07.01.開戦前夜

233: 名無しさん :2016/12/28(水) 22:28:56 ID:???
所変わって、場面はイータブリックス王の間。
反乱分子の鎮圧に向かった十輝星達が首尾よく任務を達成したとの報告を受け、王は満足げにうなずいた。

「…といった感じです、王様。アトラ達には次のターゲットの情報と占いの結果を送っておきましたが…実は気になる事が」
「はいはい。ご苦労さん。…気になる事って?」
報告役は、王下十輝星の一人でもある「フォーマルハウト」のエスカ。
…ベティちゃんに丸呑みにされた彼女は、その後特に唯たちの脱走の件について追及されることはなかった。
事は結局露見しなかったのか、大した事ではないと判断されたのか、はたまた今は泳がせているだけなのか…
何とも胸のつかえる状況ではあるが、ともかく日々の業務を粛々と遂行するより他にない。


「実はその…王都の治安について占った所、気になる結果が出ました。
明日、この王城に「敵」が攻めてくる可能性があります。場合によっては、十輝星を呼び戻した方が…」

「くっくっく…やっぱり?そろそろ来る頃だと思ってたよ。実を言うと、アトラ達を外に出したのはむしろその為なんだよね…
やっぱ、一番オイシイ所は自分で頂きたいじゃない?」

「…だってホラ。俺って王様だし!」

【名前】魔法少女アクア・ウィング
【特徴】異世界の出身で、幾多の死闘を潜り抜けた水色の魔法少女。
変身前の名前は市松水鳥、小学5年生。しっかり者だがやや引っ込み思案。

【名前】魔法少女リフレクト・ブルーム
【特徴】異世界の出身で、幾多の死闘を潜り抜けた金色の魔法少女。
変身前の名前は市松鏡花、高校1年生。妹の市松水鳥と二人暮らししていた。
長い黒髪と、同年代の少女に比してかなりボリューム感のある胸が特徴。

234: 名無しさん :2016/12/29(木) 01:18:26 ID:TsJf2HWc
王が敵の迎撃準備を始めている頃、イータブリックスの城下町は王下十輝星のもたらした報告に沸き立っていた。

「聞いたか!シリウスとプロキオンがあの「黒足の舞」を生け捕りにしたってよ!」
「おうとも!さすが十輝星だ。この国に刃向かう身の程知らずを綺麗に掃除してくれるんだもんな。おかげで商売もやりやすくなるってもんだぜ!」

「ねえ聞いた?ベガとスピカが「爆炎のスカーレット」を捕まえたんだって!ガラドを使った交易がこれから盛んになったら、今よりも安い値段で鬼うまい寿司が食べられるようになるらしいよ!マジ神ってるよねー!」
「そのスカーレットってハンパない魔法使いなんっしょ?十輝星強すぎてべーわ。やっぱあれかな?ベガもスピカもガッチムッチのマッチョで見るからに強そうなおっさんなんかなぁー」

王下十輝星──その正体を知る者はごくわずかの限られた者のみ。
国民たちは彼らに割り当てられた星の名の称号のみでその存在を信じている。
シリウス、プロキオン、ベガ、スピカ、フォーマルハウト、カペラ、アルタイル、デネブ、リゲル、ベテルギウス。
大罪人を捕らえ、反逆者を始末し、国の繁栄の障害は物あろうと人であろうとすべて排除する。
その功績はもちろん、正体不明というミステリアスな要素も合わさって、イータブリックスでは十輝星の彼らは英雄とされているのであった。

「十輝星ってさ、この国の繁栄にめちゃめちゃ貢献してんのに、なんで顔とか名前出さないんだろう?疑問だよなぁ…」
「まあ正体がわかったら俺らも持ち上げなきゃいけなくなるし、存在を隠してんのは俺はいいことだと思うな。」
「まあ確かに…この国のために十輝星が陰日向で頑張ってるから、俺らも毎日頑張ろうって思えるしな!」
「お前は頑張って稼いだ金、全部格闘場の賭けに使ってるけどなw」

