02.01.第一試合

120: 名無しさん :2016/11/19(土) 11:29:39 ID:???
「ヒッヒッヒ…しばらくナメクジ漬けにしておけば、反抗的なアリサお嬢様も少しは素直になるだろ。さてと、お次は…」

王が続いてやって来たのは、>>64で出てきた地下大浴場。
そこでは、椅子に拘束された唯が、瑠奈の手によって延々と嬲られ続けていた。

「あらぁ、王様…今、唯にステキなお薬を塗ってあげた所ですわ。ほら見てください、こうして指で触るだけで…」
「や、だめ、もう、ゆるひて…瑠奈、ひゃあぁん!!」
…瑠奈が唯の軽く太股を撫でると、唯は身体をぶるぶると振るわせて、悲鳴じみた嬌声を上げた。
秘唇からはじゅわぁ…と愛液が垂れ落ち、うっすらと湯気が立ち上る。

「おやおや、これはこれは…クックック……」
親友の瑠奈に責められるというシチュエーションが、唯の心を徹底的に叩き折ったのだろう。もう、いつでも堕とせる状態だ。
(だが、それだけじゃぁ面白くない…ヒヒヒッ)

「ハッハッハッハ…素晴らしいぞ、唯ちゃん。あれだけの責めを受けても、まだ理性を保っているとは。
その強情さに免じて、王様が1つ、チャンスを与えてあげよう。キミと瑠奈ちゃんが解放される、チャンスを!!」

「…わたし、と…るな………解放……?」
思いもよらぬ王の言葉を聞いて、絶望に沈んでいた唯の瞳が微かな輝きを取り戻す。

「知っての通り、瑠奈ちゃんは王であるワタシの奴隷だが…奴隷という物は、売ることも出来れば買うことも出来る。」

「(ああ、なるほど…そういう事ですの)」
後ろで瑠奈がニヤリ、と笑みをこぼし…

「まあ、さすがは王様、なんて慈悲深く寛大な御心でしょう!…でも奴隷って…お高いんでしょう?おいくら万円かしら」
大げさな身振り手振りを交えながら話に参加してきた。

「瑠奈ちゃんは私のお気に入りでね…本来なら値段なんてつけられないんだが、
唯ちゃんには今回だけ特別…15万ナーブルで譲ってあげよう。」
「えーっ!たったの15万!?高級娼婦奴隷1人分と、そう変わらない値段ですよ!?」
「そ、そう言われても…私、お金なんて…」
お金以前に、今の唯は一糸まとわぬすっぽんぽんの手ぶら状態だ。早く何か拾いたい。

「ケケケ、心配ご無用…たしか君、武術の心得があったよね?…そう。自らのウデで稼いで、君の親友の自由を買い戻すのだ。
我が王都『イータ・ブリックス』の誇る、巨大格闘場で!!」

121: 名無しさん :2016/11/19(土) 11:35:00 ID:WJu9EpQ2
…こうして、唯は格闘場の闘士となった。

洗脳された瑠奈に怪しげなクスリ塗られ、体の疼きは未だ収まらないが、今は目の前の戦いに集中するしかない。
そう、今まさに、唯は……大量に並んだ衣装や武器を前に、頭を悩ませている真っ最中だった。

試合は原則としてルールなし、どちらかの戦闘不能もしくはギブアップをもって決着とする。
武器や防具の持ち込みも自由だが、有料でレンタルすることも可能。
武器や衣装のレンタル代、試合で負傷した場合の治療代、『万一』死亡した場合の蘇生代などは
ファイトマネーから差し引かれるという…
つまり、瑠奈を早く開放するには、こうした『経費』も節約しなければならないのだ。

「あの王様は『2~3試合もすれば、15万くらいすぐに貯められる』って言ってたけど…どれも結構高いなぁ」
唯の合気道は道場を経営する祖父から護身術として教わったもので、その腕前はかなりの物だったが…
半面、持ち前の優しすぎる性格から、自分から仕掛ける打撃系の技はあまり得意ではない。
(たぶん私の技が通じるのは、同じ人間くらいの大きさの相手まで…
ちょっと自信ないけど、薙刀や刀も用意した方がいいのかな…?)

