01.05.アリサ1

104: 名無しさん :2016/11/12(土) 00:30:29 ID:BW/dbirU
「アリサお嬢様。おはようございます。」
「おはようアルフレッド。今日はいいお天気ですわね。外を見ながらあなたのヴァイオリンが聴きたいわ。お願いできますこと?」
「承知いたしました。では中庭へ行きましょうか。」

異世界に落とされた山形 亜里沙(やまがた ありさ)は、子宝に恵まれなかった上流階級のアングレーム老夫婦に拾われていた。
亜里沙は現実世界でもお嬢様育ちであったため、この暮らしに必要な所作や言葉遣いの習得に時間はかからなかった。
今ではアングレーム家の娘として、重要な社交場にも出るほどこの生活に馴染んでいる。
山形という名前も捨て、今はアリサ=アングレームという新しい名前を得ていた。

最初こそ家に帰りたくて隠れて泣いた日もあったが、今では現実の暮らしに戻りたいと思うことはない。
両親は仕事ばかりで家族らしい会話もほとんどなく、少しでも成績が落ちればいつも父からの暴力と母からの叱責に怯えていた。
そんな疎ましい存在とは違い、今は自分を本当の娘のように愛してくれるアングレーム夫妻と、時折自らに襲いかかる得体の知れない男たちから守ってくれる執事のアルフレッドがいる。
アリサはこの暮らしに満足していた。

「お嬢様。本日の剣のお稽古ですが、シュナイダー先生がご病気のため私が務めさせていただきます」
「アルフレッドがわたくしの相手をしてくださるの!?嬉しい!最近シュナイダー先生は座学ばかりで退屈していたところなの。きっともうお年を召していらっしゃるから私の相手は難しいのよ。久しぶりに楽しい時間になりそう!」
アリサはニコニコと笑いながらスキップを踏んで見せる。
「アルフレッド、今回は手加減は不要よ。もしわたくしが勝ってあなたのプライドを傷つけてもお許し遊ばせ?」
「いいでしょう。お嬢様の腕前も今となっては侮れませんからね。私も久しぶりにいい汗を流すことになりそうです」
アリサは今までアルフレッドの本気を見たことがない。アリサが暴漢に襲われた時も顔色一つ変えず息をするようになぎ倒してしまう。
そんなアルフレッドが嘘でも自分に本気を出すと言ってくれたことが、アリサは嬉しい。今の自分の実力では勝てないことはわかっている。それでもアルフレッドに自分の努力を認めてもらいたいのだ。
アリサは、アルフレッドに対して執事としては別の好意を抱いていた。

105: 名無しさん :2016/11/13(日) 11:27:14 ID:???
その日の夕暮れ、屋敷の庭外れに建てられた稽古場で。
アリサは愛用のレイピアを手に、アルフレッドが来るのを独り待っていた。
アングレーム家に伝わる純白の戦闘着を身に纏っているのは、「本気」のアリサの決意の表れ。
アルフレッドと本気で戦って、もしも一本でも奪う事が出来たなら…この胸に秘めた想いを、彼に伝えよう。
その結果がどうなろうと、後悔なんてしない…そう、心に決めていた。

「…遅くなって申し訳ありません、お嬢様。思っていたより『仕事』が長引いてしまったもので」
…やがて日はすっかり落ち、宵闇と静寂に包まれた稽古場。現れたアルフレッドは、
いつもの執事服ではなく、限りなく黒に近い深紫の装束を纏っていた。
片手にぶら下げた、メロンほどの大きさの三つの塊からは…赤黒い雫が垂れ落ちている。

「…アルフレッド、なんですの…? その手に持っているものは、一体…」
「この首ですか?お嬢様もよくご存知でしょう…旦那様と奥様、それにシュナイダー先生ですよ。
先生ももうお年を召していらっしゃるのに、流石と言いますか…お陰で随分と手古摺らされました」
アルフレッドは、微笑の表情を崩さないまま…三人分の生首をアリサの足元へ無造作に放り投げる。
いつもと同じように、端正な顔に優しげな微笑が浮かべたアルフレッド。
だが今のアリサには、その微笑が何かおぞましい物を覆い隠すための仮面のように見えた。