浮かれている王都民たちはまだ知らない…
巨大国「ルミナス」から遣わされた魔法少女の軍勢が、この王都に進軍していることに。

235: 名無しさん :2016/12/29(木) 15:26:42 ID:???
ナース服と、あとなんかボロボロの白い服を着た女の子の3人組を見つけたのでリョナることにした。
他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事にする。
下水道から出てきたらしく、異臭を放っていたので風呂に入らせるが…もちろんそう簡単に事は運ばせない。
旧式のシャワーはお湯の温度調整が非常に難しく、油断すれば熱湯で身を灼かれるか、凍てつく寒さの水攻めか…
どちらにしろ耐えがたい地獄が待っているのだ。

風呂場での攻めの後は、残飯を食わせる事にする。しかも、普段はゲスな城の兵隊共が使っている薄汚れた食器でだ。
何しろ、俺の店の主な客である兵隊共が何故か一斉に城に集められているため、店は開店休業状態。残飯なら、腐るほどある…

「最初は物凄いコワモテのオッサンでびっくりしたけど…ホント助かったわ。こんな世界でも、いい人っているんだね!」
「まったくですわね!…着替えまで用意していただけて、本当にありがたいのですが…」
……
「どういう事ですの!?あなた方にはコスプレの神様でも憑いてますの!?
 何で行く先々でネタ装備ばっかり拾っちゃうんですの!?一緒にいると私までヘンな格好させられて…おぶっ!!」
ちなみに用意した着替えは俺の店の制服なのだが、流石にイラッと来たので普通に腹パンで黙らせる。

「このカレーおいしい!…なんか、お母さんのこと思い出すなぁ。今頃、どうしてるかな……」

236: 名無しさん :2016/12/29(木) 15:37:34 ID:???
「遠慮しなくていいのよ。その服は娘と、娘のお友達のだから…ゆっくりしていってちょうだい」
「本当にありがとうございます。二人も御厄介になる上に、服まで頂いて…」

…そしてこちらは、現実世界。
サラの助けで『謎の手』から逃れた市松鏡花と妹の水鳥は、ネット回線を介して現れる追手から逃げるため、
郊外へ向かって闇雲に逃げたのだが……何しろ電車バスの利用はおろか、食料を買う事さえ簡単ではない。
逃亡劇はあっという間に行き詰り、半ば行き倒れの状態になっていた所を「とある女性」に助られたのだった。
さっそく二人は、用意してもらった服に着替えるが…。

(これ…ちょっと、きつい、かも…)胸の所が。
(私のは、ぶかぶか…)胸の所が。
「あ、あら…御免なさいね。背が同じくらいだから大丈夫かと思ったんだけど…」

助けてくれた女性「篠原さん」の娘「唯」と、その友人「月瀬瑠奈」は、相次いで行方不明になったのだという。
鏡花達にはその名前に聞き覚えがあった…女刑事サラが調べた、行方不明者リストに載っていた名前だ。

その夜、二人の姉妹は久しぶりに一つの布団に包まって眠る。
だが今までの怪事件の事で頭がいっぱいになり、なかなか寝付けない。
「サラさん…それに唯さん達も…どうなっちゃったんだろう。…死んじゃったのかな…」
「このまま放っておくわけにはいかない…でも、警察に行っても相手にしてくれそうにないし…こんな時、ヒカリが居てくれたら…」
ヒカリとは…今は遠い国にいる、鏡花の中学時代の親友だった。
彼女と一緒にいた一年ほどの間、鏡花は何度も異常な事件を目の当たりにし…鏡花と水鳥は、何度も彼女に助けられてきた。
寺瀬 光…又の名を、魔法少女ルミナス。
(でもヒカリは戦いを終え…今は魔法の国の王女として、平和に暮らしてるはず。こんな危険なことに巻き込むわけには…)

…しかしその夜。鏡花と水鳥は、久しぶりにヒカリの夢を見た。
禍々しい雰囲気を醸し出す不気味な城。その王の間に立つ、魔法少女ルミナス…
視線の先にいるのは、玉座に座った王…のような、半裸の怪しい人物。

(ヒカリが…戦っている?…一体、どうして…)

237: 名無しさん :2016/12/29(木) 20:52:40 ID:TsJf2HWc
2人の見た夢の中で、ヒカリは玉座に座ったままの王と戦っていた。

「追い詰めたわよ独裁者…この世界をあなたのような男の好きにはさせないわ!スターライト!」
「ふんっ、魔法少女風情がこの俺様に逆らいやがって…スピカ、アルタイル、この虫けらを捻り潰せ!」