衣装の方も、格闘用の道着やプロレス用のリングコスチュームだけでなく、
騎士や侍が着る甲冑やファンタジーの産物であるビキニアーマー、
格闘と何の関係もないナース服やメイド服や水着、
果ては湯気、暗闇、謎の光などの服ですらない現象や概念など…ありとあらゆる物が揃っている。
(私の学校の制服まである…!一体どうなってるのよここの貸し衣装は…)

もちろん強力な装備ほどレンタル代も高くつく。
半面、観客に受けが良いセクシーな衣装は、積極的に採用しやすいよう全体的にレンタル代が安く抑えられているようだ。
(いつもの道着にするか、それとも丈夫そうな鎧…あ、この服かわいくて安い…って、そうじゃなくて、あああ…)

こんな事に時間を費やしている場合ではないと分かっていても、
大量の服を好きに選んでいいと言われるとついつい長時間悩んでしまうのが乙女心というもの。
だが、試合の時間は刻々と迫っており…

「唯選手ー!そろそろ試合開始です」
「えっ!?も、もうそんな時間…ええい、じゃあもういいやコレで!」

結局、手近にあった衣装をろくに見もせずに選んでしまった唯。
そんな装備で大丈夫か? そして、闘技場で唯を待ち受ける対戦相手とは……?

122: 名無しさん :2016/11/20(日) 00:08:47 ID:???
「レデイースエ~~~ンドジェントルメンンンンッ!今宵もイータ・ブリックスの地下格闘場にお集まりいただき、まことに、んんまことに!んぁあありがとうございま~すっ!」

唯がほの暗い控え室に入ると、警備員によってすぐに入った扉は閉められ、出ることは叶わなくなった。
コロシアムへと続く道から無駄に元気な実況の声が響いている。観客は相当な数を動員しているらしく、ここからでも歓声の大きさがはっきりわかるほどだった。

「そこのカーテンの裏で着替えろ。カーテンの中には明かりがあるから好きに使え。」
「は、はい…!」

衛兵に促され、唯はカーテンの裏へと回る。電気のスイッチを付けると天井の明かりが弱々しく光った。唯は早速自分が持ってきた装備を改める。

「こ…これは…!」
唯が手にしていたのは淡く発光している純白のワンピース。手触りもスベスベで高級感を感じさせ、普通のワンピースではないようだった。

「魔法のワンピース、なのかな…?早速着てみよう!」
唯が上着を脱いでワンピースを着用すると、突然ワンピースがふわりと光って光の粒子が辺りに散らばった。
光の粒子はしばらく光り輝いた後、ゆっくりと小さくなり消えていく。
「うわぁ~なにこれっ!とっても綺麗!」
唯が動くに連れてワンピースから光の粒子が漂う。その様子はまるでアニメや映画に出てくる可憐な妖精のようだった。

「フフっ…なんだか可愛い妖精さんになった気分!」
唯は嬉しくなり光の粒子を撒き散らしながらぱたぱたとはしゃいでいた。

「篠原唯!遊んでないでさっさと出てこい!もう出番だぞ!」
「はっはいぃい!」
衛兵に促され、唯はコロシアムへの道に赴く。光の先から暴力的と言えるほど大きな歓声が聞こえてくる。

「赤コーナー!!!可憐な容姿に惑わされるな!合気の技は何人たりとも寄せ付けぬ鉄壁の防御術!そして全然関係ないけど彼女は未だに処女の牙城も守り抜いているらしい~!!」
うおーーーーーーー!!!
ブチ犯しちまえーーーーー!
ヒィヒィ言わせてやれーーーー!

観客を煽り立てるナレーションと恐ろしいガヤの声に、唯はとんでもない場所に来てしまったのではと今更ながら恐怖を感じた。

「わたし…無事に帰れるのかなぁ…」

「し~~~~の~~~~は~~~~らーーーー!!!ゆいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃ!!」

ナレーションが唯を呼ぶと、目の前の鉄格子がガラガラと上がりコロシアムへの道が開いた。

「怖い…けど、あの時の演武に比べたら大したことない!今度はわたしが、絶対に瑠奈を助けてみせる!」
唯は震える足を抑え、自身を言葉で鼓舞しながら大きく一歩を踏み出した。