「一体…何を言っているの…悪い冗談はやめて、アルフレッド……お願い、だから…」
アリサは震えながら剣を構え、じりじりと後ずさる。
だが、アルフレッドの全身から発される血の匂いと殺気が、
今の状況が冗談でも夢でもない事を無言のうちに告げている。
「使用人も全て始末しました。残っているのは…貴方だけです、お嬢様」
アルフレッドは血に染まった剣を手に、アリサに襲い掛かった!

106: 名無しさん :2016/11/13(日) 11:40:59 ID:???
優しかった父が、母が、先生が、足元で物言わぬ屍と化し、
ずっと恋い焦がれていた相手が今、自分を殺そうとしている。
何が起こっているのか、アリサには理解できなかった…否、理解したくなかった。
(いやっ…信じられない、信じたくない…お願い、誰か…嘘だと言って…!)
アルフレッドの攻撃は明らかに加減されたものだったが、それすら今のアリスには捌くだけで精いっぱいだった。

「貴女を始末する前に一つだけお伺いしたい事が…この家に伝わる『ある物』についてなのですが」
アルフレッドは、それを探すためにこの屋敷に使用人として入り込んだのだという。
長い年月をかけてアングレーム卿の…お父様の信頼を築き上げ、機会を窺い…
「いやっ…知りませんっ……わたくしは、何も…」
お父様とお母様は今朝だってあんなにお元気で、わたくしの誕生日祝いにと、
『白き剣士』の礼装とペンダントを下さった。なのに一体なぜ、こんな事に…!

「お嬢様、仰るつもりがないなら…少々痛い目に遭って頂きます」
アルフレッドが無感情にそう宣告すると、細身の直刀が、アリサの鼻先数センチの所に突き付けられる。
その黒い刀身は、まるで電動ドリルのように先端から螺旋状に捻じ曲がっていた。
突然、アリサの目の前に数字が浮かび上がり…


「我が剣『運命の螺旋』の能力をお見せしましょう。
>>107が告げる。この剣が、貴女のどこを刺し貫くかを…」

107: 名無しさん :2016/11/13(日) 19:46:13 ID:Zjb8K0KY

108: 名無しさん :2016/11/13(日) 21:57:55 ID:???
「何ですの、今の声は…!?…でも、攻撃される場所が分かっているなら、避けること位は…」
『能力』の正体はわからないものの、予告された両脚への攻撃を警戒して後方に跳躍するアリサ。

「それは不可能です、お嬢様。何故なら…」
だが…アルフレッドの右手が剣を突き出すと、黒い細身の刀身がねじ回しのように回転し始める。
回転する剣先は空間を歪ませ、何もない虚空に穴が開く。そして…

(ギュン…!!ズブッ!ぎゅるるるる…!)
次の瞬間、魔剣の切っ先はアリサの目の前の空間から突如として現れ、
さながら電動ドリルのように、回転しながらアリサの右脚の太ももを貫いた!
「う、あ"ぁぁぁぁああああぁぁぁっ!!あ、ひ、いぎいいい!!」

黒く捻じれた刃を持つ魔剣が、アリサの太股の肉をえぐりながら喰い込み、
白いガーターベルトを巻き込んで切り裂き、一瞬で脚を貫通して、腿の裏側からその切っ先を覗かせた。

「…この剣が告げるのは、『攻撃する』という『予告』ではなく『攻撃され、貫かれた』という『運命』。
故に、いかなる手段を用いても逃れることはできません」

アルフレッドは、長年共に生活した少女の悲痛な叫びにも、眉一つさえ動かさない。
黒い剣が、今度はゆっくりと回転しながら引き戻され…少女の太股の肉をごっそりと削ぎ取っていった。

すらりと健康的に伸びたアリサの太股からはどくどくと血が噴き出し、
白いブーツ、ストッキング、スカートの裾…アングレーム家伝統の戦闘衣装は、
たちまちにして赤く染め上げられていく…!