手下の1人が王に降り注ぐ魔法を退け、もう1人がヒカリへ鈍く光るナイフを向け走りだした。
「くそっ!ここにも十輝星が…!プロテクトシールド!」
敵に接近されないよう、ヒカリは自身のの周りに防御魔法を展開する。だが…
「なっ…!消え」
「動かないで。動いたら殺す。」
すぐ後ろで透き通った少女の声がした。
ナイフを持った少女は瞬時にヒカリの背後に回り込み、ヒカリの細首に鈍く光るナイフを突き立てたのだ。
「く…ぁ…」
「ハハハハッ!よくやったぞスピカ…!そのまま踏んじばって拘束しろ。逃げられないように足も一本切っておけ…!」
「了解。」
スピカと呼ばれた少女は、すかさずヒカリの体を引き倒して拘束した。
そのまま鈍く光るナイフを変形させ、大振りになった刃先でヒカリの右足を切断する!
ズバアァッ!!!
「うぁあぁあぁあああぁぁぁああッ!ぐっ…ああぁあぁあぁああーーーー!!!」
ヒカリの足はあっさりと切断され、むき出しになった断面から大量の血がどくどくと溢れ出した。
「ふふふ…今の声は良かったぞ。しばらくは俺の目覚ましに使わせてもらおう。ヒヒヒ…」
「ぐ…ああぁっ…!ルミナスの精鋭を揃えてようやくここまできたのに…!こんな…!」
「俺様に1人で挑んだことが間違いだ。ま、その精鋭も今頃我が十輝星たちが始末しているところだろうがな。」
「くそっ…!くそっ…!」
「安心しろ…命は取らない。なぜなら貴様は俺様のおもちゃにふさわしい、美しい少女だからな…!クックックッ…!」

そこで、2人の夢は終わった。



(結局あの後この世界に囚われて、魔法少女になった今もヒカリの行方はわからないまま…でももし生きているんだとしたら、あの城に囚われているはず…!)
「お姉ちゃん…ヒカリちゃんのこと考えてる?」
箒で空を飛び王都へ向かう道中で、水鳥は姉の鏡花に声をかけた。
「…水鳥は鋭いなぁ。今はこれから始まる戦争に集中しなきゃいけないってわかってるんだけど…やっぱり気になっちゃって…」
「…わたしたちが力を合わせて、あの王を倒せばきっと会える…今はそう信じよう?お姉ちゃん。」
「…そうだね。水鳥ありがとう。お姉ちゃんなのにウジウジし考え事してちゃダメだよね…!」
鏡花は顔をパンパンと叩き、気合いを入れ直す。今まで姉妹2人で協力し、どんな魔物もどんな悪党も魔法の才能で倒してきた。その功績が認められ、今や鏡花はルミナスの魔法少女たちを従える戦隊長に任命されている。
「ヒカリを助けるためにも…もうこれ以上不幸な女の子を増やさないためにも…あの男は私たちが絶対に止めてみせる…!」

238: 名無しさん :2016/12/30(金) 11:43:48 ID:???
「やっぱり…どんなに占っても明日は魔法少女たちがこの街に来る。今は十輝星が私しかいないのに…しかも魔法少女の中には異世界人が複数いるんだわ。勝敗が全くわからない…!」
エスカの占いではルミナスの魔法少女がこの街で王都軍と熾烈な戦いを繰り広げる…そこまでしか見えず、どちらの軍勢が勝つかは霧にまみれて見えなかった。
「あ~!占いの天才エスカでも全くわからないのがイライラする~!…とりあえず、何があってもいいように自分の身を守る準備だけはしとこ…十輝星のエスカは捕まったら間違いなく拷問、陵辱されるだろうしね…!」

その頃、王都の宿屋で唯たちは強面の男の作ったカレーを食べていた。
「あぁ…こんなにまともな食事なんて久しぶりだよぉ…平和に美味しいご飯がさ食べられるって、こんなに嬉しいことなんだね…!」
「唯、なんで泣いてんのよ…!まぁ確かに嬉しいけどね。あの強面の人には感謝してもしきれないわ…」
「ううっ…なぜわたくしは重めの腹パンチを食らったんですの…納得できませんわ…」
3人が和気藹々と話していると、テレビから爽やかなアイドルの歌声が聞こえてきた。