123: 名無しさん :2016/11/20(日) 11:34:36 ID:???
「うわ!なんだよあの衣装!妖精みたいでスゲーかわいいな!がんばれ!唯ちゃん!がんばれぇ!!」
「まだ始まってないのにうるさいなお前…もうちょっと静かにしろよ…(唯っていう子の方がタイプだな…めっちゃかわいい…)」
いつぞやの二人の少年も、今日は闘技大会の観戦に来ていた。
王様の隣で食い入るように唯を見つめている。
「彼女は今日が初めてなんですよね。いきなり出ていって勝てるわけなくないですか?」
少年の一人が王様に尋ねる。
「ま、普通はね。でもいきなりフルボッコにしてやるのはかわいそうだろう?僕は唯ちゃんに希望を持たせてあげたいんだよね。だからあの服を選ぶように調整したんだ。」
「あの衣装なんなんですか?ただのワンピースには見えないんですが…」
「ふふっ、あれはね、妖精の服だよ」
「(まんまかよ…)どんな効果なんですか?」
「被ダメージ常時60%カット、全ての攻撃に対して魔法による属性付与かつ威力1.5倍のボーナス、あと自分の周りだけ時間の流れを速くして相手より素早く動ける能力が使えるようになる。」
「え、なんか強くないですかそれ…」
「うん、かなり強いね(笑)これがあればこの闘技場での対人戦はほぼ勝てる。唯ちゃんに一回はいい思いをさせてあげたいだろ?もっとも、この闘技大会に人は少ないけどね(笑)」
「その装備がなくなったときがすごく辛い気がするのですが」
「まあその時はその時だ。俺の気まぐれでずっと使えるようにしてやるかもしれないしまだわからんよ。とにかく、一戦目はチュートリアル。相手も人だから唯ちゃんの圧勝で終わるのさ。俺優しいな…フハハハ!」
「な、なるほど…(よくわかんないけど楽しそうだな…)」

124: 名無しさん :2016/11/21(月) 00:22:57 ID:???
ナレーションが続けて対戦相手の紹介に移る。
「対する青コーナー!!ここまで巧妙なな戦い方で着実に勝利を掴んできた孤高の女戦士!現在の戦績、9戦全勝!!その優しいお姉さんキャラが大好きというファンも多い!! 」
さくらこちゃーーーん!
愛してるよおおおおお!
結婚してくれえええ!!

(9連勝!?そんな人に勝てるわけないよ…)

「は~~る~~か~~わ~~!!さぁくぅらぁこぉおおお!!」
うおおおおおおおおおお!!!

歓声と共に、鎧に身を包んだ女性が入場してくる。
艶やかな黒髪を頭の後ろでひとつに纏め、日頃は柔和な目には今、静かな覚悟と闘志が宿っている。
身に纏った鎧は露出も少なく、決して性を強調するわけではなくしかしそれでいて所々体のラインをなぞっており、女性らしいシルエットを描き出している。
右手には質素だが確かな威力を誇るであろう剣が握られている。

唯より四、五歳上だろうかといった容姿のこの女性の名は、春川桜子。

唯と似た境遇で、理不尽に連れ去られてしまった少女を取り戻すためにこの闘技大会に参加していた。

(この戦いに勝てば10連勝ボーナスが入って、必要な額が揃う…!あの子のためにも、絶対負けられない…!)

ナレーションが言うように、桜子はここまで奇跡的に連勝を続けていた。
型破りな能力持ちのクリーチャーたちとの戦いで幾度となく命を落としかけたが、機転を利かせ、辛勝に辛勝を重ねてきた。
囚われの少女のために戦い続ける桜子のひた向きな姿に魅了され、彼女のファンになる者も多く、桜子は多くの人々に愛されるファイターになっていた。

もっともリョナラーの世界である以上、ファンの愛が深ければ深いほど、敗北に対する期待も高まっているのだが。

今までの敵に比べれば、目の前の唯はただの少女、この試合自体がボーナスステージのようにすら感じられる。
当然気を緩めるようなことはしないが、桜子は内心安堵していた。もはや負けることはない、と。

試合が始まるまではそう思っていた…

そう、彼女こそが唯の初陣を華やかに彩るための対戦相手に選ばれた、憐れな犠牲者だったのだ。
唯に希望を与えるため、そして同時に、唯にこの世界の厳しさを見せつけるため…桜子はここで無惨な最期を遂げることになる…

125: 名無しさん :2016/11/21(月) 14:39:03 ID:FsOS7xfk
「春川さん初めましてっ!篠原唯と申しますっ!よ、よろしくお願いしますっ!」
唯は桜子に挨拶をして深々と一礼した。いついかなるときでも挨拶は欠かすなとは祖父の教えだ。