109: 名無しさん :2016/11/13(日) 22:04:34 ID:bl64497Q
「い"あぁぁあああぁぁああッッッ!」
焼けるような痛みが右足を中心に全身を駆け巡り、獣じみた悲鳴を上げ続けるアリサ。
長年共に生活し、自分を慕っていた少女が苦痛に悶えてのたうち回る様を、
アルフレッドは眉根一つ動かさず見下ろしていた。

「さて…教えて頂けますか、『お嬢様』…アングレームの遺産について」
「ひっく、んぐ、ぅぅ…わたくし…何も知りません…本当に、何も…」

アルフレッドは、恐怖と苦痛に歪むアリサの顔を覗き込み、
『本当に何も知らされていないのかも知れない』と思い始めていた。
どの道この娘を生かしておくつもりはないが、念のためもう少し『質問』を続けることにしよう…


「『運命の螺旋』よ…次なる運命を、
>>110 に表わせ…」

110: 名無しさん :2016/11/13(日) 23:35:13 ID:???
利き腕ではない左腕

111: 名無しさん :2016/11/15(火) 02:17:47 ID:???
「はぁっ…はぁっ……っ、っく…!」
(このままでは…本当に、殺される……)
胸元のリボンを傷に巻いて止血を試みたものの、この傷では魔剣の暗殺者から逃げる事は不可能だろう。
なんとか立ち上がれたとしても…
(攻撃のチャンスは…おそらく一度…)

一方。リボンを解いた胸元から、赤い宝石のペンダントが転がり出るのをアルフレッドは見逃さなかった。
そこに刻まれた印は、不死鳥を象ったアングレーム家の紋章に間違いない。
探索対象である『アングレームの遺産』と、何らかの関係がありそうだ。
アルフレッドはペンダントを調べるため、アリサの元へ歩み寄る…

「近付いて、くる…間合いまで、あと5歩…4、歩…」
こちらから仕掛ける余力はない。相手に気取られないよう息をひそめるアリサだが…
おびただしい失血と激痛で、ともすれば意識を手放してしまいそうになる。
(もう少し…あと、2歩…)
…だがアリサの剣が届く間合いまで残り一歩半、という所でアルフレッドは歩みを止めた。

「お嬢様。そのペンダントをこちらに渡してください。そうすれば、この場は見逃して…」
間合いはまだ少し遠いが…既にアリサは体力、精神力とも限界に近かった。
今を逃せば、次はない…そう判断し、アルフレッドの言葉が終わる前に奇襲を仕掛ける!

………

「やあぁぁっ!!」
アリサは両腕と左足のばねを使って体を起こし、血だまりの中を跳ねるように…一歩。
読んでいたとばかりに剣を繰り出すアルフレッド。空間が歪み、剣先が回転しながら虚空へと消える…狙いはアリサの左腕。
アリサは負傷した右足で更に半歩踏み出すが…傷の痛みで、ほんの僅かにバランスを崩した。

「…っ、…く…!!」
更に血だまりに足を滑らせ、体が右に大きく揺れた。魔剣の切っ先が、左肩を掠めていく。
一瞬、右脚に全体重が掛かり、アリサは倒れそうになるのをギリギリのところで踏み止まった!