「君の笑顔~♪それがわたしの心を動かしてる~♪わたしの気持ちに早く気づいて~♪女の子は受け身でいたいのよ~♪」

可愛らしい赤と白の衣装を纏い大勢の観客たちの前で歌う美少女。年は唯たちと同じ16歳くらいだろうか。背中まで伸びたロングヘアーを靡かせて歌う姿は、見るものに笑顔と元気を与えるエネルギーに満ちていた。
もちろん、この国の大人の男は別の感情を覚えるだろうが…

「可愛い歌!歌ってる子もとっても可愛い!なんていう子かなぁ?」
「あぁ…有坂真凛(ありさか まりん)か。最近出てきた清純派アイドルだよ。積極的に握手会とかもやってて、CDもすぐ予約で売り切れちまうほどの人気ぶりだ。」
「はぁ~こんなに可愛くて歌もダンスも出来るのって本当に尊敬するわ。わたしなんか人を投げ飛ばすことくらいしか誇れるものないし…」
(る、瑠奈は強いし頭いいし可愛いしスタイルいいし完璧だと思うけどなぁ…)
「ううっ…お腹痛いぃ…」

タランタラン!タランタラン!
「えっ!?なんかいきなり画面が変わったよ?」
アイドルの歌が終わったと同時に画面が変わり、アナウンサーが現れた。
「緊急速報です。十輝星フォーマルハウトが、明日魔法少女の襲撃を予言しました。皆さんはすぐに地下シェルターの格闘場へ避難してください。予言では明日となっていますが、迅速な行動をお願い致します…」

「こりゃあやべえな。お前らも来い。格闘場にいりゃあ上で何が起ころうが安心だからよ。」
「えっと…この街で戦いが起こるってことなのかしら?」
「そうだ。いきなり王都を狙うってのはおかしな話だが、ヤベェことに変わりはねえ。さっさと避難するぞ。」
「格闘場ってあそこだよね…わたしたち顔を隠した方がいいかも…」
「そ、そうね。サングラスとかないか、ちょっとおじさんに聞いて見るわ!」
「あうぅ…はぁ…お腹痛い…!」

239: 名無しさん :2016/12/30(金) 22:55:52 ID:???
魔法の国「ルミナス」の襲来に備え、荷物をまとめ始めたエスカ。
と言っても、ナメクジに呑まれた際、それまでの持ち物はほとんど失ってしまったのだが…
自室の机の奥にしまわれていた小箱の中から、ピンク色の石がはめ込まれたペンダントと、手作りのお守りを見つけた。
「ペンダント…私、こんなの持ってたっけ…?…お守り…誰かに、貰ったんだったかな…?」

エスカは何故か、心の中に引っ掛かる物を感じた。
だがカバンの中やローブの内側を探しても、記憶の手掛かりとなる物は残っていない。
持っていたのは、予言の一片…王都に攻めてくるという魔法少女たちの名を記した羊皮紙の束。

アクアウィング…水の翼を持つ水色の魔法少女。リフレクトブルーム…鏡の盾を持つ金色の魔法少女。
その正体は、異世界人の姉妹。名前は市松水鳥と……市松鏡花。
(なんだろう…何か大切なことを、忘れているような…)

「……私、この二人を…知っている…?…思い、出さなきゃ…」
平静さを失い、エスカは自室の机やクロゼットを引っ掻き回す。
弾みでローブのフードが脱げて、素顔が…まだあどけなさの残る16歳の少女の顔が、露わになった。

「いっ…いやあああああぁぁぁあああ!!!!」
その途端、何千何万と言う、破滅の未来、悲劇的な結末…様々な予兆が、エスカの視界に飛び込んでくる。
慌ててローブを被りなおし、その場に蹲っていると…やがて予兆は収まった。

紫色のローブは、エスカが後天的に身に着けた予知能力…「運命を読む力」を制御するための物。
だが彼女の本来の力を3割ほどに抑制してもなお、その力はあまりに強すぎた。
未来を覗き見る度に、代償として過去…エスカの記憶が、少しずつ蝕まれていくのだ。

「あれ?…私、何してたんだっけ…ああそうだ。明日、敵が攻めてくるんだった。今のうちに荷物をまとめなきゃ…」

  • 最終更新:2018-01-21 23:03:50

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