「…?よ、よろしく…」
今までこんな礼儀の正しい相手はいなかったので、面食らいつつも桜子は挨拶を返した。

「悪いけど、手加減はできないわ。私には負けられない理由があるの。あなたみたいなかわいい女の子が相手でも…!」
「わ、わたしにだって負けられない理由がありますっ!全力でお相手させていただきます!」

「おおっと両者、すでにお互いを牽制しあっている~!美少女対決となったこのカード、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかー!?」

桜子、勝てー!5万賭けてんだからなー!
桜子ちゃんーーー!!負けないでーー!!
桜子ーーーー!!結婚してくれーーー!!

(うぅ…なんかアウェイだよぉ…でも、わたしは瑠奈を助けるんだ!相手がどんなに強くても、ここで負けるわけにはいかない!)
「では第一試合、篠原唯バーサス春川桜子!LETSROCK!!!」


「一瞬で蹴りをつけてあげるわ!飛翔烈空斬ッ!」

桜子は高く跳躍し、剣を唯に向けものすごいスピードで突進した。が唯は難なく体を逸らし回避する。

おおーーーー!!
あの神速を見切るとは…!!
桜子ちゃーーーーん!!がんばれーーーー!!
「なかなかいい反射神経を持っているようね…じゃあこれはどう?」
桜子は剣先を地面に当て、素早く前へ振り上げた。
「竜衝破!」
桜子が叫ぶと竜のような衝撃波が地を這いながら唯に襲いかかってきた。どうやら気功の一種らしい。
が、唯は難なく体を逸らし回避する。

なにやってんだ桜子ー!
全然当たってないぞーーーー!
桜子ちゃーん!相手をよく見てー!

「おかしい…わたしの技を最小限の動きで回避しているだと…!バカな…!」
もしかしたら相当な実力者かもしれない。よく観察してみようとまじまじと唯を見ると、困り顔で手をあたふたさせている。なぜだかわからないがかなり焦っているようだ。

(集中を切らしたか…?魔法で攻めて見るか!)

「疾風迅雷、我の意を示せ!サンダーブレードッ!」
桜子が高らかに叫ぶと、唯の頭上に雷を纏った大きな剣が現れた。

「落ちろっ!」
桜子の命令に従い、雷の剣は唯めがけて急降下し、地面に突き刺さる。刺さった周辺からは獲物を逃がさんと強い電流がが流れ出し、桜子は勝利を確信した。

(直撃だったはずだ。体が痺れて立てないはず。わたしの勝ちだ…!)

桜子の呪文が決まったか!
どう見ても当たってたよな!?唯ちゃんが痺れてるとこ見てえのに煙が邪魔だっ!
キャーーーー!桜子ちゃんかっこいいーーー!



やがて煙が晴れてきたが、唯の姿は見当たらない。

「おかしい…あの子はどこへ消えたの?」

春川ーーーー!!!
後ろーーーーーー!!!

観客の声に反応し、さっと身を翻して後方を確認すると、申し訳なさそうな顔で立っている唯がいた。

「い、いったいどうやってあの状況から…?瞬間移動でも使えるっていうの!?」

「あ、あの、それは…ええと…!とにかく!わたしにあなたの攻撃は当たらないんです…!だからギブアップしてくださいっ!」
唯はそう言うと頭をペコリと下げた。

「ふ、ふざけた事を…!言ったはずよ!わたしはこの勝負、絶対に負けるわけにはいかないの!どんなタネがあるか知らないけど、わたしはギブアップなんかしない!」

安い挑発のつもりなのか知らないが、桜子の意思は固かった。
桜子は再度剣を構え直し、困り果てている唯に向かって走り出した!

「やああああっ!」

桜子は助走をつけて跳躍し、唯に向かって渾身の一撃を放つ。

「うぅ…忠告はしましたからねっ!」





ドゴォォォォッ…!!!
「ふ、ぎぁ…!?ぐはあああっ!!」

突然目の前に現れた唯のカウンターパンチで、桜子はきりもみ回転で吹っ飛び壁に激突した。

ドガーン!
「がはあっ…!そんなぁっ…!」

桜子ーーーーーーー!!!
ふざけんなーーー!!!5万賭けてんだぞーーー!!
桜子ちゃーーーーん!!立ってーーー!!