その瞬間…右脚から飛んだ血飛沫が、アルフレッドの目に飛び込む。
同時に、アリサの渾身の突きが、アルフレッドの喉元へ突きつけられた…

………

112: 名無しさん :2016/11/15(火) 02:19:09 ID:???
…だが。

「言ったはずです…『運命』からは逃れられない」

(ズブッ…!)
アリサのレイピアがアルフレッドの喉に突き刺さる寸前。
一度はかわしたはずの魔剣の切っ先が、白いロンググローブに包まれた上腕に深々と突き刺さった。

「そん、な…う、ぎっ…!」
一気に上腕を貫通した魔剣の切っ先は、更に伸び、再び空間に穴を開け…
(ドスッ…!)
やや斜めの角度で、肩口から二の腕にかけてを刺し貫いた。
「っぁぁぁああ"あ"ああああ"ああっっ!!」
白いブラウスとロンググローブが鮮血に染まり、アリサは悲痛な叫びを上げる。

(もう少し……もう…少し、なの、に…!)
左腕を貫かれたせいでそれ以上前に出ることが出来ず、アリサはアルフレッドに剣を届かせることが出来なかった。
右脚は失血によって感覚が失われ、気付けば全身は氷のように冷たくなっている。
(…カツン……)
残された右手も握力を保つことは出来ず…白銀のレイピアが血だまりの中へ零れ落ちる。
視界が急速に暗くなっていく。当然、立っていられるはずもない。それなのに…
アリスは両膝立ちの姿勢のまま、倒れることが出来ない…左腕が魔剣によって空中に縫い止められているせいだ!

「まだ眠ってもらっては困ります、お嬢様…聞きたいことがありますので」

(ぎゅるるる…ぐちゅ…ずちゅっ…)
アリサの血と肉を削りながら、黒い剣の刀身が回り始める。
機械人形のねじを巻くように、ゆっくりゆっくりと…

「っ…あ、ひっ…ぐ、あ"ぅぅっ…!!」

113: 名無しさん :2016/11/15(火) 23:33:49 ID:ra8A1Ogg
傷口から絶えずどくどくと溢れ続ける血。それを見てアリサは悟った。
もう助からない。絶対に。
この出血で助かるわけがない。
視界も感覚も意識も、今は全てが遠い。
そしてとにかく寒い。
雪も降っていないのに凍えそうな感覚を感じるのはなぜか、わからない。
なぜか実の両親の笑顔が浮かんだ。

今まで何度も自分を窮地から救ってくれた心優しい執事は、なぜ、なぜ目の前で涼しい顔をしているのだろうか…
アリサはこの後に及んでまだはっきりと事実を受け入れることができなかった。
ただ一つわかることは、この恐ろしい暗殺者に、ここで自らの命を奪われるという厳然たる残酷な事実のみ。

朦朧とし混濁する意識の中でアリサはアルフレッドを見上げた。
その表情にいつも感じていた優しさや美しさはなく、感情のない能面のような薄気味悪い顔が自分を見下ろしている。

「アル、フレッド…どうして…!どうしてですの…?わたくし…まだ悪い夢を見ているようですわ…」
「仰る通りです。お嬢様。これは悪夢なのです。もうしばらくすればあなたは普段の日常に戻れますよ。」
アルフレッドが冗談を言ったのをアリサは初めて聞いた。
「あなた…ユーモアのセンスは…壊滅的だったんですのね…!ぐうぅっ!」
アルフレッドは突然アリサの胸元を力強く掴んだ。
「本当に残念です。お嬢様が大人しく遺産の場所を教えてくだされば、こんなことにはならなかったかもしれません…」
アルフレッドはアリサの胸元を強引にまさぐり、先ほど確認したペンダントを奪い取った。
「大方このペンダントに秘密があるのでしょう。どう使うのかはわかりませんが、じっくりと調べさせていただきます。お嬢様は天国で旦那様達とお幸せになさってください。」
そう言うとアルフレッドはあっさり踵を返し、屋敷の中に戻っていった。
もはや声も出せない状態のアリサは、薄れゆく意識の中で自分の運命を呪った。
たとえ住む世界が変わろうと、決して自分は幸せになれない運命だったのだ…と。

その翌日、新聞の一面を飾ったのはアングレーム家で起きた大量殺人事件のニュースだった。


  • 最終更新:2018-01-21 22:51:11

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