勝利を!!」
「「「ルミナスに勝利を!!!」」」

こうして、王の率いるトーメント軍と魔法少女たちの、何度目かの戦争が幕を開けた。

  • 最終更新:2018-02-03 20:47:29

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