眩暈と激しい痛みが桜子の身体を休ませようとしているが、桜子は気力だけで立った。

「ま…まだだ…!まだ…!まだだあッ!」

126: 名無しさん :2016/11/21(月) 21:50:55 ID:???
桜子の猛攻を易々とかわし、強烈な反撃を仕掛けた唯。
だが、その表情や態度には微塵も余裕は見えない。
一体この戦いで、何が起こっているのだろうか…

……

(相手は今日が初戦か…動きが固いわね。ここの雰囲気に呑まれた、って所かしら…)
(え?何?ロックって…もう始まってるの?)
(悪いけど…この闘技場には、新人相手だからって手加減してくれるようなお人好しは…いない!)

「一瞬で蹴りをつけてあげるわ!飛翔烈空斬ッ!」
「きゃあっ!?ちょっと、ま…」

恐怖に目を閉じる唯。桜子の振るう長刀の「峰」が、唯の頭部へ打ち込まれる…しかし、その時。
(あれ?剣が止まって…いや、動きがすごく、ゆっくりに…)
覚悟していた痛みがいつまで経っても訪れず、こわごわ目を開いた唯が見た物は、
あらゆる物が…必殺の一撃も蝸牛のようにゆっくりと動く、半停止した時間の世界だった。

唯の目の前に、手のひらサイズの人影…妖精が飛んでいるのが見える。
妖精が着ている服は唯が今着ている服と全く同じ。そして…首に懐中時計をぶら下げている。
(ど、どーなってるのコレ!?…まさか…この服の…?)
ニッコリとほほ笑む目の前の妖精の姿を見て、唯は全てを理解し…
同時に、ゾクリ、と背筋が寒くなるような恐怖を感じた。

(これなら…勝てる。いや、どう考えても負けるはずがない。だけど…)
矢継ぎ早に繰り出される桜子の攻撃を、次々とかわしていく唯。
(開始直後の、あの攻撃…)
雰囲気に呑まれて固まっていた自分を、その気になれば殺そうとする事も出来たはずなのに、
桜子はあえて峰打ちを仕掛けてきた。…そんな相手を、出来る事なら傷つけたくはない。

「い、いったいどうやってあの状況から…?瞬間移動でも使えるっていうの!?」
「あ、あの、それは…ええと…!とにかく!わたしにあなたの攻撃は当たらないんです…!だからギブアップしてくださいっ!」

…それははったりでも挑発でもなく、本心からの忠告だったのだが、かえって桜子を怒らせる結果になってしまい…

続く桜子の攻撃…これもやはり、峰打ち。
(き、来たっ!…と、とりあえず当身で、動きを止めて…)
唯は攻撃直後の隙を狙って、桜子のお腹の辺りに軽い打撃を当てる。
(ギュオオォッ…! ドゴォォォン!!)
すると…緑色の風を纏った妖精が唯の前に現れ、暴風を巻き起こす。
轟音と共に、桜子の身体はステージ中央から吹き飛ばされ…客席際の壁に叩き付けられた。

再び背筋に冷たい物が走るのを感じる唯。頼むからこのまま終わってくれ、という想いも空しく…
土煙をかき分け、桜子は再び立ち上がってしまった。

「まだ…!まだだあッ!」
「違うの……私、そんなつもりじゃ… お願いっ…もう立たないで…来ないでください……!」

……

127: 名無しさん :2016/11/21(月) 23:43:51 ID:cBl4LJJA
完全に甘く見ていた。
この篠原唯という女は峰打ちなどで動きを止められるような相手ではない。
あの瞬間移動のような回避と、一瞬で間合いを詰める足の速さ…あるいは魔法。

そして、鎧の上からの打撃でここまでの破壊力…!すでに鎧は崩れ落ち、体から外れてしまっている。

間違いない。
目の前の篠原唯はかよわい女の子などではない。恐ろしい「怪物」だ。
あのおどおどとした態度も、気弱そうな声も、私を油断させるためか、あるいは観客への印象付けかなにかだろう…!

九分九厘、篠原唯はあの男が私に賞金を渡すまいと仕向けた刺客だ!
なぜ、その可能性を考えなかったんだ…!

「ここまできて…私は負けられないんだッ!」

気力だけで立った桜子は、足を引きずりながら怪物へと立ち向かう。
相変わらずおどおどとした表情をしているが、あの子のためにも怪物相手に手加減はできない。

「わたしは…勝つんだ…!」



「ど、どうしよう…!春川さん、まだやるつもりなのかなぁ…」

もう傷付けたくないのに、立ち上がり向かってくる桜子にどうすればいいのかわからない唯。

「さ、桜子さん!お願いですからギブアップをしてください!私は今ものすごく調子が良くって、誰にも負けない気がするんですっ!」
「勝ったつもりでいるのか!あの王の手先のくせに!わたしは…お前なんかに負けない!」
「あの王…ってまさか!違います!わたしは──」
「問答無用!覚悟!」

桜子は剣を構え、素早く唯の死角に入り込み剣を抜いた。

「瞬覇!一閃!!!」

今まで何度もこの技で怪物にとどめを刺し、勝ち上がってきた桜子。
この技に全てを賭けて唯の喉元に斬りかかった──


「あぁ…!やっぱりゆっくりになるよぉ…!」

半停止した時間の世界で、唯はげんなりしていた。どうやっても自分には攻撃は当たらないようだ。
妖精が桜子に向かってパンチを放っている。どうやら早くとどめを刺して終わらせたい様子だった。

「傷付けたくない…けど、うまく気絶させないと終わらないよね…」

さっきの軽い打撃でもあの威力だったのだ。うまく力を加減しないと殺しかねないと思うと唯の背筋が凍った。

「ゆ、指先のさきっちょだけで、つついてみようかな。これならちょうどいいかも…」

唯がほぼ停止している桜子のお腹に、うまく気絶するよう祈りながら指先で触れようとしたその時──!



ドンッ…!

「えっ?きゃあああっ!」
突然唯は何者かに背中を押され、桜子に向かって倒れる形となってしまう。

「キヒハハハッ…!」

恐ろしい笑い声がしてふと後ろを見ると、妖精が恐ろしい笑みを浮かべていた…!

「だ、だめ!このままじゃっ…!倒れちゃううっ!」

唯は完全に体勢を崩し、桜子に全体重をかけて倒れ込んだ。



「いたたたた…!あの、だいじょうぶですか…?」

唯は下にいる桜子に話しかけたが、返事はない。すぐさま桜子の姿を確認しようと下を見た唯は、絶句した。

「あ…!あああっ…!いやっ!いやあっ!そんな…こんなことって…!いやあああああああああああああああっ!」



唯の下には、勇ましい表情のまま腹が潰れて血まみれの「桜子だったモノ」が横たわっていた──

128: 名無しさん :2016/11/22(火) 00:49:37 ID:???
白衣男から逃れた古垣彩芽は、王都イータ・ブリックスの某所に潜伏していた。
新たに開発したオリジナルメカ(通称『アヤメカ』)の実戦テストと、次なる開発資金調達のため
闘技場へのエントリーを検討していた彼女は、登録用のパンフレットに目を通しながら
ネット生中継で試合を観戦していたのだが…

「一攫千金って言えば聞こえは良いけど…なーんかアヤシイ感じもするんだよね…なになに」
「闘士の階級について…エントリーした闘士の階級は『下級闘士』から始まり、勝ち進むごとに『中級闘士』『上級闘士』更に上位の『ランカー』へ上がっていく…か」

これから開始される試合に出場する二人の闘士は、両方とも女性。片方は彩芽と同じくらいの年頃の少女だ。
「春川桜子って選手は中級。もう片方、篠原唯は…新人か。それにしてもすごい歓声…あんな中で戦うのは嫌だな…」

飲み物片手に試合開始を待ちながらパンフレットを読み進めていくうち、
彩芽は闘士の契約や階級制度に潜む問題点…というより、恐らくは意図的に仕掛けられた罠…に、徐々に気が付いていった。

「確かに勝てば大金が手に入るけど…もし負けたら。それも、ボロ負けして殺されたりしたら…」

良質な装備はレンタル料だけでも値が張るが、破損して買い取り処分となった場合は莫大な額を請求される。
さらに蘇生にかかる費用は、死体の損壊具合によってべらぼうに跳ね上がる。
これらのペナルティを支払えなくなった闘士は、借金を返すまで身柄を拘束され、最下層…『闘奴』と呼ばれる階級へと落ちる。

「これ、『闘奴』に落ちたら…実質、浮かび上がるのは不可能なんじゃないか…?」

一般の闘士は使用する装備や試合を行うペースを自分である程度裁量できるが、
『闘奴』の場合はスポンサー(または闘技場そのもの…すなわち『王』)の意向に従って試合をこなさなければならない。

ロクな装備も与えられず、凶悪なモンスター相手に一日に何度も連戦…といった無茶もまかり通ってしまうのだ。

<ワァアァアァァァ!!>
<ウオォォオオオオ!!唯ちゃんサイコォォォ!!>
<ユーイ!ユーイ!><ユーイ!ユーイ!>
<ユーイ!ユーイ!><ユーイ!ユーイ!>

パンフレットに書かれた無機質な説明文。その裏に隠れた悪意に血色を失い、
一瞬でも出場してみようかと思った事を軽く後悔していた彩芽は…
中継から聞こえる殺気を帯びた大歓声で、ふいに現実に引き戻される。

画面に映し出されたのは、血まみれで横たわる春川桜子…あまりにも凄惨な光景だった。

「ちょ…何があった!?…つーかあそこまでやるのか!?…あんなズタボロにされたら…」
これまでの彼女の戦績は9勝0敗…たったの、9勝。
…そういう問題ではないのも、他人事なのもわかっているが…思わず心配せずにはいられない。
(ロストした装備…いや、蘇生代だけでも…一桁やそこら勝ったぐらいの賞金、軽く吹っ飛ぶぞ…!!)

129: 名無しさん :2016/11/22(火) 15:42:16 ID:CrxVVgAE
「素晴らしいィィィ!早すぎて何が起こったかわからないが、唯選手の神速の技が決まったようですッ!篠原唯!ウィーーーーーンッ!!!」

「あああっ…桜子さぁん…ごめんなさい…ごめんなさいいいいーーーー!!!うわあああああああああん!!!」
「篠原唯!!!泣いてないで早く戻れ!まったく…」

峰打ちで勝負を決めようとした相手に対し、内臓を破壊して勝負を決めてしまった少女の心は罪悪感で埋め尽くされていた。
自分では歩くこともできず、衛兵に肩を担がれて控え室へ戻る唯。
そんな唯の姿には目もくれず、観客たちは自分勝手に騒ぎ立てている。

<桜子の死に顔、見たか?自分が死んだことにも気づいてないってツラだったぜ!?やばいヨやばいヨ!!>
<俺、唯ちゃんのファンになるよ。あんなに可憐で触れたら壊れちゃいそうなのに、べらぼうに強いんだもん!彼氏いんのかなぁ…>
<こりゃあ唯の出る試合のS席は全部買い占めて転売しないとなぁ。確実に大儲けできるぞ…!>

突然の美少女闘士の登場に、イータ・ブリックス格闘場の興奮は次の試合が始まってもなかなか冷めることはなかった。
そして、敗者の桜子のことを気にかけるものは誰1人としていなかった…


賑わう観客席を少年たちと眺めながら、VIP席で王はにやにや笑いつつボジョレーヌーヴォーを飲んでいた。
「あのワンピースは素晴らしいな。さすがこのマントの開発段階で作られただけはある。あれがあれば本当に負けないかもしれんな…」

「えっ!?てことは王様、当初はマントではなくあの真っ白なワンピースを着るつもりだったんですか…!」
少年はつい想像してしまい気持ち悪すぎて吐きそうになったが、ぐっと堪えた。

「途中でやっぱりマントの方が王らしいと思ったので変えたのだ。」

「王様はやっぱりマントの方がいい!俺もそう思う!あと王冠もあれば完璧じゃねーかな?」
「だから敬語を使えよ…で、次の唯さんの相手はどんなヤツなんですか?」

「次は少し苦戦してもらおうと思って、人間ではない怪物を用意したよ。あのワンピースにダメージを与えることのできる特別なヤツを、ね…まあそれでも五分五分くらいだと思うがな。」

「唯ちゃんめっちゃ可愛いから、あっさりとは負けて欲しくないなー!お前はあのデカメロン姉ちゃんよりも、唯ちゃんみたいな女の子が好きだろ?」
「えっ!?ぼ、僕は別になんとも思わないさ…(なんで僕の好きなタイプを知ってるんだこいつは…!)」

  • 最終更新:2018-01-21 22:52:46

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